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北国の空の下 ー 週末利用、自転車で北海道一周【59】20日目 苫小牧〜室蘭① 2017年7月30日

週末や有休を利用して、50代のサラリーマンが、ロードバイクで北海道一周した記録。真夏の日高を走った翌日は、雲の多いスッキリしない天候の中、変化の少ない海岸線を西へ向かって走ります。

▲ 本日のルート

◆ どんよりとした朝

北海道一周ルートをざっと俯瞰するに、今日は最も面白味に欠ける1日かもしれません。

苫小牧から室蘭にかけては、変化に乏しい海岸線、しかもエスケープルートがなく、ほぼ国道36号線を辿るしかありません。

室蘭は、最近では工場夜景が注目され、また地球岬をはじめ自然景観に恵まれた土地でもあります。しかし、ここは札幌赴任中に、2回ほど訪れたことがあります。そのうち一回は、初夏に中山峠と洞爺湖を経て、地球岬までのセンチュリーライドを試みたものでした。太平洋に臨む断崖絶壁の上で、黄昏の噴火湾の対岸に朧げに渡島駒ヶ岳と恵山の輪郭を臨み、走り切った感慨に耽ったものです。
今日は雲が多い上、行楽シーズン故、内外からの観光客に占拠され、風景を独占なんで贅沢は望むべくもないでしょう。

室蘭の先は、伊達紋別まで走りたいと考えていました。この区間は、2年前の札幌~地球岬ライドでも走った、海を臨む気持ち良い道があるけれど、この道のためにわざわざ走りに来るほどでもありません。

そんなことで、なかなか気合いが入らず、天候もはっきりしない朝を迎えました。
加えて、昨夜入ったホテルそばの居酒屋で散財してしまい、ちょっと自己嫌悪に囚われてもいます。
それでも、8時の時報と共に出発。昨日は150kmを走り、しかも後半戦は気温も高かったのだけど、疲れを全く感じないのは嬉しいことであります。
言うまでもなく、苫小牧と言えば重工業の集積する企業城下町。そのうちの一つ、王子製紙の工場が苫小牧駅近くにあり、地図によると社宅も隣接しているようで、かつては賑わったに違いないアーケード街があり、呑み屋も多数。もっとも、日曜の朝のこととて、通りは静まり返っていました。
苫小牧の市街地は、海岸線に沿って、東西に長く延びています。最も海岸に近い国道36号線は、交通量の多さからなるべく忌避したい。静まり返った商店街を抜け、さらに住宅地の中を巡る生活道路を選んで、西へ向かいました。

もし天候に恵まれていたら、今日は三重式火山である樽前山の独特の姿が道連れになってくれるはずでした。しかし北の空は雲の中。「週末北海道一周」ライドでは、どうも北海道の名山の眺望には恵まれていません。道東でも斜里・知床を走った時は曇り空や雨に祟られて、オホーツクの秀峰である斜里岳は見えず、羅臼岳をはじめ知床の連山も、すぐ霧の中に隠れてしまいました。十勝からのえりも周回も雨の中で、日高山脈は全く望めずじまいでした。

変化に乏しい海岸線、山も雲の中、書くべきことが大してないので、約140年前のイザベラ=バードの旅行記を紐解きながら筆を進めていきます。

▼ 以下、引用は全てこちらを使わせて頂きました。

◆ イザベラ=バードが旅した胆振

バードの記述によれば、彼女がこの地を訪れる4年前の1874年、当時死火山と思われていた樽前山は突如噴火を起こし、襟裳岬にまで火山灰を降らせ、彼女が目にした樽前山は、噴火によって立ち枯れた何万本もの樹木が山麓に縞模様を描く様だったそう。
実際は、樽前山は17世紀以降、度々、小~中規模の噴火を繰り返しており、バードが言及している1874年の噴火の直前も、1800年代前半に小規模な噴火が繰り返された時期があり、また1967年にも地震と噴火が確認されているそうです。
その後、昭和期には小規模な噴火が繰り返されていましたが、1980年以降は落ち着いています。(出典「樽前山の噴火史」苫小牧市ホームページより)

斜め前からの風を受けながら、時速30キロほどのイーブンペースで国道36号線をトコトコ走り、コンビニでの休憩を一回入れ、社台ファームの馬達を横目に、1時間半ほどで白老着。

▲ こんな道をどこまでも…

海風を避けて市街地に入ります。白老の町は、2年前に仕事でちょっとだけ来たことがあり、特段興味を惹かれるものもなかったので、今日は立ち止まらずに駆け抜けました。
白老もアイヌコタンで知られる土地。イザベラ=バードも、アイヌと倭人が共存する様を描いています。

