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食のクリエイティブで『挽肉と米』の体験をもっとおもしろく。

『挽肉と米』では、焼きたてのお肉と炊きたてのご飯という体験をより楽しんでいただくため、ご飯とお肉のオトモやドリンクにも細やかなこだわりを持って取り組んでいます。

この『挽肉と米』の食に独特のセンスを加えているのが、料理家として多岐にわたる活動を行っている副島モウ(そえじま・もう)さんです。オトモの開発を手掛けているほか、『挽肉と米 今泉』に併設された「まちのみ」では、ドリンクの選定やオリジナルドリンクの開発も手掛けています。

今回は、挽肉と米のCEO 山本昇平(やまもと・しょうへい)も同席のもと、『挽肉と米』の食のクリエイティブへのこだわりについて、副島モウさんに話を聞きました。


おいしいを探求し、ユニークすぎる経歴に


ー 『挽肉と米』での話を伺う前に、モウさんご自身について話を聞かせてください。様々な活動をされていますが、もともとの出発点は何だったんですか?

副島:幼い頃から食べることが好きで、パリの料理店で修業し、帰国後は『GRAND HYATT TOKYO』や『BEIGE ALAIN DUCASSE TOKYO』でシェフをしていました。

その後、パトリス・ジュリアンというフランス人の料理研究家のもとに弟子入りします。彼は多くの料理に関する著書を出していて、彼の『生活はアート』という本に僕はすごく感銘を受けていたんですね。

彼のところから独立した後は、色々な仕事をやってました。海外経験が豊富だったこともあって、東京を舞台にしたハリウッド映画の撮影クルーの食事係を務めたこともあります。他にも、企業向けにレシピ開発をしたり、飲食店のコンサルティングをしたり、調理学校の先生をしたり。現在も様々な企業さんと一緒に仕事をさせてもらっています。

食べることが大好きで、おいしいものを求めて、自分の興味が赴くままに進んでいった成れの果てが現在みたいな感じです(笑)。だから、自分の肩書きもどんどん変わっていて。最初は料理研究家と名乗っていましたが、途中から料理家になって。今はレストランプロデューサーとか、フードディレクターと呼ばれることも多くなってきました。

ー 山本さんとモウさんの出会いは、どういったものだったんですか?

山本:挽肉と米の共同創業者である清宮さん(LAMP代表の清宮俊之)からの紹介ですね。清宮さんからは「すごい料理家の人」と紹介されたので、気軽に話しかけてはいけないのかなと最初は身構えていたんですけど(笑)。でも、話をしてみると、同い年だし、接しやすくて、いつの間にか自然と仲良くなった感じですね。

ー モウさんが『挽肉と米』に関わることになったのは、どういった経緯だったんですか?

山本:『挽肉と米』のオープンに向けた準備を進めるなかで、僕からモウさんに声をかけさせてもらいました。

提供する商品に自信はあるものの、商品は一種類しかないため、お客さまに繰り返し長く楽しんでもらうには、追加の薬味(オトモ)が必要と感じていました。それを自分なりに色々と考えてはみたものの、バラエティーに富まないというか、想像の範囲内に収まっている感じだったんですね。

それで「何かいいアイディアはありませんか?」と相談したのが最初でした。最初は雑談ベースで相談させてもらったんですけど、モウさんから返ってくる回答が興味を惹かれるものばかりなので、きちんとした仕事として関わってもらうことをお願いしました。

なので、一番最初は薬味の相談役みたいなところから始まって。『挽肉と米 吉祥寺』がオープンする前にはフードトラックもやっていたので、そこで販売するお弁当のおかずとかも相談させてもらっていました。

そこから、店舗で出すオリジナルサワー開発だったり、イベント時の商品開発だったり、各お店ごとのオリジナルドリンクや調味料の開発だったり、色々なことを担当してもらうようになりました。

信頼ゆえの”無茶振り”から生まれた名脇役たち

副島:まず最初に「今まであまり経験したことがないようなフレーバーがいい」というオーダーがあったんですよ。僕が世界中を旅して見つけたものの中で、ハンバーグと合わせた時に新しさを感じるようなものがあれば、試してみたいという話だったんですね。

