2020年の広告市場から考えるDX進化論

2021年、ゴールデンウィーク。筆者は久々に広告市場について勉強をしようとパソコンに向かっている。コロナでどこも行けない時には勉強に限る。そして、勉強したことをしっかりアウトプットして行きたい。

テーマは広告市場である。今までインドネシアブログの方で記事を書いてきたが、もはやインドネシアがあまり関係なくなってきたため、久しぶりにnoteの方で書きたいと思う。筆者はアドテク専門というわけではないので、広告市場の潮流から、アドテクに触れつつも、現在の専門分野であるDXの方に繋げて行く。

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まずは、日本の広告費から。電通が発表している日本の広告費によると、2020年の日本の総広告費は、前年比88.8%の6兆1594億円となっている。減少の理由は「世界的な新型コロナウイルス感染症拡大の影響」と書かれている。そのうち、インターネット広告費が2兆2990億円。インターネット広告費は、インターネット広告媒体費、物販系ECプラットフォーム広告費、インターネット広告制作費の3つで構成されており、インターネット広告媒体費は前年比105.6%の1兆7,567億円となっている。総広告費全体としては減少しているが、インターネット広告は伸びているのだ。

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次に、インターネット広告媒体費を見てみよう。インターネット広告媒体費全体の推移は、2020年を除き、毎年10%以上の成長率をキープしているが、特にビデオ(動画)広告の伸びが顕著である。2020年は、前年比122%の3,862億円。2017年からの3年間で334.3%(3倍以上)に拡大している。

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アメリカにおいてはもっともっと顕著になっている。2019年2月に発表されたeMarketer社の調査・分析によると、テレビ広告市場は約700億ドル(約7兆7000億円)のラインから緩やかに降下し、その間動画広告は2023年に583.9億ドル(約6.4兆円)に到達すると予測されているのだ。

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インターネット広告がテレビ広告を抜くというレベルの話では無く、動画広告だけでテレビ広告に匹敵するほど拡大するということである。アメリカの市場は数年遅れで日本にやってくるので、アメリカの動画市場をもう少し深掘ってみたい。

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急成長するアメリカの動画広告市場で現在注目されているのは、コネクテッドTV(CTV)とOver-the-Top(OTT)である。前者のCTVはストリーミング動画コンテンツの配信を容易にするデバイスで、TVに接続して使われる。例えば、Apple TVがこれに含まれる。後者のOTTは、インターネット経由で配信する動画コンテンツのことを指す。日本でもおなじみNetflix(ネットフリックス)やAmazon Prime(通称アマプラ)で、日本のサービスだと、ABEMA(旧ABEMA TV)やTVerがそれにあたる。アメリカでは、日本のように無料で視聴できるテレビ番組がほとんど無いため、大手企業とケーブル契約し、テレビ番組を見ることが一般的であったが、近年Cord Cutting(コードカッティング)というケーブルテレビの契約を切ってネットフリックスなどのOTTを優先する行為が一気に増えており、アメリカのテレビ業界は激変の時を迎えている。

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この激変期の立役者の1社が、Roku(ロク)である。ロクのデバイスをテレビに挿しておけば、ネットフリックスやhuluなど複数のOTTが利用可能となる便利サービスだ。ロクはこのデバイスを30ドル(約3000円)という利益無しの格安で提供することで一気に市場を拡大し、動画広告収益とOTTからの紹介手数料でマネタイズするビジネスモデルをとっている。

説明が長くなってしまい、やっと動画広告にたどり着いたが、CTV・OTTの拡大によりロクが急成長し、そこに大きな広告市場が生まれたのである。

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先ほどのロクに広告を提供しているのが、The Trade Desk(トレードデスク/TTD)である。TTDは広告代理店や広告代理店のトレーディングデスクに対してDSP(Demand-Side Platform)を提供し、急成長を果たした会社だ。世界最大の広告代理店WPPグループのXaxis(ザクシス)など大手グループのトレーディングデスクに技術パートナーとして採用されている。そのTTDが最も力を注ぐのが動画広告であり、CTV・OTT分野なのだ。アメリカではCTV経由でアメリカ総世帯数の3分の2にあたる8000世帯以上にリーチすることが可能となっており、売上を急拡大させている。2020年の売上高は、前年比26.5%増の8億3600万ドル(約920億円)にものぼる。ちなみに日本のOTTだと在京民放キー局5局で運営される「TVer」と連携している。

