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北国の空の下 ー 週末利用、自転車で北海道一周【61】21日目 室蘭〜長万部① 2017年10月9日

週末や有休を利用して、50代のサラリーマンが、ロードバイクで北海道一周した記録。
21日目は、室蘭から噴火湾に沿って走りますが、朝から重苦しい天気。

▲ 本日のルート

◆ ここまでの道のり

室蘭は、立ち込める低い雲の下で、憂鬱な朝を迎えていましたた。
ホテルの窓から正面に見える筈の測量山も、灰色の靄の中にあります。
何ともテンションが下がるお天気。
午後にかけては青空も覗くようなので、朝はゆっくりと、9時出発にしました。

10月の三連休、最終日。
ここに来るまでに、秋の深まる美瑛で友人と二日間のライドを楽しみ、前日の深夜、東室蘭に着きました。
本当は、このような計画ではなく、美瑛ライドは一日だけのつもりでした。美瑛は初夏に走ったばかりでもあり、今回は十勝岳の望岳台まで上って、紅葉と雪のコントラストを堪能するのが主目的。その夜は旭川に泊まって友人と一献の後、翌日の午前に東室蘭へ移動、午後から「週末北海道一周」の続きをスタートする予定でした。
ところが出発前につまづきました。この週の初めに風邪をひいてしまったのです。季節の変わり目に風邪をひくことも発熱することも、ここ数年はなかったのですが、日高・胆振を走った真夏のライドの後も、沖縄とメキシコへダイビングに行ったりしていまして、要は遊び過ぎのツケでしょうか。
前日までに何とか熱は下がったものの、ドロドロした鼻水と咳が止まらず、なんとも不快。
さらには、初日の天気予報が思わしくありません。「晴れのち雨  降水確率70%」。山の上で雪に降られてはシャレにならん。2日目は晴れとの予報だったので、友人と話し合って予定を変更し、初日は美瑛をのんびりポタリングし、夜は旭川のB級グルメ「馬場ホルモン」を堪能。2日目は晴天の報を信じて、十勝岳の望岳台へ。しかし、午後から雲が広がり、冠雪した十勝岳の頂稜は拝めず、寒々しい1日でした。

▲ 美瑛残照
▲ 望岳台にて

◆ 朝の室蘭

さて、風邪はだいぶ回復しました。しかし、まだ鼻水が止まらず、鼻にセレブなティッシュが手放せません。
東室蘭のホテルを出て、国道37号線を西へと走り出しました。大型トラック、バスが、高速で走り抜ける産業道路です。
左に室蘭を代表する景観とも言える工場群が過ぎていきます。室蘭は、最近のインスタ流行りで、工場夜景の街として注目されています。
ところが、夜景の象徴的な存在とも言えるJXTGエネルギーの製油所が、ガソリンや石化製品の製造から撤退し、燃料配送基地に転換するとの発表が、先月末にありました。JXTGと取引のある地元企業の打撃はもちろん、小売、サービス業、さらには市の税収など、その影響は甚大でしょう。
ガソリン車からエコカーという変化によって、かつて炭鉱町で起きたことが今度は重工業都市で起こる時代になりました。
白鳥大橋の下をくぐると、間もなくそのJXTGエネルギーの敷地を横目に走るようになります。無数のライムグリーンの貯油タンクが曇天の下に並んでいます。
その先でようやく、気が抜けない国道を外れ、ほっとしました。
海が近くなり、辺りは生臭くなりました。
楢崎製作所の工場を過ぎると、道は渚に出ます。振り返ると電波塔などがいくつも立つ測量山が、低く垂れ込めた雲を背に、ぼんやりとしています。
 

▲ 絵鞆半島を振り返る

やがて、黄金駅に到着。アイヌ語で「オ・コンブ・ウシ・ぺ」、昆布を取るところ から、オ・コン→オウゴン→コガネ と変化したといいます。その名のような隆盛は感じられない静かな海辺の集落の中に、無人駅がありました。
ここでは先月、線路が海水を被った影響で列車がオーバーランし、下車できなかった乗客は隣の駅からタクシーで送り届けられる、というハプニングがありました。濡れたレールが滑りやすいのはわかるけど、レールは雨でも雪でも濡れるわけで、そんな簡単に止まらなくなるものなのか、と思ったものです。

