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困窮者に無料の食事・払える人が「Pay it Forward」

政府機関の封鎖が35日間続いたアメリカで、連邦職員の多くが自宅待機などを指示され、収入も途絶え苦境に陥っていた。そんな彼らに、ニュージャージー州でレストランを経営するロックスター、ジョン・ボン・ジョヴィが、無料で食事を振舞った。実は彼のレストランでは、お金がなくてもだれでも食事ができる。「pay it forward(次に渡そう)」をミッションとするこのレストラン、いったいどんなところなのか。

◆ロックスターが財団設立 目的は困窮者の救済
 ジョン・ボン・ジョヴィは、80年代から活躍するアメリカを代表するハードロック・バンド「ボン・ジョヴィ」のリーダーだ。実は彼は2006年にJBJソウル・ファウンデーションという団体を設立し、チャリティ活動を行っている。同団体は、ジョンの故郷ニュージャージー州で「JBJソウル・キッチン」というレストランを2件保有しており、このうちの1件が、1月21日の午後12時から2時までの間、連邦職員とその家族に無料で食事を提供した。


 ジョンと、レストランの経営に参加する妻のドロセアさんは、「ソウル・キッチンを創設して以来、食べることに困っている人たちの行き場を作ろうとしてきた」と言う。苦境に陥っている多くの連邦職員は、隣人であり友人でもあるとし、彼らをサポートする場所と手段を作る方法の一つとして、昼食の提供を決めたとしている(CBS)。

◆客は皆平等、払える人は「次へ渡そう」 
 ジョンはソウル・キッチンをコミュニティのレストランと呼ぶ。同店のホームページによれば、予約は取らず、客は来た順に席に着く。メニューは、アメリカの地方料理で構成される3コースセットのみだ。スターターのスープかサラダ、メインコース、デザートが付いてくる。ほとんどの料理は、地元の新鮮な食材を使って作られているという。

 メニューには、料金は表示されていない。代わりに目安となる寄付額(現在20ドル)が伝えられる。食事をした後、自分の食べた分に加えて誰かのために支払う「pay it forward」で寄付をすれば、お金を払えない客をサポートすることができる。お金のない客は、自分や家族の食べた分を払う代わりに、店内でボランティアとして働く。人と人との信頼で成り立つシステムであり、食い逃げは想定していないとジョンはピープル誌に語っている。

 アメリカには貧しい人向けのスープキッチンという無料食堂があるが、ソウル・キッチンはまったく違う。ここでは、その人の経済力や経歴にかかわらず、客は皆平等に扱われ、見知らぬ人と隣り合って食事をする。隣席の人が支払う側か支払われる側かは問題ではなく、一緒に食事をし、語り合うことで、コミュニティを感じることができるのだそうだ(ピープル誌)。CNNは、一見こぎれいでトレンディに見えるこのレストランの食事には、「希望」という必要不可欠な材料が含まれているとしている。

◆誰でも弱者になり得る 助け合う社会実現へ行動を
 JBJソウル・ファウンデーションが目指しているのは、直接行動することにより、貧困と戦うことだという。そのきっかけになったエピソードをジョンはCNNに語っている。
 ある冬の晩、寒さの厳しい米北東部、フィラデルフィアのホテルの窓から街を見下ろしていたジョンは、寒空の下で眠るホームレスの男性を見つけたという。このとき、年齢、人種、支持政党にかかわらず、これが今の社会では誰にでも起こり得る問題だと気づき、どうすればこの問題解決に、人々の協力を得ることができるのかと考え始めた。たどり着いたものの一つが、「pay it forward」モデルであり、レストランの成功は、個人のエンパワーメント(社会の一人一人が発展や改革に必要な力をつけること)によるものだったとしている。
 レストランの他にも、JBJソウル・ファウンデーションは、全米の10を超える州で、500件以上の手ごろな住宅を建設したという。元やんちゃなスーパースターは56歳の今、ボン・ジョヴィの名曲、「アイル・ビー・ゼア・フォー・ユー」さながらに、弱者に寄り添う活動を続けている。