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ドローンが変える農業

今日の記事は、東海新報2024年5月1日付の「持続可能な農業へ手応え 陸前高田の吉田さん ドローンでリンゴ受粉作業」です。農業の現場では、農業者の高齢化や後継者不足といった暗い話題が多い中、明るい兆しになるのではないという記事です。どんな広がりを見せているのでしょうか。
(東海新報 https://tohkaishimpo.com/


記事は、陸前高田市米崎町の個人農園を営む吉田さんが農業用ドローンを使ったリンゴの受粉作業を行ったことを伝えています。

リンゴの受粉作業は、花粉がついた綿などを手作業で花のめしべにつけるのが一般的。ドローンを使うことにより、作業にかかる時間を大幅に削ることができ、人でも最小限で済む。
今年は試験期間の最終年。26日は、吉田さん立ち会いのもと、同社(ドローン販売会社のこと)の社員2人がドローンによる受粉作業を展開。圃場2カ所、合わせて約25アールで開花を迎えた「ふじ」の木の上にドローンを飛ばし、花粉を混ぜた水溶液を散布した。

東海新報 2024年5月1日付

ドローンの活用は、2022年から県内のドローン販売会社の協力を得て、3年間の試験期間を儲けて行なったものです。

ドローンを使った成果として、

吉田さんによると、ドローンで受粉作業を行った圃場は昨年までの2年間、「ほどよい割合で結実し、収穫量にも影響はなかった」という。手作業だと50アール当たり2日以上かかる受粉作業を2時間ほどに短縮できていることも魅力に挙げる。

東海新報 2024年5月1日付

とかなり高い効果があったことが分かります。

吉田さんは陸前高田市内で特産の「米崎りんご」を生産・販売する農家ですが、少子高齢化や担い手不足によりリンゴ農家が減少する現状を受けて課題解決の一環として試験的にドローンでの受粉作業を実施しているとのこと。吉田さんは、収穫で成果が出たら来年以降もドローンを活用したいとしています。

確かに農業の担い手不足はよく聞く話ですが、実態はどうなっているのでしょうか?


まず、陸前高田市統計書令和5年版から農業経営体数、従事者数、経営耕地面積を2000年から2020年までをまとめると次のようになります。(陸前高田市 https://www.city.rikuzentakata.iwate.jp/

(前:農業経営体数 中:従事者数 後:経営耕地面積)
2000年 2,025経営体 8,903人 95,155a
2005年 934経営体 4,046人 63,815a
2010年 776経営体 3,062人 59,500a
2015年 428経営体 1,517人 37,700a
2020年 301経営体 922人 23,800a
※いずれも農林業センサスから

いずれも減少しており、「農業担い手不足」の状況が伺えます。ここで1経営体当たりで従事者数、経営耕地面積をみると若干違ったものが見えてきます。

(前:1経営体当たり従事者数 後:1経営体当たり耕地面積)
2000年 4.40人 46.99a
2005年 4.33人 68.32a
2010年 3.95人 76.68a
2015年 3.54人 88.08a
2020年 3.06人 79.07a

従事者数は確かに減っていますが、経営耕地面積は増えているという結果になりました。つまり、1経営体で考えると、経営耕地面積に比べて従事者が足りない可能性があるということが考えられます。特に2010年以降、経営耕地面積は70aから80a台と横ばい傾向にありますが、従事者数は3.95人から3.06人に大きく減っていることからその傾向が強いといえます。

しかし、実際に担い手が不足しているかどうかは、個々の経営体において問われるべき問題であり、地域全体で担い手不足というのは実態にそぐわない問題設定と言わざるを得ません。

ただ、担い手不足の傾向があることも一方の事実であり、それを補うための機械化や自動化が必要であるということでしょう。ドローン受粉作業もそうした流れの一環であると捉えることができます。


次に経営の視点からドローン受粉作業を捉えてみましょう。

まず、どんな経営体であっても、どんな業種であっても、次の条件を満たすことがなければ継続していけません。

売上>経費

売上から経費を引いたものが利益として残るというものです。いかに利益を残すように事業を続けていけるかが経営の肝になります。

それではドローン受粉作業の売上と経費への影響を考えてみます。ドローンを使用しない時と同じ栽培面積であると仮定した場合、

  • 売上については収穫が増えるわけではないので影響はない

  • 経費については雇人がいる場合にはその作業時間分の賃金が減少する

  • 一方で作業を業者に依頼した場合、委託費用がかかる

となります。賃金減少分が委託費用と相殺されるのでコスト削減効果は期待できません。

そもそも農業は、生産面積によって生産量がほぼ決まり、それに単価をかけたものが売上となるので、ある意味上限が決まってしまうものといえます。

そのため利益を残すためには、経費を削減することが必要ですが、雇人にかかる賃金については頭数を減らすくらいでないと削減効果はありませんが、農林業センサスのデータを見ても分かるように担い手が不足している可能性が高いので減らすことは困難です。それ以外の経費である種苗代、肥料代、資材代などは生産に直接関係するので簡単には減らせません。

そうなると、現状の人員数で生産面積を増やすということが考えられます。

作業工程を見直し、機械化や自動化によって担い手不足を補うことになりますが、機械化や自動化による投資も必要なので、全体としてどのくらいかかるのかを見積もってみることで損益を見極める必要があります。

経営の視点から見ると、部分的な機械化や自動化ではなく、通年の作業全体を通じた機械化や自動化を考える「全体最適」が必須になると思います。


今回紹介した取り組みは、試験として実施したものということですので、今後、様々な作業工程においても人手不足を補うような機械化や自動化が検討されていくものと思います。

いかがだったでしょうか。
日々の作業の大変さを改善することはとても重要な視点ですが、それとともに利益がどうなるのかという経営の視点でも見直していくことが必要なのだと思います。

今後も気になった記事をちょこっと深掘りしてみたいと思います。



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