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TTDはDemand-Sideであったが、反対のSSP(Supply-Side Platform)としてTTDと連携しているMagnite(マグナイト)も紹介しておく。マグナイトは、2020年に世界最大級のSSPを展開するRubicon Projectと、CTV分野で広告ノウハウを持つTelariaが合併して誕生した企業である。同年10月には、ディズニーが展開するストリーミング配信サービス「Disney+(ディズニープラス)」との技術連携を発表し、翌年2021年2月には動画配信プラットフォームSpotXを11億7000万ドル(約1280億円)で買収し、動画領域、CTV領域をさらに強化している。ちなみにSpotXは2017年から電通グループのサイバー・コミュニケーションズ(CCI)と事業提携を行っており、放送局向けのアドサーバー事業とPMP(プライベートマーケットプレイス)事業を共同運営している。

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ここまで動画広告の急成長とCTV・OTT領域を中心に語ってきたが、実は世界のネット広告代理店(デジタルエージェンシー)の売上ランキングを見てみると、上位はTTDが支援するWPPグループでは無く、アクセンチュアやデロイトなどコンサルティングファームのデジタル部門が陣取っていることがわかる。

ランキング1位のAccenture Intaractive(アクセンチュア・インタラクティブ)は、2009年9月にP&Gのデジタルサービス提供のために設立されたのが始まりである。そこから2012年10月にアメリカのデジタルマーケティング企業AvVenta、翌年2013年5月にイギリスのデザインファームFjprdを立て続けに買収し、翌年2014年には突如として世界のデジタルエージェンシーランキング第3位に登場し、売上高は14億800万ドル(約1690億円)を記録したのであった。そこからさらに企業買収を重ね、2020年の売上高102億8700万ドル(約1兆1000億円)まで到達するに至ったのである。

【アクセンチュアが買収した主なデジタルエージェンシー及びデジタルマーケティング関連企業】
2012年10月:AvVenta(アメリカ)
2013年5月:Fjord(イギリス)
2013年7月:Acquity Group(アメリカ)
2014年12月:Reactive Media(オーストラリア)
2015年6月:Brightstep(スウェーデン)
2015年7月8日:PacificLink (中国)
2015年7月22日:Chaotic Moon(アメリカ)
2015年8月:AD.Dialeto(ブラジル)
2015年12月:Boomerang Pharmaceutical Communications(アメリカ)
2016年4月:IMJ(日本)
2016年11月:Karmarama(イギリス)
2017年2月:SinnerSchrader(ドイツ)
2017年5月:The Monkeys(オーストラリア)
2017年12月:Rothco(アイルランド)
2018年1月:Mackevision(ドイツ)
2018年5月:Certus Solutions (オーストラリア)
2018年12月:Adaptly(アメリカ)
2019年4月:Droga5(アメリカ)

中でも最後に記載したDroga5(ドロガ)は、世界で最も革新的で影響力のあるクリエイティブエージェンシーであり、その型破りなアイディアで世界を何度も驚かせてきた。世界最大規模の広告祭「第58回カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル(Cannes Lions. International Festival of Creativity 2011)」では3部門でグランプリを獲得するという快挙を達成し、Adweek(アドウィーク)やAd Age(旧Advertising Age)などでこれまでに何度もエージェンシー・オブ・ザ・イヤーに選出されている。

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広告代理店事業を企業のラブレター代行業に例えると、広告代理事業の進化を説明しやすい。日本が発展途上国として1990年代に入るまで急成長を続けた時代は、少し乱暴な言い方かもしれないが、企業から消費者へのラブレターはばらまきの時代であった。購買力が強い上に顧客ニーズも多様化しているわけではなかったので、人の目に映れば、どんどん購入されていったのだ。広告代理店としては、テレビや新聞など人の目が集まる広告枠をしっかり確保すること求められる。つまり、ボリューム重視の時代である。

