兄と挑んだプロツアー:ファイレクシア 〜チームビルドとデッキ選択〜
(有料部分の設定がありますが、ほぼ全文無料です)
はじめに
おはりか!
バーチャルメイドデュエリストの曳山まつりかです。
普段はMTGアリーナやMagic OnineでMTGの配信をしたり、記事を書いたり、同人誌を作ったりしています。
今回は2月にアメリカはフィラデルフィアで行われた「プロツアー:ファイレクシア」に兄と挑んだ時のお話をしていこうと思います。
結果は3勝5敗の初日落ち、と奮わない結果でしたが、チームで取り組んだことや久しぶりに開催されたプロツアーの様子を残したいと思ったので筆を取った次第です。
筆が重いタイプなので、大分遅いレポートとなってしまいましたがぜひ読んで頂けると嬉しいです。
プロツアー:ファイレクシアとは
あの「プロツアー」が帰って来ました!
プロツアー(PT)は各地の予選突破選手や招待選手のみが参加できる最高峰の国際大会です。
MTGアリーナの登場や度重なるイベント再編に伴い、その名前は失われていましたがテーブルトップでの競技シーンの復活とともに蘇りました。
失われた期間にもミシックチャンピオンシップやプレイヤーズツアー、セットチャンピオンシップなど、同等かそれに準ずるプレミアイベントは開催されていますが、やはり「プロツアー」という言葉の持つ響きとその歴史は特別感があります。
右を見ても左を見ても世界の強豪ばかりで埋め尽くされる会場。
実績豊富な殿堂選手はもちろん、若手のライジングスターや玉座を虎視眈々と狙うニューカマーが入り乱れる最高峰の舞台です。
記念すべき復活1回目のプロツアーの舞台はアメリカのフィラデルフィア!
合衆国建国の地にハイレベルかつ多様な200人が一堂揃い踏みです。
フォーマットは、ファイレクシア:完全なる統一ドラフトとパイオニアです。
以前のプロツアーと同様にリミテッドと構築、両方の力が試されます。
チームを作ろう!
チームメンバー
直近で参加したプレミアイベントと同様、今回もチームで取り組みました。
普段は主に明星Hiveというチームで活動しているのですが、チーム内のPT参加者だけではドラフトの練習(8人)には人数が足りません。
今回は、明星メンバーだけでなくAkio ProsやMatsurika Pros.のメンバーもお誘いし、本戦出場者8人+4人(サポート)の体制で取り組みました
【本戦出場者】
・曳山まつり(兄)
・佐藤啓輔さん
・テルテルさん
・さねとみさん
・Amalgamさん
・JVさん
・やまださん
・よしごえさん
【サポート】
・曳山まつりか(ボク)
・茂里憲之さん
・じょんさん
・Tanさん
共に挑んだ本戦出場者の皆さんはもちろん、構築やドラフトでサポートしてくれた皆さんにも大きな感謝を。
チームの方針
2022年11月末に開催されたチャンピオンズカップサイクル1が終わり、PTの参加者が確定したところで大方のメンバーに声をかけました。
Discord上に専用サーバーを立てて、練習や情報交換などほぼ全てのタスクをオンライン上で行なっていました。
最初に決めたのはチームの方針で、個人的に重点を置いたのは以下の2点です。
1.練習相手や情報収集、意見交換に困らない場にすること
2.モチベーションを保つこと
1.練習相手や情報収集、意見交換に困らない場にすること
チームを組織する一番のメリットと言えるでしょう。
元MPLプレイヤーを初めとした実力者はもちろん、サイクル1の予選を突破したパイオニア環境に明るい熱量の高いプレイヤーが揃っています。
MOのリーグを回したり、アリーナのリミテッドラダーを登るだけでは、到底得られないような客観的で多面的な視点を得ることが出来ます。
チーム内での指名対戦を行いながらその様子を見守ることで、良いプレイや悪いプレイ、ゲームプランの構築やキーとなるカードの発見などなど…1人2人では追いつかない量の情報を得ることが可能です。
マジックそのもの以外の面でもチームを組むことはメリットが大きかったです。
多くのメンバーにとっては久しぶり、あるいは初めての海外遠征。
慣れない異国の地ではトラブルの不安は拭えません。
遠征経験のある人は情報をシェアしたり、英語が話せる人は現地でのコミュニケーションをしてくれたりと協力し合いました。仲間というのは心強いものです。
2.モチベーションを保つこと
11月末のチャンピオンズカップファイナル(常滑)からプロツアーまで約2ヶ月半ほど間が空きます。
その間は大きなイベントもなく年末年始も挟むことになります。
危惧したのはモチベーションの低下です。
休み期間を挟みながら環境の変わらないパイオニアをやり続けるというのはなかなかモチベーション持続の観点から難しいものがあります。
