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-ヨキの刃沓- 山林刃物のお話。

二十四節気「雨水」

空から降るものが雪から雨に変わり、氷が溶けて水になる。今日は暦通りに朝から雨の一日でした。

…むかしむかし、山師のお爺さんは雨で山仕事が出来ない日には藁で草履や筵を編んだり、刃物を研いだり、刃沓をこさえたり、次の仕事の準備をして過ごしておりました。

と、いうことで今日は「ヨキの刃沓」の作り方。ほとんどの方が全く興味の無いお話だと思います(笑

まず言葉の説明をしておきますね。「ヨキ」…斧のことです。大きいものは薪割りに、小さいものは枝打ちしたり、楔を打ったり、山仕事にはかかせない道具です。この辺りだとヨキよりも「ヨーキ」と呼ぶ人の方が多いかな。「刃沓(はぐつ)」…斧を持ち運ぶ際に刃の部分に付けておくカバーです。

これは小さめの手斧ですが、斧の裏表にはそれぞれ表に三本、裏に四本の筋が入っています。色々な説がありますが、「三本=ミキ(お神酒)、四本=ヨキ(五穀、地水火風)を伐採前にお供えする」「三本=ミ、四本=ヨで、ミヨケ(身避け)となり災いを防ぐ」など色々な説があります。

「三本=ミ、四本=ヨ」なら「ミヨ」じゃねーか、と思ったそこのあなた、気にせず刃沓を編みましょう。

まずは「太い方の棕櫚縄を1.5m程」と「細い方の棕櫚縄を3m程」準備して下さい。「細い方の棕櫚縄は真ん中で折り返して2本一緒」に編みます。(長さは斧の大きさで変わります)準備できたら、上の写真のようにヨキに太い縄をかけて編み始めの位置に細い縄を結んでおきます。結んだら斧から外して下さい。

それでは編み始めます。基本的に「太い縄に細い縄を巻きつけます」。写真のように「細い縄を上から通して、下から抜いて下さい」少し固めに縛ったら、次は左です。

左も同じことの繰り返し、「細い縄を上から通して、下から抜いて下さい」後はこれの繰り返し。

この際に、縛る強さを一定にして、山になる部分を中央に揃えていくと綺麗に仕上がります。

裏をむけるとこんな風に隙間が出来ていて、ここにヨキの刃が入ることでカバーの役割になります。はい、あとはひたすら同じ編み方の繰り返し。たまに刃に当てながら充分な長さになれば適当に結んで終わりです。

これで完成。ヨキの刃沓。簡単でしたね。太い糸や縄であれば、麻でもいいし、最近だとパラコードなんかでもいいですね。これは昔ながらの棕櫚。棕櫚は水を弾くということで、昔は棕櫚が多かったようですね。

このヨキの刃沓、残念ながらもう亡くなった集落の山師の爺さんから習ったものですが、若い頃、やはり雨降りの日には作られてたそうです。亡くなられる前に「お、合格!」と言って貰えたことが嬉しかったです。

さて。簡単に編み終わったので、ついでに山林刃物のお話。

この柄が長い鉈、上2つは「ヒツ鉈」。山暮らしでは一番使う頻度が多い刃物かな。刃の先の出っ張った部分は「石当て」といい地面に当たっても刃が痛まないようになってます。薮を切り開いたり、伐採した枝を落としたり、よく田舎の爺さんがベルトの背中側に差してるあれですね。上から3つ目はよく似ていますが刃の先部分も90度刃付けしてある「柄鎌」。ヒツ鉈と草刈り鎌を合体させたものです。鉈と鎌の機能があるので、山に持っていく道具が一つ減りますね。一番下は「登鎌」こちらは鉈のように叩いて切るというよりは、名前の通り鎌として切る用途が主になります。斜面の草刈りなんかには便利です。あ、赤いテープは山で無くさないように目印です(ここ大事)。

ちなみに「ヒツ鉈・柄鎌」には角ヒツ、丸ヒツ、北海道型、九州型、阿蘇型、紀州型、佐賀型、など色々な種類があり、奥深ーーい世界です(笑

「ヒツ鉈」は日常的な生活でも出番が多いので、これから山暮らしをはじめる方が最初の一本として持たれるのにいいと思います。よく使うので柄の部分も色々加工したりしてます。左は赤樫を削り出して、叩く動作が多いので滑り止めを彫っています。右は白樫で一寸ずつ尺二寸まで測れるように目印を入れています。山奥で玉切りするときに便利です。

こっちは「腰鉈」。ベルトに通したり、腰に紐で巻きつけたりしておく鉈ですね。こちらも用途に応じて剣鉈、腰鉈、片刃、両刃、長さ、厚みなど色々な違いがありますが、使い分けは主に気分次第ですね(笑

たとえば「剣鉈」の中でもこれは狩猟の際に止め刺しに使うものです。狩猟や渓流釣りの際には薮を払ったりも出来るので便利です。鞘の桜は数年前に巻いたものですが、まだしっかりしています。

これは刃物では無いですが、ついでに。左2つは山に砥石を持っていく籠です。一番左は竹の砥石入れ、真ん中は東北地方で作られた山葡萄の砥石入れ。田舎のヴィトンです。一番右は同じ東北地方ですが山胡桃の鉈入れ。昔の人はこんなの使ってたんですね。おしゃれですね。

さて、刃沓も出来たし、天気も回復しそうなんで、明日は山へ。

椎茸用のほた木の玉切りをしてきます。約2,000本。大きいお弁当と、手に馴染んだ刃物を持って山仕事。気持ち良いですよ。

でわでわ、また何かつくったらこちらに投稿します。