一方で、お客さんにとって味が全く想像できないものだと、誰も使わなくなってしまうから、味の想像が若干できるものがいいという話もありました。そうした幾つかのお題から、ヒントを紡いでいきました。

山本:やっぱり、モウさんのセンスはすごくて、世界中の色々な面白いものを知っているんですよ。プロフェッショナルとしてやっている部分も当然あるだろうけど、本人の元々の気質として、おいしいものを探求するのが本当に好きなんだろうと思うんですね。

ただ、それがどんなに良いものでも、お客さまに瞬間的に伝わらないと、良いものとしてキャッチされないから、結局は使っていただけない。モウさんの抜群のセンスとお客さま感覚の乖離をどうやって埋めていくか。そこの目線合わせはすごく意識しています。

副島:あと、山本さんから常々言われているのが、ご飯と合うこと。ハンバーグとご飯をセットで食べてこその『挽肉と米』なので、「これはハンバーグには合うけど、ご飯との相性がなぁ…」とよく言われるんですよ。なので、ご飯と一緒に食べておいしいというのも、すごく意識しています。

ただ、そうするとご飯のオトモを入れちゃいそうになるんですね。海苔の佃煮みたいな。でも、それだとご飯のオトモであって、挽肉と米のオトモじゃないんですよ(笑)。そこがすごく難しいところで、針の穴に糸を通すような感じでした。

挽肉と米の「お肉のオトモ」は、すべて店舗で手作りしている。

副島:ちなみに、『挽肉と米』で出している薬味は、お店でスタッフたちが全て手作りしています。

市販されている瓶詰めの調味料の場合、日持ちさせるために、瓶詰め後に加熱処理を行うのが一般的なんですね。そのため、フレーバーがどうしても少し失われてしまいます。その点、『挽肉と米』は全て手づくりの自家製調味料で、そこまで加熱を加えていないため、フレッシュな状態で香りを楽しんでいただけます。

『挽肉と米』の主役は焼きたてのお肉と炊きたてのご飯だけれども、その名脇役として薬味たちが卓上にいなきゃいけない。「この子たちが、いい味を出すんだよね」と、お客さんに思ってもらえるような存在を作っていっている感覚です。

その土地ならではの個性を、オトモで体現

ー  『挽肉と米』では、お店ごとのオリジナルの薬味も用意していますよね。それぞれ、どういったことを意識して開発したかを教えてください。

副島:まず、新しいお店を出店する際には、「その土地の魅力を活かした、その土地ならではの体験ができないか」を、山本さんや『挽肉と米』のクリエイティブパートナーであるPOOL inc.さんが考えてくれるんですね。そこで決まったお題が僕のほうに飛んできて、「さて、どうしようか?」と考えはじめます。

『挽肉と米 京都』であれば、京都という世界中から観光客が集まる土地で、色々な国から来た人に『挽肉と米』というコンテンツを体験してもらいたい。それによって、『挽肉と米』を世界中にPRしたいという想いがあると聞きました。

また、僕としても、せっかく京都にお店を出しているので、京都らしさを感じられる薬味を出したいと考えていました。古い京町屋をリノベーションした京都らしい雰囲気のお店でもありますし、そこにピッタリのオリジナルの薬味を用意したいなと。

そうしたお題のもと、色々と思案した上で辿り着いたのが、陳皮・青海苔・生姜などの8種類の生薬をブレンドしたオリジナルの八味唐辛子です。『挽肉と米 京都』は八坂神社も近いし、末広がりの”八” は縁起が良いんじゃないかと思いました。

また、七味唐辛子は日本独自のミックススパイスで、色々な飲食店に置かれていますが、その由来や意味について説明されているところはないじゃないですか。でも、『挽肉と米』であれば、お客さんに説明しながら接客できたりするので、日本の食文化を知るキッカケとして楽しんでもらえるのではないかと思ったんです。

挽肉と米 京都のオリジナル調味料「八味唐辛子」

ー 福岡にある『挽肉と米 今泉』では、期間限定で柚子胡椒が登場しました。こちらは、どういった経緯で提供が決まったんですか?