新セットが出てから取り組めばいい、という話もありますが先述のようにドラフトと並走するためスケジュール的にはかなり厳しいです。
(テーブルトップなのでリアルカードを集めるという手間や遠征のための移動でさらに時間を取られます)
そのため新セット発売までも可能な限りパイオニアに触って置くのが良いと考えました。
サーバー内の施策としては「サーバー内リーグ」の創設があります。
本格的な調整期間に向けて毎週メンバー同士でシングルエリミネーションのトーナメントを行っていくというものです。
さねとみさん発案、運営で行われたこの企画はモチベーション維持の観点では一定の効果があったと思います。
各々気になったデッキをぶつける機会ともなりましたし、観戦する側、プレイする側にも知見が貯まっていきました。何よりサーバー上に集まる口実を作ったことが大きいと思います。
また距離感がバラバラなメンバーが集まっているのでその交流会としても機能していたと思います。
カードゲームはコミュニティが大切です。
同じくさねとみさん主催で行われたドラフト会も含め、本番前にオンライン・オフライン双方で交流を深められたことは良かったのかなと思っています。
また、試験的な施策として「サーバーの活動時間の制限」を設定することにしました。
具体的には「深夜1時に強制解散」というルールです。
集まる日時は特定の会議日以外は自由なのですが、解散の時間だけ決めています。
これは深夜になればなるほど、雑談の量が増えたりしてグダグダしやすいというこれまでの経験から設定しました。
活動時間の制限は一見モチベーションアップとは相反するようにも感じますが、大半のメンバーは日中に仕事を抱えています。
遅くまでやって日常に支障をきたしても良くないですし、それが効率の悪い状態で時間だけ摩耗しているとかなら尚更です。
それが長期間に及べば、モチベーションの低下に繋がりかねません。
モチベーションを上げるためのチームなのにそうなってしまっては本末転倒です。
世界選手権の時のようにフルタイムでマジックにオールインできる環境なら別ですが、メンバーそれぞれでコミットできる量も異なります。
「マジック・ライフ・バランス」の取れる範囲で楽しくやることを第一にしました。
もちろん、使えるリソースの絶対量には制限をかけているわけですから結果にどう影響を与えたかは気になります。
しかしながら、少なくともメンバーには好評だったようです。
ドラフトの取り組み
ファイレクシア:完全なる統一 発売後の週末はチーム内でドラフトを2日間みっちりやり込みました。
発売直後のため環境の把握やアーキタイプの認知、カードごとの評価づけを意識し、2日目の最後にはコモンの評価についての検討を行うなど認識の擦り合わせをしていきました。
外部のドラフト会の結果を眺めたり、デジタル実装後の結果報告をしあったりと情報共有を進めつつ、オンライン上のシミュレータを使いながらDiscord上で同卓ドラフトを繰り返し行いました。
フィラデルフィア現地に到着してからもホテル内で集まりドラフト練習を繰り返します。
これだけみっちりと同卓ドラフトができたのはチームメンバーが8人いた明確なメリットだと思います。
結果ファーストドラフトではチーム内に0-3した人はなんと0人!
比較的安定した成績につながったと思います。
詳しいドラフトの練習過程や環境解説については、今回のチームメンバーだったテルテルさんがたいむましんさんの記事で詳しく書いてくれています。 たいむましんさんでは、ボクが所属しているMTGチーム明星Hiveで記事を連載しているので、ぜひ読んでみてください。
・テルテルさんの記事
プロツアーTOP16入賞!『ファイレクシア:完全なる統一』ドラフト解説
パイオニアの取り組み
今回はあえて所謂「チームデッキ」というのは無理に作らない方針で進めました。
チームデッキ作りを目標にして、それにチーム内の意見を統合していくことは、チーム内のコミュニケーションに大きなコストを払うことになります。今回のプロツアーに関しては、費用対効果にあってないと考えたのです。
デッキの種類が少ないスタンダードでは効果的な戦略ですが、どのデッキも強力かつ種類の多いパイオニアでは、結論が分かれがちです。また使い込んだデッキを心に決めている人もいます。
さらには新セット発売から2週間もない中でドラフトと並走しなければいけない時間の無さを鑑みると…、情報交換とメタゲームの予想、プランニングの部分に重点を置くことが良いと考えました。
もちろん明らかに強力なデッキが誕生すれば、それをシェアすることになりますが基本的な方針として設置しました。
また、チーム発足(12月上旬)から発売(2月3日)まで2ヶ月ほど時間があります、その間に環境の変化を追いかけてモチベーションを絶やさず知識を収集するのはなかなか大変です。
そのための施策が先述のサーバー内リーグです。
