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抽斗の釘
2022年6月27日 18:09
それから一週間も経たないうちに、倖一は栗田と約束を取り付け、二人で飲みに行くことになったらしい。 いつも通りの平日だが、いつもと異なるのは、それが事前に報告されたことだ。 有里子は倖一の連絡を受け、仕事終わりに百貨店の地下で総菜を買い込んで帰った。コロッケと鳥のから揚げと、数種類のチーズとハム、そして少し高いワインと。 ひとり分にしては少々買い過ぎたが、有里子の心は浮き浮きとしていた
2022年6月26日 18:58
「……どしたん」「僕なあ、最近気い付いてんけどな。なんか男があかんねん」有里子は唐突な告白に眉をしかめた。「あかん? あかんてどういうこと」「なんか複数で会うのはかまへんねんけどや。サシで会うのはなあ。なんか意識してまうねん」「意識?」有里子は倖一の告白に胸がざわめくのを感じた。「そんなこと絶対ないねんけどな。男と話してるとなんやこの人に襲われるんちゃうかとか、その、肉
2022年6月25日 17:38
二人はやがて食卓を揃え、向かい合って席についた。「ほないただきましょか」「いただきます」「……いけまんな」「いけまっか」倖一は、その口ぶりとは別に箸の動きは緩慢だった。きっと腹が減っていないのだろう。チョコケーキかフルーツパフェか。有里子は汁椀を置いて静かに切り出した。「今日はなんかおもろい話おわしたか」「んー」倖一は口を動かしながら皿の上を眺めていた。有里子も少
2022年6月24日 19:11
金曜日は私も早引けになるのだから、一緒に夕飯でも作り1週間の労働を共に労い合いたい。 有里子はそんな風に苛立ちながら、冷えた夏野菜を叩き切っていた。 結婚して3年になる。夫の倖一は今日も外に遊びに出ていた。 しかしそれを特段悪いとは思わない。生き方は人それぞれ、ましてや彼は自由業だった。平日の5日間、8時間労働が社会人として当然だという、そんな枠に押し込めようとするのは、今の時代身勝