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2019年もっとも心を揺さぶられた飲食店のこと

意識して新しい店に出かけた年だった。
立ち飲みとはどういうものなのか、自分が思う"いい店"とはどういうものを指しているのか、あとから思うことは色々ある。ある店で常連さんが「私ここにばかりいつも来ちゃう。他にあんまり知らないかも」と言い、店主が「行きつけなんて、そんな何軒もいらんしな」と応じるのを聞き、貪欲すぎるのかもしれないと足下が揺らいでいた。

そんな折、開店したばかりの店についてGoogle Mapsで書かれているのを見た。
「食べログには書かないでって言われたからここにこっそり書くけど!」「めっちゃうまい」「サワガニの素揚げが最高」数件とはいえ妙に気分が高揚して書き込んでいるらしいのが伝わってくる。

行ってみたらサワガニは季節柄もう終売とのことで、鱧の焼き霜と鱈白子の天ぷらを頼む。
鱧がだれてない、ほんのりピンクの焼き霜で、ツマが明らかに手で切られてサラダとしても美味しいやつだ。めずらしい。あと、ワサビが♡になっている。


鱈白子の天ぷらは「天つゆにするか塩にするか」を聞いてくれた。
いい店だな、と思う。

名残のサワガニが入荷したという告知を見て、再び足を運ぶ。
雨模様のこともあり、運良く在庫がある。目の前のガラスボウルで仲間を踏みつけて曲面を登っては落ち登っては落ちするサワガニを見て「愛着湧いたりしませんか?」「エサやったりしてるとかわいかったりはする。脱走したりもするし案外たくましい。でも食べる」と聞いて笑いながら「でも食べる」に眉をひそめるひとと、分岐があるだろうと頭をかすめる。(もちろん私自身も、それはそれとして食べる方だ)


サワガニの素揚げ、脚がカリカリなのに比べて体の部分が少しフワッと柔らかいのにびっくりした。ソフトシェルクラブか?だいたいサワガニはガリッガリに揚がってるものばかりでは???
「サワガニは淡水に生息してるから、寄生虫怖くて安全を見てきつめに火を通すとこが多いな。でもカニはミソがうまいやん?だからその美味しさも残すように揚げてる」
そんなこだわり方をしてるの初めて聞いた。

また別の日に、シシャモのお造りを出すという告知を見た。
北海道の一部でシシャモを刺身で食べられると聞いたことはあるけど、関西で?と駆けつけたら既に売り切れで話だけ聞く。
「そう!俺も大阪で食べられる思わへんかった。お造りいけんねや!って。アニサキスめっちゃおるから取り除くのも手ぇかかるし、大変やねんけど『シシャモを生で!?』というのをお客さんに体験してほしくて。とにかく食べてみてほしいから、そこまで高くもしてない」
値段設定を聞いたら、安い…。
「でも、めっちゃ量少ないで!魚自体ちっこいし」
量の問題じゃない、手間と、めずらしいのとで値打ちがあるのに。
「それ分かってくれるひとがおったらええわ」とニコニコしていた。

ツマを手で切っているのは自分が美味しいと思うからやっているとはいえ、残されることがほとんど。
手を抜いてやろうかな、と思うこともあるけれどやめない。自分で譲れないと決めたことだから。ちゃんと美味しいと分かってくれるひとが100人中に2人か3人いたらええかな、とも話していて泣ける。
報われない祈りに近い。以前「書くことは祈りに似る」と思ったことがあったが、料理をつくることも信じること、祈りに通じるところがある。

狭い立ち呑みの店内は10人入れるか入れないかでいつもぎゅうぎゅうだったのが、最近は新型肺炎を恐れる影響で難波あたり軒並み空いており、新規客が減っているらしい。行くチャンスとも言える。

その日の新鮮な魚介以外にも、出汁巻きやコロッ平(とん平焼きのコロッケバージョン)もハッとする美味しさがある。
コロッ平は、はいコロッケに玉子にソースにマヨでしょう、美味しいに決まってるじゃん!と予想していたよりだいぶ美味しかった。コロッケ自体が美味しい上に揚げたてだから、衣がしんなりしておらずサクッと感があってコロッケと卵の間に然るべき空気の層がある。侮ってごめん。店主の出身の堺市で美味しい肉屋から買ってるコロッケらしい。

立ち呑み やっすん(Google Maps)
〒542-0073 大阪府大阪市中央区日本橋2丁目6−8

黒門市場の近くだけど仕入れは木津市場だそうです。(木津市場いいよね!)
お店の情報発信はInstagramのみ。
定休日書いてないのは「30連勤して5日休む」みたいなリズムで営業しているため。休みます、と書いてない限りは営業している。
店主は見た目も体力も細胞レベルで若いけれど、突然倒れない?とひやひやする。
魚介が好きなひとは、一度行ってみてほしい。
常連さんも多いけど新規も多く、分け隔てなく接してくれる。

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