白老からさらに、一直線の国道を15キロほど走っていきます。

灰色の平野と灰色の海の遥か上には、とても高くて美しい山の向こうに、太陽が金色と朱色の縞模様を帯びた緑の中へ沈んで行こうとしており、山の麓には森に覆われた丘陵が紫色の影の中に横たわっていました。

イザベラ=バード 前掲書

ここを旅した夕暮れのことを、バードはこのように記しています。平野の上に見えた山は樽前山や恵庭岳、海の上に見えたのは渡島駒ケ岳でしょう。いっそのこと、昨日内陸に寄り道しないで走り、苫小牧を通過して、この辺を夕方走って登別あたりで泊まるぷらんにしていたなら、そんな夕景の中を走れたのかもしれません。

そして虎杖浜に至りました。ようやく通行量の多い道を離れ、温泉や海産物店の並ぶ旧道に入り、ほっと一息。

▲ 虎杖浜にて

虎杖浜はたらこが名物で、タラとタラコの親子丼など食べられるようですが、時刻はまだ10時過ぎ、全然お腹も空いていません。気分が乗っている日なら、こんな時間帯でもがっついてしまうところですが、なにせパッとしないお天気と退屈な道、さっさと室蘭まで走ってしまいたい気分でした。

虎杖浜の先は、倶多楽が海に落ち込むところに、ちょっとした上り降りがありました。高台に高級そうな旅館が海を見下ろしています。
バードの旅行記の中には、恐らくはこの辺りのことと思われる記述がありました。

坂を下ると小石の河原があり、川が音を立てて流れていました。 青緑色の水は澄み、上流の何か薬効のある温泉の発する強い硫黄の匂いが立ち込めていて…

イザベラ=バード 前掲書

登別温泉からこの辺りの海岸に流れ込むいくつかの川のいずれかを指しているものと思われます。
一旦国道へ戻り、すぐに登別漁港の方へ分岐する道が地図に出ていましたが、越波のため通行止め。そういう道ほど面白いのだけど、今日も若干波は高い。万が一海水を被ってバイクが錆びたりしたら辛いんで、ここは大人しく従って、ロードサイド店舗の並ぶ国道を進みました。
登別漁港も登別駅もこの周辺にあるのだけれど、市の中心地や温泉街はここからは離れています。国道沿いにコープさっぽろの店舗をはじめ若干の商業施設があり、あとは静かな住宅地が広がるばかり。
国道を駆け抜け、海沿いの道をちょっとだけ走り、また国道をひたすら走ります。

◆ イタンキ浜

前方に、突凸と海に突き出した鷲別岬が見えて来ました。その付け根を過ぎて、室蘭市に入ります。

これから地球岬を目指すのですが、その前にイタンキ浜に寄ってみようと思います。ここは鳴き砂で知られているビーチです。

到着してみると、想像と違って、荒れた雰囲気の砂浜でした。火山に近い浜の常で、砂が灰色であるせいもあるでしょう。

▲ イタンキ浜

北海道で海水浴できる期間は僅か2~3週間。貴重な週末だと思うのだけど、波が高く、海に入っている人は見られません。しかも、しばらく裸足で歩いてみたが、砂が鳴る気配はまるでなく、早々に諦めました。

ただ、地球岬へと続く、絵鞆半島の断崖の景観はなかなかのものです。100m以上もの断崖が太平洋から直接せり上がり、強い潮風のせいか、潅木と丈の短い草だけが頂稜を縁取っています。この断崖がまさに屏風のように風を防いでくれるお陰で、室蘭は天然の良港として、さらに重工業都市として知られる存在になったわけです。

バイクのところまで戻り、シューズを穿いて、出発準備を整えますが、バックポケットに入れておいた筈のグローブが片方見当たりません。高いものではないけれど、今年、購入したばかりのフランスのブランドで、デザインが気に入っているのです。

引き返してみたけれど、強い風に飛ばされてしまったよう。

がっかりしつつ、地球岬への登りにかかります。

◾️ ◾️ ◾️

ここまでお読み頂き、ありがとうございました。引き続き、地球岬を目指して絵鞆半島を走ります。宜しければ続きも読んで頂ければ嬉しく思います。

▼「週末北海道一周」のここまでの記録はこちらです。よろしければご笑覧ください。

私は、2020年に勤務先を早期退職した後、関東から京都へ地方移住(?)しました。noteでは、ロードバイクで北海道一周した記録や、もう一つの趣味であるスキューバダイビング旅行の記録、そのほかの自転車旅や海外旅行の記録などを綴っています。宜しければこちらもご覧頂ければ幸いです。



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