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とある本紹介式読書会の記録~2023年2月編~

◆はじめに

 今回は久しぶりに、イベントレポートを書いていこうと思います。

 2月12日(日)、学生時代からの知り合いと毎月行っているオンライン読書会に参加しました。この読書会は月によって、メンバーがそれぞれ本を紹介する会になったり、共通の課題本を読んできて感想などを話し合う会になったりしています。2月の読書会は、前者の本紹介形式のものでした。

 これまで、本紹介式の読書会では、メンバーが本を自由にセレクトして紹介していました。しかし、一部のメンバーから「完全に自由だと本を選びにくい」という声が挙がったため、この日は予めテーマを決めて、それに沿った本を紹介する形式の読書会になりました。今回のテーマは「読んで明るくなった本」です。ベタといえばベタなテーマですが、実際にやってみると、「明るくなる」の解釈にやや幅があって、「あ~、そういう視点で本を選んだんだなぁ」というところでも面白さを感じられる会になりました。

 この読書会では紹介する本の冊数に制限はなく、持ち時間(15分程度)の中であれば何冊紹介してもいいことになっています。この日は用事などで集まれなかったメンバーもおり、4人での開催になりましたが、紹介された本は全部で7冊にのぼりました。それでは、紹介された順に見ていくことにしましょう。

◆1.『夏への扉』(ハインライン)

 読書会のアウトプットリーダーこと、しゅろさんから紹介された本。映画化・舞台化などもされたタイムトラベル系SF小説です。ざっくり内容を紹介すると、〈友人と婚約者に裏切られ、職も希望も失った天才技術者が、度重なるタイムトラベルの末に幸せを掴む物語〉となります。

 アメリカの小説は個人の内面の描写が少なく、出来事の記述の積み重ねで進んでいくことが多いと聞いたことがありますが、『夏への扉』はまさにそのような作品です。なので、カラッとしていて軽いと、しゅろさんは話していました。さらに結末もハッピーエンドなので、スッキリした読後感を味わえるという話もありました。

 もっとも実のところ、しゅろさんはこの作品を紹介するか、かなり迷ったそうです。というのも、しゅろさんの好きな作品は〈読んでどんな感情を抱いたらいいかわからなくなるような作品〉であり、気持ちが上向くだけの作品に対しては、どうしても「軽い」と感じてしまうのだとか。気晴らしに本を読みたい人にとっては、軽さはプラスの要素になりますが、読み応えを求める人や、深い考察を楽しみたいという人にとっては、軽さはむしろ歓迎されない要素なのかもしれません。

 僕も数年前、別の読書会の課題本で『夏への扉』を読んだことがあるのですが、心に深く刺さるところがなく、感想を話すのに苦労した覚えがあります。人を選ぶ作品なのかもしれませんが、サクッと読める本を探している人は、一度手に取ってみてもいいのかもしれません。

◆2.『ドミノ』(恩田陸)

 『夏への扉』に続き、しゅろさんから名前が挙がった本です。「もし日本の作品で挙げるなら」ということで簡単に紹介されただけなので、あまり詳しいことはわからないのですが、沢山の人物が登場する小説で、一人ひとりの物語は短いけれど、最後にそれらの物語がつながっていくところは凄かったという話でした。

◆3.『15歳からの社会保障』(横山北斗)

 読書会の代表である竜王さんからの紹介本。タイトルの通り、15歳の人にもわかるように書かれた社会保障制度の解説本です。10個のエピソードを挟みつつ、医療保険や子育て支援・DV対策など、様々な制度のあらましが紹介されます。

 「人生は何が起こるかわかりません」という一文から、この本は始まります。社会保障は、思いがけない出来事により苦境に陥った人の生活を保障するためのものです。ところが、日本の社会保障制度は、困っている人が自ら保障を受けたいと申し出る申請主義となっているため、「知らなければ利用できない」状態にあります。著者の横山さんは、本来申請主義はおかしいのではないか? と考えているそうです。が、だからといって制度が変わるまで待っているわけにもいかないので、社会保障のことを知ってもらえるように、この本を書いたのだそうです。

 あくまで入門編的な性格の本なので、各制度の細かい内容までは書かれていないようですが、それでも、困った時に使える知識を教えてくれるものなので、読む人を明るくしてくれる本なのではないか。竜王さんはそう話していました。

 読書会の中では、親の介護や自身の怪我などの経験をした人たちが、社会保障制度のありがたみを実感たっぷりに語る場面もありました。僕は今のところ、社会保障に強く助けられたと感じるような経験はありませんが、いつか保障が必要になる時が来るかもしれないのは変わりありません。今のうちからこういう話題にもっと関心を持ちたいと、強く感じました。

◆4.『「心のクセ」に気づくには』(村山綾)

 読書会きっての多読派・van_kさんからの紹介本。これもタイトル通りの本で、「心のクセ」つまりバイアスなどについて書かれた、初学者向けの新書です。

 心のクセの中には、自分が既に知っていることに合致するような都合の良い情報を集めたがる傾向(確証バイアス)のように、幾分厄介なものもあるため、知る時には多少の痛みを伴うこともあります。とはいえ、心の特徴や思考のクセを知っていると、何かあった時に「今心がこう動いたんだな」というのがわかって対処がしやすくなったり、「心にはそういう傾向があるんだからしょうがない」と自分を深く責め過ぎずに済んだりします。知ることが救いにつながる、つまり読むと明るくなる本だと、van_kさんは話していました。