▲ 無人の黄金駅

少し国道を走り、また道道に入りこみました。
一昨年の6月、札幌から中山峠を越えて洞爺湖を経由して伊達紋別に至り、室蘭まで最後の道程を、この道を経由して走りました。向かい風が厳しかったけれど、初夏の花々が路傍を彩り、噴火湾の対岸には朧げながら渡島駒ケ岳の双耳の輪郭が臨まれ、交通量の少ない静かな道を、それなりに快適に走ったことを記憶しています。
残念なことに、今日は海霧に包まれて噴火湾を取り囲む山々の眺望は開けず、路傍の花々もとうに盛りを過ぎて、濡れたドライフラワーのような惨めな様相。

◆ 北の湘南・伊達紋別

都会からの移住者の多い土地、という先入観のせいかもしれませんが、伊達紋別の市街地に近づくにつれ、瀟洒な一戸建てが散見されるようになってきました。欧州の片田舎の家のように、鎧ばりの外壁を綺麗に塗装した平屋建て、外に薪を積み上げたログハウスなど、美瑛あたりで見かけるような佇まいです。
 
伊達は、宮城の亘理藩が入植し開墾した土地。対馬海流の影響で北海道の中では比較的温暖、積雪も殆どないことから、花卉・甜菜などの栽培や畜産などが発達しました。イザベラ=バードはこの地域を「美しく豊かな穀物の海」と評し、「何もかもが日差しを浴びて輝き、申し分のないオアシスのようで、蝦夷が持つ大人口を支える食料庫としての力の大きさを示しています」と述べています。
背景に有珠山や洞爺湖などの景勝地も抱え、近年ではセカンド・ライフの移住地として人気たそうです。
ただそれよりも、元乗り鉄としては、室蘭本線と廃線になった胆振線の接続駅だったことで馴染みがあります。胆振線沿線の北湯沢温泉に、大学のセミナーハウスやら馴染みのユースホステルやらがあったため、伊達紋別では何回か乗り換えたことがありました。
駅には馴染みがあっても町のことは全く知りません。
なので、もし予定通りならば、昨晩はここに泊まるはずでした。今来た道を室蘭から走って来て、時間があれば洞爺湖一周、そして夜は「北の湘南」のいい店を探し、この土地の幸を堪能しよう、と思っていたのです。
市街地を少し周回してみても良かったけれど、結局、一直線に通り過ぎるだけになってしまいました。パッとしない天気と風邪気味のせいで、気持ちが投げやりになっているのです。

火力発電所を横目に、農地の中の砂利道に迷い込み、再び国道36号線に出て間もなく、断崖の高巻きがありました。
全くもって迂闊なことに、伊達紋別から先の本日の行程は、礼文華峠への登り口にあたる豊浦までは、ゆったりした起伏こそあれ平坦基調のルートだと思い込んでいました。
しかし、改めてgoogle earthなどで確認してみると、伊達紋別~洞爺間は有珠山の主稜の一つが海に落ち込んでおり、洞爺~豊浦間は三角山という洞爺カルデラの外輪山の一角らしき山が海に迫っています。
さらに豊浦から先も、険阻な海岸線を避けた内陸の山越えが二つあって、その先にようやく胆振と檜山を分ける礼文華峠が現れる、という次第なのです。ここまでの北海道一周ルートの中では、高巻きと長大トンネルの連続する石狩~留萌間に並ぶ険路に見えます。
体調万全、気力充実している時ならいざ知らず、大してハードな走りではなかったとはいえ2日間走った疲れはあり、風邪もひいており、陽光にも全く縁がなく、陰気な風景が広がるばかり。
こんなことなら、今日は道南に輪行で移動して、大沼や函館あたりの紅葉を楽しみながら走り、「週末北海道一周」ライドは次の機会に回せばよかった、とも思います。しかし、こんなところまで来てその事実に気づいても既に手遅れ。
正午から午後3時くらいにかけては青空が覗く、という天気予報にかすかな希望を託して走るしかありません。

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ここまでお読み頂きありがとうございました。引き続き、気分が乗らぬままに、道南の険路へと分け入ります。続きもまたお読み頂ければ嬉しく思います。

▼「週末北海道一周」のここまでの記録はこちらです。よろしければご笑覧ください。

私は、2020年に勤務先を早期退職した後、関東から京都へ地方移住(?)しました。noteでは、ロードバイクで北海道一周した記録や、もう一つの趣味であるスキューバダイビング旅行の記録、そのほかの自転車旅や海外旅行の記録などを綴っています。宜しければこちらもご覧頂ければ幸いです。



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