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たどり着いたのはがらんどうの心であった

さんざん、なにを望むんだろうとか自分はどう在りたいんだろうなどと考えて、その答えをサッカーに求めてきた。
答えはなく、そもそも自分が探しているものはそこにはないのかもしれないとそう思った。
先日はそういうサッカーの試合を、戦った。


2021/11/28

この日は、僕たち鎌倉インテルにとってリーグ最終節で、このチームでやれる最後の公式戦だった。

僕は今年が人生で最もサッカーを好きでいられたシーズンだったと思っていて、この一区切りに対しては一抹の寂しさを覚えていた。
すったもんだあったが、だんだんとチームになっていく自分たちに充実感は高まるばかりで。
人は常に孤独を恐れていると何かの本で読んだ気がするが、ゴールの瞬間や勝利の余韻の中で僕たちは少しだけ孤独から逃れられるような気がする。
だからまた勝利が欲しくなるんだ。
職業も年齢も育ちも価値観も何もかもが違う僕たちがあの瞬間だけは、ひとつになっていた。
だからこの一年間の終わりを飾りたくて、ものすごく勝ちたかった。

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Photo by:K.Okamoto

さらにこの日は、仲間がサッカーから卒業する日でもあった。
それまでなんともなく後ろから見ていた彼のヘディングやフィード、小さなパスや声の一つ一つが一層尊いものとして見るようになった。

サッカーをするために海外に飛んだり、治らない腰と付き合ってまで練習と試合に向かうほど、彼はサッカーが好きだ。
そんな彼の引退という勇敢な決断
最後に試合での姿はどこか悲壮を抱えつつも美しく映った。
大切なものを手放したんだから、同じくらい大切な何かを彼は掴むんだろうと思う。
彼は絶対に幸せになる。異論は認めない。

Photo by:K.Okamoto
Photo by:K.Okamoto
Photo by:K.Okamoto


何もなかった

そんなわけでものすごく勝ちたいと力んで、1週間を過ごして当日を迎えた。
久しぶりのナイターゲームで、試合まで何かを考える時間はあった。
また何か、この試合の中で感じて、感じたことが身体や言葉やプレーに表出するのだろう、あるいは自分が知らないようなモチベーションが湧いたり、まだ触れたことのない意思に出会うかもしれないと、このゲームに対する畏怖の念を持って昼間過ごしていた。

だけど、いざグラウンドについて準備をしている時には何もなくなっていた。
ただ、サッカーをしたい。
この90分間、サッカーをしたいとそれだけを思った。

だから例えば自分の課題だとか、自分のサッカー人生だとか、それら装備していた方がいいと思っていたものがなくなって、空っぽの心でサッカーをした。もはや勝ちたいとすら思っていない心で、目の前のサッカーに没入した。
それはとてもとても気持ちのいい、楽しいことだった。

それでいいのかもしれない。
サッカーで何を成したいとか何者かになりたいと思っていたが、とにかく目の前のサッカーをするということだけに執着をして戦うのが、サッカー選手として最もパフォーマンスを出せる姿なのかもしれない。


からっぽでサッカーをしていたもんだから、試合が終わって勝てなかったと気づいたとき
心にぐわぁと感情が注がれて、なんだかわからず涙が出たと思ったら途端に止め方がわからなくなった。

悔しいような、寂しいような
ただひとつ言えるのは、自分はサッカーが好きだということを確信したということだ。

がらんどうの心で

この試合を改めて見返すと、今シーズン最高のパフォーマンスであったと自負が出来る。

それはプレーの成功率とか、ピンチを防いだ数やチャンスを作った数ではなく、自分が意思を持ってアグレッシブにプレーできていたという実感から来ている。

プロになりたいこととか、ファンを喜ばせたいとかそんなことは考えていなかった。
ただこの最後の試合でサッカーをすることに集中をして、サッカーをすることそのものだけを望んだ。
このチームで出来る最後の試合を。

このことが良いパフォーマンスに繋がったのであれば、これからの自分に期待が高まる。
歳を取れば取るほど、1試合や1練習の重みは大きくなる。
まだ知らない自分の心ときっと出会うんだろう。
大人になっても歳を取ってもサッカー上手くなれる。
もうこれは確信に変わってしまった。サッカーしばらくは辞めれなそうだ。

また空っぽの、がらんどうの心でサッカーをしたい。
だからもっともっとサッカーを考えたい。
日々のサッカーを大切にできるようになりたい。


今年1年間、一緒にサッカーをしてくれたチームメイトのみんな
最後のMTGでも話したけれど、みんなのおかげでもう一度サッカーを好きになれた。本当にありがとう。

結局、過去の自分が想像してないような環境に自分はいるし、考えもしなかったような選択をしている、初めての感情にいくつ出会ったろう、何人の人に出会っただろう。

どうやらサッカー人生はまだ続く。
最後どこで旅を終えるかはもはや想像がつかないけれど
旅の終わりに誇れるようなそんな旅をしてやろうと思う。

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