結局のところ、直前で兄やボクはデッキが決まらず大慌てしてしまうことにはなるのですが、新セット発売後にいきなりパイオニアに取り付くよりはかなりマシな状況を作れました。
最終的なデッキ選択はチームデッキを作らない以上、各々に委ねられていましたがメタゲームの認識やマッチアップについての所感の共有、メタゲームの予想、指名対戦を通してのプランニンングの検証など個人ではなかなか処理できない課題をこなしていくことができました。
個人結果
最初に書いた通り、兄個人の成績は3勝5敗の初日落ちでした。
ドラフトラウンド
「赤」が強いことはPT参加者ほぼ全員の共通認識です。
できれば赤白をやりたいわけですが、そんな簡単にやらせてもらえるわけもなく…。
モンドラクスタートの白から抜けきれず、白被り気味になってしまった白黒が出来上がりました。
卓内のカードが弱かったこともあり、序盤のふらつきをなんとかまとめることに四苦八苦しました。
デッキが重めなものの白黒にしてはやたらと増殖するため毒勝ちがかなり多く、こんな白黒になることもあるのだなあとここに来て新たな発見に至っています。
なんだかんだ自分のデッキが弱い時は大体卓内のデッキも弱いもので、相対的には強い方に入っていたのか運よく2-0。
しかし決勝卓では敬慕される腐敗僧2枚、緑黒1/5マルチ2枚、格闘が3枚入った強力な緑黒に手も足も出ず敗北しました。
カードが弱い卓とはいえ、どうしても一人は強力なデッキが生まれますし、それに2-0ラインで当たるのも必然。
ということで負けてしまったものの、上出来な結果としてドラフトラウンドを終えます。
パイオニアラウンド
ラクドスサクリファイス(1-4)
パイオニアはラクドスサクリファイスを持ち込みました。
大前提としてトップメタ、つまりラクドスミッドレンジは持ち込みたくないというところがあります。
どう考えてもメタられていますし、ファストランドの登場で強化されたグルール機体はラクドスキラーデッキとしてのポジションを確立しています。
それならば、とグルール機体やその他アグロを刈り取れてラクドスミッドレンジとも5分以上戦えるサクリファイスがいいのでは、という結論に達しました。
しかしながら結果は惨敗。
最終戦ではさねとみさんとの対戦で、まさかの75枚ミラーマッチでした。
チームメイトの踏み台となり2日目に送り込めたことだけが唯一よかった点と言えるでしょう……。
苦手な緑単やエニグマをたくさん引いたこともありますが、そもそものデッキ選択に反省すべき点が多くありました。後述します。
デッキ選択の反省
先ほど書いた内容ですが、この結論、何にも達していません。
それっぽいロジックを組み立てていますが、自分のデッキ選択を正当化するためのただのポジショントークです。
多様なデッキが存在するパイオニアでは、自分が良いと思うデッキに対して良いと思う、悪いと思う理由を付け足すのは簡単です。
結論が先にあって、それがうまくいくメタゲームが展開されることを祈っているにすぎないのです。
当初はロータスコンボを持ち込むつもりでした。しかし、直近の大会で成績を残し続けたことでガードが上がってしまっていると考え、選択肢から消しました。
次に予想されるメタゲーム上では緑単のポジションが良いと考えていました。しかし、不慣れだったので候補から外しました。
最後に独創力が候補に上がりました。ロータスと青白が多いメタゲームでの打開策が見当たらない、と断念しました。
最終的に直近での感触が良かったので、先述のロジックが組み立ててサクリファイスを選択しました。つまり、ただの肌感です。
結果を見てから言えることでもありますが、不正解だったと言えるでしょう。
ロータスコンボは逆風の中でも乗り越えるデッキパワーがありTOP8に2人。
独創力も青白コンの構成が日本とは違う形が主流であったことを考えるともっと検討すべきでした。
なまじこの2つのデッキは直前までプレイしており、理解がそれなりにあったのが良くなかったのかも知れません。
どうしても、否定的な材料が目についてしまったのです。
独創力に関してはチーム内で実はいけるのでは?という意見を求められたときに(否定的に考えてるから当然ですが)否定材料を多く出して選択肢を消してしまいました。
逆に理解度が低い緑単やサクリファイスは否定材料をたくさん並べることができないために、相対的に魅力的に見えてしまいました。
実は、昨年の神河CSの親和デッキでも同じことをしていたと感じており、これは自分のデッキ選択における課題とようやく認識しました。
なぜ、こういう思考回路になってしまうのか。
自分なりに考えたところ、ポイントになるのは「自己防衛」と「一貫性」かなと思っています。
チームでなく個人であれば、デッキ選択に対してリスクを背負うのは自分だけです。