◆5.『なめくじ艦隊』(古今亭志ん生)

 続いてもvan_kさんからの紹介本。人間国宝にまでなった落語家・古今亭志ん生さんが自らの半生を綴った本です。余談ですが、van_kさんの紹介本には、以前から落語関係のものがちらほら混ざっています。

 古今亭志ん生さんは落語の名人には違いないのですが、生き方がとにかく破天荒。稼いだお金を遊びやお酒に次から次へと使ってしまうので、大抵いつもお金に困っていたそうです(関東大震災に遭った時、「酒が飲めなくなる!」と慌てて、お店のお酒を買い占めたというエピソードまであるのだとか)。この本のタイトル『なめくじ艦隊』も、業平橋の近くにあった家賃ゼロの居宅が、日の当たらないジメッとした建物で、なめくじでも出そうな場所であったことに由来するようです。

 自業自得のような気もしますが、とにかく大変な生活を送っていた志ん生さん。しかしこの本の中に登場する彼は、ただ生活苦を嘆く人ではなく、むしろそれをどこかで笑い飛ばしている人なのだそうです。そんな人を見ていると、辛いことがあっても、どこかで笑えりゃいいよねという気持ちになると、van_kさんは話していました。

◆6.『最軽量のマネジメント』(山田理)

 こちらもvan_kさんからの紹介本。ホワイト企業の代表格と言われるサイボウズの取締役が書いたマネジメントの本です。大まかに言うと、〈これからの組織はトップダウン型ではなく、積極的に情報を公開してメンバーから意見を募り、トップは最終決断を下すだけというスタイルで運営するのが良い〉ということが書かれているそうです。

 トップダウンで上位者がなんでも意思決定する組織においては、上位者は数多の案件を一人で抱え込んで溺れかかっています。それらの案件を他のメンバーにどんどん任せて、自分は結果報告を待って最終決断を下すだけというスタイルにすれば、トップは身軽になりますし、メンバーは意味と役割を与えられモチベーションがアップするので、結果的に良い組織が生まれる、という話です。

 もちろん、サイボウズという組織の特徴は多少割引いて考えなければならないと思いますが(ベンチャー出身でやる気に溢れた人が多い)、僕自身の経験を振り返っても、部署全体で取り組まなければならない案件の中で一定の役割を果たせると、ただルーティンワークをこなしている時以上のやりがいを覚えることがあります。方向性が明確で、それぞれが役割をもち、意味を感じながら仕事に取り組むことができるような環境は、どのメンバーにとっても望ましいものではないかと感じます。

 組織の在り方については、紹介後のトークでも話題になりました。サラリーマンが集まる読書会だけに、関心の高いテーマだったようです。

◆7.『聞く技術 聞いてもらう技術』(東畑開人)

 最後は、ワタクシ・ひじきの紹介本。臨床心理士の東畑開人さんによる「聞く」論の本です。この本については、先日読書ノートを書いたので、詳しい紹介はそちらに譲りたいと思います。

 大まかに言うと、〈人の話が聞けなくなるのは、技術が足りない時ではなく、余裕を失くした時である。だから、そんな時は、まずあなたが誰かに話を聞いてもらうことから始めよう。そして、余裕が生まれたら、誰かの話を聞いてあげよう〉ということが書かれています。タイトルには「技術」という言葉が入っていますが、いわゆる聞き方のハウツー本ではなく、「聞く」ことの一番大切な部分に迫りながら、人と人との関係を見つめ直すという内容になっています。

 臨床心理士の方が書いているだけあって、この本の「聞く」論は、余裕のなさ、とりわけ誰にも自分をわかってもらえないことの痛さに焦点が当たりながら進んでいきます。人が一番辛いと感じる状況を掬い上げるようにして話が展開していくので、読んでいると僕まで心が底から持ち上げられるような気がします。明るくなるという以上に、体が芯から温まるような、そんな一冊ではないかと、僕は思います。

     ◇

 以上、「読んで明るくなった本」というテーマに沿って紹介された7冊の本を見てきました。

 個人的な感想を言うと、小説が少なく、新書系の本が多かったのが意外でした(そういう僕も新書を紹介したのですが)。明るくなる本と言うと、心躍る冒険物語や、ハッピーエンドで締めくくられるヒューマンドラマなどがまず浮かぶのではないかと思います。しかし、今回紹介された本を振り返ると、むしろ「何かを知ることにより、困り事に対処できるようになる」という現実的な効果が得られる本が、「明るくなる本」として取り上げられていたことがわかります。元々この読書会では、小説に限らず、評論や入門書・学術系の本が紹介されることがよくありました。それを踏まえると、今回は実に、この読書会らしい回だったのかもしれません。

 何はともあれ、記事を書いた身としては、皆さまが今回紹介した本のどれか1つにでも興味を持っていただけることを願うばかりです。もし気になる本がありましたら、是非手に取ってみてください。それでは。

(第129回 2月13日)

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