【ミニエッセイ】〜音あそび〜
それは20年くらい前のこと
早朝のいつもの喫茶店は
新聞を読む御婦人
4人くらいでおしゃべりに夢中になって
つけたたばこも忘れて笑顔のおじさま達
週刊誌を見ながら無口に
コーヒーカップに手を伸ばしている女性
いろんな人間模様の中
カランコロン♪と音を立て
書道カバンを手に持ち私は入口をくぐった
バスを降りてから書道教室の始まる時間までの40分ほどの時間をいつもここで過ごした。
若い人の少ない
この喫茶店がなんだかとても落ち着く。
だいたいカウンターからほど近いいつもの
このテーブルに座る。
メニューのコーヒーは
アイスコーヒー
アメリカンコーヒー
ホットコーヒー
の三択しかないので
メニューは開かずホットコーヒーを注文していた。
ドリップをしている香りはいつもしない。
そこには期待はしていなかったから
いつものように週刊誌をペラペラとめくっていた。
私が期待するもの
それはもうすぐ。
ママさんがカウンターからコーヒーを運ぶ
あの足音…
来る 来る!!
1 2 3 4 トンっ!
「おー!これこれ♪」
必ず5歩目で私のテーブルにコーヒーを置く。
このいつものリズムが大好きで
あえて週刊誌で目を奪わせて
耳だけでこの時を待っていた。
今日もなんとも気持ちいい。
それがママさんと私の無言の楽しみであった。
何年も通いつめると予期せぬことがあるもの。
いつものように週刊誌に目を奪わせているとあの足音が
来る!来るぞ!!
1 2 3トンっ!?
「??」
ええっ!!とびっくりして見上げると
してやったりと満面の笑みのママさん
あのカウンターから4歩では来れまい。
さては初めの一歩だけ
私には気づかれないように 忍び足で
そっと来たのかもしれない。
「やられたな〜」私も思わずニンマリ笑顔に。
テーブルに置かれたコーヒーが笑顔の二人をそっと見上げていた。
今も目を閉じると
懐かしいあの足音が聞こえてくる。
1 2 3 トンっ!!
どんな時も私を笑顔に変えてくれる
あの足音。
元気でいてくれるといいな。
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