しかし、チームでは自分の考えを出せば当然チーム内に波及します。
そこで誤った内容を出してしまうと…と考えるとどうしても後ろ向きな思考になりがちです。
肯定材料があったとしても自分の理解が深いがために生まれたバイアスではないかと考えてしまいますし、責任に対して自己防衛するために否定材料を大きく表現してしまいます。
もちろん肯定も否定も基本的には等価ですので、否定を強く出すことも当然評価を歪ませる原因になるのですが…。
そもそも責任を感じるのは自分だけであり、そこを追及するような人は一人だってチーム内にはいません。勝手に自爆しているだけです。
自分の意見に自信を持って、過大評価も過小評価もしない。
これが大事だと思います。
何度か経験して、こうやって文章にしたことでようやく課題が明確になったので今後は直していきたいです。
もう一つ、感じたことがあります。
それは「一貫性」です。
MTGではプレイの「一貫性」がよく話題に上がりますが、デッキ選択にも一貫性が必要だなと思いました。
プロツアーという舞台にデッキを持ち込むにあたり、何が決め手になるのか…。
それはもちろんその時々、各々で変わるわけですが、何かしら大きな決め手を大事にしたいと思いました。
例えば…
自分のデッキ選択ロジックを信じること。
メタゲームの予想を読み解いて「緑単信心」が良いと踏んでいるのであればプレイの精度を言い訳にせず読み解いた結果に従うこと。
(市川さんのレポートを読むと、自らのプレイスキルを信じて経験値の少ないデッキでもしっかりと選んでいます)
例えば…
自分の気に入ったデッキを磨き抜くこと。
チームメイトのテルテルさんやJVさんはそれぞれラクドスミッドレンジ、緑単信心を使い込んで上位の入賞とチェインを達成しました。
お二人とも元々かなりのやり込み勢で、もちろん他のデッキもたくさんテストした上での選択でしたが、傍目には苦楽を共にした相棒を手に取ったようにも見えました。
そして、このどちらも満たせないのであれば、せめて自分が「楽しい」と思えるデッキを選択するのが最も悔いが残らないな、と思いました。
PT初日が終わり、暇を持て余した兄のPT2日目、3日目。
サイドイベントの相棒としてラクドスサクリファイスに「アトラクサ」を投入したデッキを兄に渡したところとても楽しそうにプレイしていました。
結果はSecret Lair Showdown 4-2、PT参加者限定PTQは5-2とさほど悪くはなかったです。
サブミット直前に現れたデッキでしたが、直感を信じていれば…。
悔いはなかったかも知れません。
もちろん、悔いと結果に相関があるわけではありません。
悔いのない選択をしたからといって結果に現れるわけではないですし、その逆も然りです。
でも、やはり、
なんだかんだと言っても
ゲームですから。
結果だけでなく過程も楽しみたいものだと強く感じました。
チームビルドについて
過程を楽しむという上では今回のチームビルドはとても楽しい経験をもたらしてくれました。
情報収集、モチベーション維持、ドラフト練習など当初目的としていた部分に関しては期待以上だったと思います。
それにどうしたって異国の地です。
仲間のいる安心感は何物にも代え難いものがあります。
勝てばもちろん嬉しいですが、負けても楽しい思い出として残るのは嬉しいことです。
マジックの大会はイベントごとに参加者が違ったり、目標が異なったりします。
良くも悪くも今回と全く同じメンバーで取り組む機会はきっとないでしょう。
それだけに大切な思い出となるのです。
おわりに
兄の結果としては、プロツアー:ファイレクシア(フィラデルフィア)、続くチャンピオンズカップファイナルサイクル2(横浜)も惨敗でした。
次のプロツアー:機械兵団の行進(ミネアポリス)の参加権利はなく、6月のチャンピオンズカップファイナルサイクル3(千葉)までプレミアイベントはありません。
昨年の世界選手権からイベントラッシュだったこともあり、しばらくは羽を休める期間となりそうです。(もちろんアリーナはボクがプレイし続けますが)
英気を養って、また競技マジックの最前線に戻れるよう頑張っていきたいと思います。
最後に、フィラデルフィアの写真を何枚か紹介して終わりにしようと思います。
Play the game. See the world.
それではまたお会いいたしましょう。
おつりか!
おまけ:写真コーナー
以下有料部分にはお礼の言葉だけがあります。
もしこの記事が気に入ってくださった方、購入という形で支援をしていただけるととても嬉しいです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
ここから先は
¥ 500
Twitterや配信などでいつでもご質問ください。お役に立ちたいです!