それが2000年代を迎えると、人々のニーズは多様化し、人々の属性やニーズによってセグメンテーションが行われ、ラブレターは告白したいセグメントに適切なメッセージを届けるということが重要になっていったのだ。適切なメッセージを制作するために、クリエイティブエージェンシーやブランドエージェンシーが現れ、そういった外資企業の進出も増えていったと思われる。また、インターネットも台頭し、アクセスする顧客のログが追えることで、セグメンテーションの考え方は一気に進んでいった。つまり、誰に対してどうありたいかが重要とされるブランディング時代である。

そして、2015年以降、先ほど紹介したアクセンチュア・インタラクティブのようなコンサルティングファームの進出である。彼らの多くは、企業の経営層と共に、企業の戦略を考えるのが主な仕事である。つまり、誰にどのようなラブレターを書くのかという以前に、どのような人生設計を書くのかということが重要になるのだ。そうすることによって、ラブレターが成就し、付き合って結婚をして幸せな人生が手に入るのである。つまり、幸せな人生という具体的な成果(パフォーマンス)のための人生設計が求められるのだ。企業であれば、売上であったり、顧客の獲得などが具体的なパフォーマンスである。今までであれば、「告白のサポートが我々の仕事です」「告白した後は知りません」で、クライアントは納得してくれていたかもしれないが、現在の日本のような成熟社会では、クライアントのニーズが合わなくなっているのだ。

では、どうやってクライアントのニーズに応えることができるのか?どのようにパフォーマンスを発揮すことができるのか?

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本記事の最も重要なページである。DX戦略の進化を説明することで、答えを導いていきたい。

昨今DX(Digital Transformation)という言葉が、ビジネスシーンやメディアで賑わっているが、企業の人生設計を考えた場合、DXは切り離せない存在になっている。1990年代までのテレビ・新聞は、人々の目が集まる場所であったが、インターネットが台頭する2000年代以降、目だけで無く、行動もインターネット(オンライン)上で行われるようになっており、オンラインを含めて考えることが必須となっているからだ。

まず左から解説していく。言葉に関しては、色々な定義が存在するかもしれないが、あくまで筆者の考える定義として受け取って頂きたい。考えるきっかけとして、大手小売企業のマーケティング部署で働く知人からの「会社の上層部がオムニチャネルとOMO(Online Merges with Offline)の違いを理解してくれいない」という相談があった。そこで私なりに「オムニチャネルはSNSやECなどチャネルを複数用意しただけで、OMOは店舗などのオフライン空間上で、モバイル決済などのオンラインのコミュニケーションがあること」と説明をしたのだが、どうやら上司の方はオンラインのチャネルを複数用意しているだけで、DXは完了していると考えられているようである。100歩譲ったとしても、オンラインとオフラインの顧客情報が統一されていなければ、顧客体験として質の高いものは提供できないと思われる。

同じ知人との話の中で、「ユニクロはOMOか?」という議論にもなったが、「店内決済に行列ができてしまっている時点でOMOには至っていない(2020年末時点)」という回答をさせて頂いた。Amazon GO(アマゾン・ゴー)のように、オフラインでカートに入れたものが、オンラインで自動決済される顧客体験を提供できて、OMOと言えるのではないかと考えている。図式化すると、オフラインがオンラインの枠にすっぽり入っている状況のことを指すので、繰り返しになるが、リアル店舗などのオフライン上の行動がオンライン上でデータ化されている必要があるのだ。ちなみに私なりのDXの定義も「オフライン上の行動がオンライン上でデータ化できること」である。

最後に1番右の顧客体験価値最大化であるが、OMOで図式化した線が、しっかり顧客に受け入れられて、具体的なパフォーマンス、つまり顧客のリピートや売上増につながった状態を表している。いくらOMOを設計してもそれは絵に描いた餅で、顧客に受け入れられてからこそ立体化するのである。この立体の高さ(深さ)を伸ばすことが顧客体験価値最大である。先ほどの問いに戻ると、オムニチャネルまで到達した企業のDX戦略を、どのようにOMO化し、具体的なパフォーマンスまでの道のりを設計していくのか。それにかかっていると考える。もう少し具体例も交えて解説したいところだが、まずは以前のブログを参考にして頂きたい。

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最後に、念を押しておきたいのが、オンラインとオフラインの両輪が回ってこそのOMOであり、顧客体験価値最大化ということである。なぜオンラインの王者であるGAFA達がオフラインを大事にし、オフラインに進出するのか?顧客体験価値を最大化するためには両輪が必要だからというのが私の答えである。

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