オフィスひめの通信 75号
―朝ごはんを食べましょう―
この通信が皆様のお手元に届くころにはすでに桜前線がかなり北に進んでいることでしょう。厳しい受験や就活を経て新入生、新社会人になられる皆様、おめでとうございます。期待と不安がいっぱいのことと思います。
皆様の中には一人暮らしを始める方も多いことでしょう。そのような方に今回はこのような言葉を贈らせてください。
「朝ご飯を必ず食べましょう」
実家に住んでいるうちは、朝ごはんが用意されていたりして、時間がなくても急いで朝ごはんを食べて出ることが出来ました。一人暮らしでは前日のうちに作るか材料を買って置くかしないと、朝ごはんを食べることが出来ません。実家に住んでいても仕事が忙しくなると、夜遅く疲れて寝て、朝ぎりぎりまで寝ていて、慌てて家を出る頻度も増える可能性があります。
令和元年に農林水産省が若い世代(20~39歳)の食の現状を調査したところ、朝食を欠食する若い世代の割合が25.8%、特に若い男性では31.5%と高いことが示されました。食べない理由の第一は「朝早く起きられないこと」でしたが、少し気になったのは女性のたべられない理由の第二位に「朝、食欲がない」が上がっていたことです。
朝の食事は胃腸や脳、ホルモンに働きかけて一日の始める準備をさせる役割があります。一日の最初の食事がずれ込むと、生活リズムが後ろにずれて「夜遅く食べる、夜遅く寝る、朝起きられない・食べたくない」の悪循環になっていきます。学校や仕事の始業が特別遅いという事情がない限り早寝早起き朝ごはんを実行していかないと、遅刻を繰り返したり、行っても能率が上がらないなどの事態になり、留年や退学、仕事をやめようかと悩むなどの事態になりかねません。
調査では「主菜・副菜を組み合わせた食事を1日2回以上ほぼ毎日食べている若い世代の割合」も低いことが判明しました。おにぎりだけ、パンだけ、麺類だけの食事、おかずがあっても一品だけの食事では必要なビタミンやミネラルがまかなえない可能性が高く、特にミネラルの不足が懸念されます。ビタミンやミネラル、たんぱく質の不足は疲労感や睡眠の質の低下、いざというときに頑張れない、不安になりやすくストレス耐性が低いなど様々な問題に直結します。髪が抜けやすいとかあざが出来やすい、むくみやすい、風邪をひきやすいなど病気とまでは言えない不調に関係していることもあります。
料理をする時間がないと考えている若い人は多いですが、最近は、お米を炊く以外の調理も可能な小さなサイズの炊飯器、調理がボタン一つで出来る電子レンジなどもあり、温めれば食べられるお届け総菜なども充実しています。枝豆や豆腐、しらす干し、めかぶや納豆などそのまま食べられる食品も立派なおかずです。さっとゆでた青菜、大きな鍋に材料を丸ごと入れたポトフなど、やってみればあまり手間がかからず栄養価たっぷりの料理もたくさんあります。
食事は心身の健康づくりの基本です。
早寝・早起き・朝ごはんを実行して、皆様が充実した輝かしい未来を実現することを祈っております。
―若い女性の痩せ―
BMIでの普通体重は18.5~25と定義されています。意識調査では18.5未満の「やせ」の方や18.5~25の「普通体重」の女性のほとんどが「自分は太っている」とか「やせたい」と思っているという結果でした。栄養医学的には、BMIだけで太っているとか痩せているとかを判定することはあまりありません。同じBMIでも体組成や糖脂質代謝には大きな違いがあるからです。それでも、BMIが低すぎる方は、栄養医学的な解決が必要だということをお伝えしたいと思います。
一般にBMIが低いことは筋肉量や骨量が少ないことを意味します。筋肉は体を動かす以外に貯蔵庫としての役割を持っています。糖の貯蔵型であるグリコーゲンの8割は筋肉に存在し、筋肉量が減ると蓄えられる量も減ってしまいます。また筋肉のアミノ酸は絶食時に肝臓に運ばれ糖新生に使われます。つまり筋肉は血糖値の安定に寄与しているのです。痩せたくて糖質制限をしすぎるとエネルギー源不足によって筋肉が壊れて本末転倒です。
骨に関しても閉経を迎えると骨密度や骨量が急激に減ることが多いため、若い時に骨量を増やしておくことが将来の骨粗鬆症の予防につながります。
脂肪を目の敵にする方もいますが、必須脂肪酸やコレステロールはホルモンバランスや細胞膜の正常な機能に大切な役割を果たしています。総コレステロールが低い方は、コレステロールを合成運搬する余裕がない危機的な状態と考えた方がよいでしょう。生理不順や不妊などにつながりかねない重大な問題です。体内ミネラル測定のオリゴスキャンではBMIの低い方ではミネラル欠乏が改善しにくい傾向もあります。
様々なダイエット法に手を出す方もいますが、体に栄養を満たしてエネルギー産生を活発にすることが大切です。血糖変動が減ると、飢餓感のある空腹ではなく自然な食欲に変わってきます。栄養が満ちてくると自然にその方の理想の体重に近づき自己を肯定する気持ちに変わってきます。試してみてください。
―腸の畑を育てよう―
腸には消化、吸収以外に、ビタミンなどの合成、有害物質の排泄、免疫調節、腸脳相関など様々な働きを持っています。今年は早くからスギ花粉が飛び花粉症が憂鬱だという方もいらっしゃるでしょう。免疫は花粉症やアトピーのようなアレルギー、異物などを攻撃する免疫反応、免疫を起こさないようにする免疫寛容のシステムなどのバランスの上に成り立っています。腸内細菌は消化管粘膜下にある免疫司令塔に影響を与えます。花粉症に効く乳酸菌が研究されているのはそのためです。
共生細菌は有用な物質を合成する役割も持っています。例えばナイアシン、ビタミンB6や葉酸、ビタミンB12、短鎖脂肪酸(プロピオン酸、酪酸、吉草酸)、乳酸などを合成してくれます。短鎖脂肪酸は大腸の上皮細胞の増殖や粘液の分泌を促し、ミネラルなどの吸収のためのエネルギー源となる物質です。また、腸内を弱酸性の環境にして有害な菌の増殖を抑制したり、大腸の粘膜を刺激して蠕動運動を促進したり免疫反応を制御したりしてくれます。
ストレスや悪い食習慣などは有害微生物を増やします。有害な菌の一部はβグルクロニダーゼを産生し、肝臓がせっかく無毒化して排泄した物質を、再度有害な形に戻し再吸収させてしまうことがあります。
マイクロバイオミーという便中の遺伝子を増幅する検査があります。各種の腸内細菌の多寡の他、腸内細菌が持つビタミンや短鎖脂肪酸を作る能力、有害菌による腸バリアや免疫、脳への悪影響の程度なども示してくれます。
マイクロバイオミーのレポートでは、足りない善玉菌を増やすためにはどのような食品を摂ったらよいのかとか、実際にヨーグルトやサプリメントに入っている菌について不足しているかどうかを教えてくれます。また、医療機関専用レポートでは増えている有害な菌を示唆してくれています。腸活!と言っても具体的に何を摂ったらよいかわからない方は検査を検討してみてはいかがでしょうか。
執筆:西澤真生(ひめのともみクリニック医師)
発行月:2024年4月
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