副島:実は、僕が佐賀の出身で、小さい頃から柚子胡椒が身近にあったんですよね。なので、「九州にお店を出すなら、柚子胡椒を入れたいですよね」という話を以前からしていました。九州で胡椒といえば、柚子胡椒だと思うので。

本当は通年でお出しできる形にしたかったんですが、どうしても生の柚子の皮を通年で手に入れることが今の段階では難しくて、今回は期間限定とさせていただきました。その分、今の時期にしかできない青柚子胡椒ということで、楽しんでいただけたのではないかと思います。

「果実と米サワー」と「まちのみ」の裏側

副島:果実と米サワーが誕生したのは、『挽肉と米 渋谷』がオープンした時ですね。手作りの甘酒を使った季節のサワーを作りませんかと、僕から山本さんに提案させてもらいました。

そう提案した背景のひとつは、お米のフードロスに問題意識をもったことにあります。『挽肉と米』は炊きたてのご飯を提供することを大切にしているため、ご飯のロスがどうしても多少出てしまうんですね。

僕も飲食の人間として、フードロスにはすごく心が痛むところがあって、どうにかできないかとずっと考えていました。そこで、ご飯からできるものは何かと考えた末、甘酒という答えに辿り着いたんです。

手作りの甘酒をつかった「果実と米サワー」

副島:サワーに季節の果実を入れたのは、お客さんに発見や驚きを届けられたらという想いからです。僕と山本さんで果物の年間スケジュールを決めるんですけど、「日本にはこんなおいしい果物があったんだ!」「食通な人しか食べないイメージだったけど、こんなにおいしかったんだ!」みたいな反応が期待できるものを選ぶようにしています。

挽肉と米 今泉(福岡)のセルフスタンド形式のバー「まちのみ」

副島:「まちのみ」は待ち時間にドリンクが楽しめるスポットですが、「地元のお客さんがフラッと立ち寄って、軽くつまみながら、ちょっと飲んで帰れるような場所にしたい」という山本さんからのオーダーがあったんですよね。

ドリンクのラインナップとしては、日本各地のクラフトビールやクラフトノンアルコールドリンクに加え、お店オリジナルのお酒を取り揃えています。「こんなお酒があるんだ」みたいな驚きを提供できるようにしたいと思いながら、セレクトしていきました。

特に、クラフトビールを取り揃える中で、様々なフレーバーが楽しめることはすごく意識しましたね。フレーバーに幅を持たせるため、日本全国のクラフトビールの中から、これだと思えるものを取り揃えています。

ー  「まちのみ」では『挽肉と米』オリジナルドリンクも開発しました。こちらは、どういった経緯から開発に至ったんですか?

副島:こちらは、レモンサワーで有名な新宿ゴールデン街のバー『OPEN BOOK』と共同開発したものになります。レモンサワーをはじめ、米焼酎を使った「米とソーダ」、八女茶を使った「八女茶ハイ」、凍頂烏龍茶を使った「凍頂烏龍ハイ」の4種類を開発しました。

POOL代表の小西さんの紹介で、『OPEN BOOK』を営んでいる田中開さんと山本さんが繋がって、その縁からはじまった企画です。田中さんはものすごくおいしいレモンサワーを作る人で、なおかつ缶チューハイのためのリキュール製造工場を持っているんですよね。

「まちのみ」では様々なメーカーさんのドリンクを扱うわけですが、せっかくなら『挽肉と米』オリジナルのドリンクもあったほうがいいよねということから、田中さんに力を貸していただきました。『挽肉と米』では色々な経験をさせてもらっていますが、まさか缶チューハイの開発まで手がけるとは思っていませんでしたね(笑)。

日本の食をもっと盛り上げていきたい

ー  モウさんは多くの企業とのプロジェクトに携わっていますが、『挽肉と米』との仕事について、どのような面白さを感じてますか?

