第二十九話 新入生研修と女の子
「あいつ生意気じゃね」「あいつらムカつくな」「あいつやっちゃうか」等々、それぞれが、ここかしこと辺りを見渡し、喧嘩したい奴や、逆に仲良くなってみたい奴を品定めする。私達にとってはそんな意味合いの強い、新入生研修だった。
研修中は常に教官が近くにいるので、騒ぎが起こることはなかった。私は違う学科の一人の女の子が気になっていた。背が小さく痩せ型ではあるが胸が大きい、顔も可愛い私好みの女の子であった。学校が始まったら話しかけてみようかな?なんてことを考えているうちに夜になっていた。
各4人部屋なのだがベランダには仕切りがなく、どの部屋もベランダから入れるような作りの建物だった。ノリオやケンジと合流してベランダでタバコでも吸おうかって事で、ベランダに出てみるともう何人かがタバコを咥えながら談笑していた。私と同じ学科の奴が「クラス一緒だよね、名前なんだっけ?」と言ってきたので「○○だけどそっちは?」と返した。サバサバした感じで男前のその子はジュンと言った。一緒にいたのはイノウエ君という子で、私が一番最初に『気に入らないな』、と思っていた奴だったが、その後大人になっても交流があるくらい仲良くなっていった。
研修の内容は大したことではなく、新入生の心構えや、この学校はどんな学校なのかといった、とても退屈なものだった。
研修も終わりバスで学校に戻る。帰りのバスに乗り込むと、クラスメイトの数少ない女子の一人のマツノさんが「ちょっと隣座っていいですか?」と言ってきた。『なんだなんだ!モテキが来たのか』とちょっと動揺しながら、「いいけど、なに?」「ちょっと話したいことがあるからです」と言いながら座席に座った。「どうしたの?」とこちらから言うと、「今彼女とか好きな人いますか?」と聞かれた。『いきなり告られるのかな?』とちょっと調子に乗った考えをしていると、「他の学科の子で、○○君と話してみたいっていう子がいるんですけどダメですか」「話しするくらいでダメっていう人いないでしょ」「本当ですか!ありがとう御座います。学校に着いたら伝えますのでよろしくお願いします」と言った会話の内容だった。「何て名前の子」聞いたところで分かりはしないのだが、聞いてみると「アスカちゃんって子で可愛いですよ」と返ってきた。期待に胸を膨らませながらの学校への帰路は楽しかった。
学校へ戻って教官からの話が終わると解散になった。マツノさんが駆け寄ってきて「少し時間良いですか?」と聞くので、一緒に帰ろうとしていたケンジに、「ちょっと待ってて」と言うと、笑いながら「大丈夫だよ」と言ってくれた。マツノさんが戻ってくると一緒に来た女の子は、私の気になっていた女の子だった。『なんてツイているんだろう』と思いながら、「どーも」と私は無愛想に言った。喜んでいると思われるのが恥ずかしかったからだ。「いきなりゴメンなさい!アスカって言います。電話番号とベル番交換してもらえませんか?」と言ってきた。当時はポケベルの初期の数字しか入力できないものが主流の時代だった。例えば『724106=なにしてる』『105216=どこにいる』のように連絡をし、受けた側が固定電話に電話するといった感じだ。「いいよ」と言って連絡先を交換した。ガツガツ行くのもアレかなと思いその日はケンジとチームやダンパの話などをしながら帰った。
今回は、入学早々のラッキーなエピソードでした。次回はその後の展開と学校生活について書きたいと思います。
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