見出し画像

私にとっての「いいコンテンツ」の基準

「イラストが描きたい、水彩がやりたいなど、いきなり手法から入ると、結局何がいいたいのか分からなくなってしまうことがあります。作品を作るときは、まず “伝えたいことは何か” から考えましょう。」

高校の美術部で言われた恩師の言葉が、思い返せば私の原点となっている。幼い頃から絵が好きだった私は、高校進学と同時に美術部に入った。地方のちいさな田舎町にあった美術部は、小規模ながらも毎年全国大会に出展しているような部活だった。

当時の美術部。なつかしい。

美術部=練習して上手い絵を描けるようになる場所

入学式が終わったばかりの私は、「高校の美術部」に対し、タイトルのようなイメージを持っていた。物心ついた時からひたすらキャラクターイラストを描いていた私は、とにかく人物の絵を書くこと、上手くなることにしか興味がなかったのだ。

いい絵=技術的に優れた絵 のことだと思っていたし、技術的に優れた絵を描けるようになりたい。そのためにはまずデッサンをやりたいし、ゆくゆくは油絵や水彩画もやりたい。

とにかく技術と手法にのみ注目していた私は、美術部に対しても「デッサンとか平面構成とか練習して、上手い絵を描けるようになる場所」だと思っていた。

言い換えれば、「いい絵=技術的に優れた絵」だと思っていた。

美術部=自分の伝えたいことを考える場所

結論からいうと、美術部は「デッサンとかひたすら練習して、上手い絵を描けるようになる場所」ではなかった。大人になった今振り返ると、あの美術部は手段と目的を考える場所だったと思っている。

入部してから分かったことだが、美術部員は全員、毎年冬に開催されるコンクールに出展するための作品を提出する。コンクールで県内トップに上り詰めた作品は、さきほど説明した全国展に出展されるのだ。

そのため、部員はひたすら作品を作っていた。ジャンルは油絵から陶芸までさまざま。「作品を作る時間」が優先され、「デッサンとか練習する時間」は空き時間に行われた。

技術があっても、作りたいものがなければ意味がない

はじめての作品制作をしたとき、私はつまづいた。何を描いていいか分からないのだ。

なんとなくキャラクターが描きたい、水彩絵の具で描きたいという希望はある。やりたいことがちゃんとあるにも関わらず、いざ真っ白なキャンバスを目の前にすると、な〜んにも手が進まないのが不思議だった。

そこで、顧問のY先生が私に声をかけた。

「イラストが描きたい、水彩がやりたいなど、いきなり手法から入ると、結局何がいいたいのか分からなくなってしまうことがあります。作品を作るときは、まず “伝えたいことは何か” から考えてみましょう。」
「ゴールがはっきりしてから、目的に合った表現手段を選ぶように。“伝えたいこと”が水彩のタッチで表現できそうなら、水彩でやってみましょう。」

Y先生の言葉は的を得ていた。背伸びして手に取った自己啓発本に載っていた「目的と手段を間違えるな」はこの事だ、と妙に納得した。

① 伝えたいことをはっきりさせる
② 目的に合わせて油絵か水彩か選ぶ
③ 描きたい要素に優先順位をつける
④ 優先順位にしたがって大小、濃薄を調整

“伝えたいこと”が分かると、すらすらと筆がのった。目的がはっきりしているため、何をどこに描けばいいのか直感的に理解できた。技術的にはお世辞にも上手いとは言えなかったが、あれだけ真っ白だったキャンバスがひとまず埋まり、納得感のある作品が完成できたのは嬉しかった。

結局、コンクールで賞に入ることは無かったが、私はこの美術部でとても大切なことを学んで卒業できたように思う。

入学当初は「いい絵=技術的に優れた絵」だと思っていたが、今では「いい絵=伝えたいことがある絵」だと考えるようになった。

「いい」 とは何か

高校を卒業して5年経った私は今、企業のブランドコンテンツの制作を仕事にしている。

仕事柄、あらゆる会社の核に触れることが多いが、「伝えたいこと」がはっきりしている会社はやっぱり惹かれる。会社というキャンバスを通して実現したい世界観を熱く語る経営者は、芯が通っていて格好いい。

「ひやまのキャリア選択の軸は?」と聞かれるとき、私は「経営者が実現したい世界観がはっきりしていて、自分がそれに心から共感できる会社を選ぶこと」と答えている。キャリアの話題では編集者やライターといった職種の話で盛り上がることが多いが、それは水彩画やキャラクターが描きたかった高校生の私と同じだと思うからだ。手法にこだわらないという点では、ある意味、制作会社には向かない人材かもしれない。

美術部で学んだ「いい絵=伝えたいことがはっきり分かる絵」という価値観は、私のキャリアにも大きく影響している。

いい絵とは、いいキャリアとは、いい人生とはなんだろうか。

あの時の言葉を先生はきっと覚えていないだろう。けれど、これからもなにか大きな決断をするときは、美術部のY先生に会いにいきたくなる。

最後までお読みいただき、とても嬉しいです。いただいたサポートは、素敵な本を買うために使用させていただきます。