副島:『挽肉と米』の仕事はすごくありがたいと感じていて、自分の色々な引き出しを開けてもらっている感覚があります。

例えば、僕個人の活動として、調味料について扱うECショップやワークショップをやっているんですが、これも『挽肉と米』の仕事がなければ生まれなかったかもしれません。『挽肉と米』で薬味や調味料について色々考えるうちに、「あ、そういえば自分は昔から調味料で色々とアレンジするのが好きだったな」と気づき、この活動を始めました。

また、料理研究家として色々なものをキャッチアップしているんですけど、僕が「いいな」と思うものは、世間からすると大体早すぎるんですよ(笑)。その存在を知って、「これは絶対に来る!」と思ってから、5年後くらいに流行るみたいな。

その点、山本さんは現在のお客さんに受け入れてもらうためのアイデアを発想するのがすごく上手い。僕が持ってきたアイデアに対して、「なんか、それはピンとこないな」とバッサリ切られることも多いけど、「こういう風にすると、良さが伝わるんじゃない?」とヒントをもらうことも多くて、ハッとさせられるんですよね。

山本:そこはいい感じに補完し合えていると思っていて、僕にはモウさんのような幅広い食の知識はないんですよ。モウさんから「今、こんなのがあるんですよ」「次は、こういうのが来ますよ」と色々と教えてもらうことで、いつも刺激をもらっているんですね。

世の中には色々な飲食店がありますけど、センスがいいお店ってあるじゃないですか。何を持ってセンスがいいのかの言語化は難しいけど、「あ。こういうのを扱っているなんて、
センスいいじゃん」みたいに思う瞬間ってありますよね。

そういう意味で、モウさんは『挽肉と米』というチームにセンスをプロデュースしてくれる存在だと思っているんですね。

『挽肉と米』は長く支持され続けるお店を目指していますし、海外にも挑戦していきたいと考えています。そう考えた時に、センスをしっかりと磨き続けていかないといけなくて。そういう意味で、モウさんはなくてはならない存在になっています。

ー  最後に、モウさん自身が『挽肉と米』でやっていきたいことを聞かせてもらえますか?

副島:色々な飲食店さんと仕事をさせてもらうんですけど、僕自身の仕事のモットーとして、メニューやレシピをただ開発するだけで終わらせたくないという想いがあるんですね。そこで提供する体験を良くするために、自分ができることは色々やっていきたいんです。

僕の中で『挽肉と米』は、究極のライブ型エンターテイメントだと捉えているんですね。目の前で自分のハンバーグが焼き上がっていくのを見るのも楽しいし、肉が焼かれていく香りや、炭火に脂が落ちてジュっと燃える煙も鼻で楽しむことができる。

ただ、そんな体験を期待してワクワクしてお店に来たのに、お店に立っているスタッフの対応が普通だと、もったいないじゃないですか。押し付けがましくならないくらいのサラッとした感じで、自分たちのこだわりを案内できると一番いいなと思っているんですよ。

だから、『挽肉と米』のメニューの裏にあるこだわりだったり、僕が持っている食の知識とかを、スタッフのみんなに上手く共有できるようになっていきたいですね。そして、スタッフみんなが食への興味を高めてくれて、「もっと日本の食を盛り上げていきたい」みたいな気持ちになってくれたら嬉しいなと思っています。

副島 孟(そえじま・もう)
合同会社シュエット 代表
挽肉と米 CYTO
調理師専門学校卒業後、フランスの星付きレストランにて修業。都内ホテル、レストランを経て、料理研究家パトリス・ジュリアン氏に師事。その後専門学校教師、出張料理人、ケータラー、自身のレストランオーナーシェフを経て現在のレストランコンサルタントの道へ。
ヒュー・ジャックマン氏の専属シェフを務めた経験もあり、海外企業のレストランコンサルティングを行う。「東京會舘」リニューアル、「BLUE BOTTLE COFFEE」などをはじめ、企業や自治体のメニュー開発のコンサルティングを担当。旅行先で店先に入って行ったり、民家のおばあちゃんに教わったりと、必ず料理を学ぶ料理オタク。
「挽肉と米」へは2019年から携わり、薬味プロデュース、店舗品質管理、海外出店の際のマテリアルコンサルティングなどを担当。常にハンバーグの新しい食べ方、ドリンクを考える日々。

聞き手・文章:井手桂司
写真:三橋拓弥

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