初級者と中級者を隔てるモノは何か クリエイターの為の批評コラム

順を追って体系的に仕上げようかとも思ったんですけど、ランダムに思いついた事をいくつか取り出して、それらを深く掘り下げていく形にする事にします。

今回はまず、抽象的にどんな媒体・ジャンルでも当てはまる事をまとめてから、物語制作に活かす場合を書こうかなと。


大体の基礎を知り、演習と実践を経て最低限必要な一揃いの知識や技術を身につけると、初級者は卒業、中級者のステップに移る事になります。

確か橋本治だったと思うのですが、曰く、「中級者のやるべき特別な事はない。初級でやった事を繰り返すだけ」。素早く、ミスを減らし、初級の基礎に習熟する事、を指すようです。僕自身も反復練習最強説の信奉者なのでこの意見には個人的に賛同したい所ですが、物語制作という固有の分野では(それでも幅はありますが)、中級者は応用の効くバリエーションを組み込んでいく事が肝ではないかと思います。

現状、何らかの形で物語を作れる人は非常に増え、ハウツー本も多く出揃っている為、少し調べれば物語の作り方が分かり、少しやってみればそれらしい物が出来上がります。はい、これで初心者の完成ですね。

でもそういう人はいくらでも、本当にいくらでもいて、その少し上くらいも相当いて、更に3、4段上になってプロになる為の壁に達したところでライバルはまだまだぞろぞろいる状態。意外と大変な割にさして持て囃されもしないレアリティの低いクリエイターが、業界全体の傾向として兼業化していくのも分かろうとゆうものですが、それはそれ、中級者は初級者を越え上級者やプロに近づくべく幅を広げ基礎を使い慣らす必要があります

身につけた基礎を、効果的に使えるようにする。

あるいは視点を変えて、現状に対応した成果を出す為に、基礎を利用する。


どういう事か。

物語作りにおいて日本では、ウラジーミル・プロップ『昔話の形態学』が有名ですが、ここに示されている「31の機能」とその配列順を利用する事で物語を作る事ができるとは言うものの、この『昔話の形態学』はその名の通り昔話の、具体的にはロシアの魔法民話に限った構造と機能をテーマにしているもので、そんな代物を使ったらロシアの魔法民話みたいな物が出来上がるに決まっていますから、現代日本でウケるはずがありません。ではどうするか。

「現代日本でウケている(自分が書きたいジャンルの)話の形態学」を自分で作るのです。読んで、パターンを覚えて、抽象化して取り出し、要素やモチーフを「機能」のように関係づけたり配列したり、それに当て嵌めていくだけでストーリーが完成するような構成パターン(型)を持つのです。

プロップは3桁の魔法民話を分析したそうですが、それぐらいやればディテールはともかくプロットはいくらでも作れるようになりそうですね。中級者のプロットへのアプローチと言うと簡単にして細部の描写を凝るか、複雑にして描写を犠牲にしつつどうにか結末まで漕ぎつけるか、を両極にした枠内にあるかと思うのですが、面白さやウケの良さをジャッジしながら予定のプロットを進行させ、且つ細部の描写に味を出したりキャラクターの魅力を見せつけたりという技巧や熱量を込めるとなると、やはり中級者にはまだ荷が重いのかなと。

難易度を基準にステップを考えると、中級者はまず基礎を基準にバリエーションを増やしてみる。次にウケそうな形に近づける。になりそうですが、実際にはまずウケそうな事をやってみて、上手くいかなければ基礎に戻る、という方がモチベーションは保てそうな気がします。これは人に依るのかもしれないので実践の際はどちらでもお好みでどうぞ。


さて、前に散々「魅力的なキャラクターを作れ」と書いておきながら全然キャラクターの話をしていない事に気付いた僕は、ここからキャラクターの話をしたいと思います。

そもそもどうして物語作りの話が真っ先にキャラクターの話にならなかったのかと言うと、物語を作るとなるとストーリーやプロット類型の話になるのが構造論の、つまり学術的アプローチの傾向であって、物語制作メソッドの紹介もそして僕自身もまずプロットやストーリー構造の話から始めてしまうのが無自覚な前提となっていたからです。

こんな言い方をするのはナンですが、民話の主人公って全然面白くないんですよ。大体男が旅に出る話って嫁がいないか仕事がないかの2通り。動機がそれで、解決する為に何かしら難題が出てそれをクリアして欠落を埋めて(嫁か仕事をゲットして)終わり、みたいな。途中道が通れなくてサブクエスト入ったりとか難題クリアするのに助けがあったりとか、多少はバリエーションあって伏線らしきものもないわけじゃないけど少ないし。ほら、物語の筋の話の方がまだ話題になるレベルでキャラが起ってない。

ところが現代日本ではキャラが起って魅力的じゃないといけないのは大前提ですから話を戻すと。

キャラクターの作り方がある程度分かっている中級者の場合、既に書いたようにバリエーションを豊かにできるかが肝だと思います。基礎的な特徴(ウケそうな要素)を選んでそれを軸にキャラクターを造形する時、何故そうなのか、それをどうしたいのか、それについてキャラクターはどう思っているのか、それらはそのキャラクターの目的や目指す何かとどんな風に関わるのか、などの肉付け・具体化の発想が多様であるか。幅は十分に広いか。発想が狭く似たようなものばかりにならないよう、極端でぶっ飛んだ奴が作れるか。「仕事がない」なら何故ないのか、どうしたいのか、その説明の過程でそのキャラクターがどんな人物(価値観や倫理や知識の程度や人間関係など)かを知らせる事ができます。「彼女がいない」でも同様で、つまりキャラクター造形が出来上がればストーリーの組み方も自ずと決まってくる(中級者レベルでは)。

プロットやストーリー構造について十分に抽象化された知識(流行りのジャンルのパターン等)を覚えていれば、キャラクターを具体化していくプロセスで既にストーリーは動き出します。逆にキャラクターが出来上がった後、上手くストーリーが動かないのであれば、プロットを学ぶか、必要なキャラクターが足りないかでしょう(あるいは書きたいストーリーや価値観と舞台の世界観がマッチしていないのかもしれませんが、それはここでは扱いません)。

基本的に、おおまかなストーリーやプロットは後天的に学習する事で十分に身に付きます。魅力的なキャラクターを作る事が出来れば、後は努力で何とかなるという事です。

そして主人公が決まれば、仲間やライバル、単なる敵やザコ、ボス、上司や第三勢力など、関係性を構築し物語全体を彩る人間関係相関図を描く作業に入る事ができます。

主人公の目標は恋愛の成就と仕事上の成功の両立ですか? それとも世界を救う事? どちらにしてもそれ以外でも、魅力的なキャラクターが常にそこにいる事が何より大事です。そのキャラクターがそのキャラクターとして魅力的なだけでなく、関係する事、共にいる事や衝突、協働や援助、抑圧や敵対の中で輝く。そんな一幕を描く為には各々のキャラクター造形とシークエンスの構成パターンの知識が不可欠です。

プロットやシークエンスのパターンがあってこそ描きたいシチュエーションが成立し、キャラクターの魅力が発揮されるシチュエーションが先に思い浮かんだ時もその前後の展開をどうコントロールし、そのシチュエーションが全体の中でどのような役割を担う事になるのかを強く関連付ける事が、魅力に説得力や厚み又は勢いを持たせる重要な要因となります。


プロット・ストーリー構成とキャラクター造形とは、別々に鍛えながらも連携して理解し、発想・構成していく事に慣れ、バリエーションを増やす事が、中級者の課題のひとつとなるでしょう。

多分、続きます。



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