見出し画像

『医者の誕生日』


医者の誕生日』とは、"ぎ曲"の一つである。

(※ぎ曲…とある町のとある時期に町民の間で流行した、架空の会話を創作する遊び
または、それによって創作された会話の事を指す。
その全ては町民たちによって作られ、文章に残されている物もあれば口頭でのみ伝聞されたものもある。
著名な作品に『裾上げ頼めなくてズボン持ってない』『第一声真実』『インディ・ジョーンズ』などがある。)


私が"ぎ曲"について知ったのは偶然だった。
当時の私はRPGに熱中しており、自室に引きこもって朝から晩までゲーム三昧という生活を送っていた。
しかしある晩、レベル上げを母にやらせていたのが父にバレてしまい、私は強烈に叱責を食らうハメになった。おおよそ普段から私の生活をよく思っていなかったであろう父は、圧倒的に私を叱り倒したのだ。
その際に父が「大体お前、RPGがどういう意味かも分かっていないだろう?」と、謎の問いかけをしてきたので私も焦ってしまい、「チョ、チョッキ…?」などと意味のわからないことを言ってしまった。
これが私と"ぎ曲"との出会いだ。


失礼。
大学時代の友人が「昔、俺の地元で流行った遊びなんだ。」と"ぎ曲"が書かれたノートを見せてくれたのが、私と"ぎ曲"との出会いだった。

そのノートには、友人が創作したもの以外にもいくつかの"ぎ曲"が収録されていた。
医者の誕生日』も、その中の一編である。
友人にも了承を得ているので、今日はそれを紹介したいと思う。


場面は腹を壊してしまった正男が、医者の平岡を尋ねるところからはじまる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

医者の誕生日

作 : 歯科医の川西先生

平岡「こんにちわ、今日はどうされました?」

正男「なんかお腹が痛いんです…」

平岡「腹パンですか?」

正男「はい?」

平岡「腹パンされました?」

正男「いや、されてないです。」

平岡「腹パンは…されてない…っと。」

正男「なんかもっと内側から痛むんですよね」

平岡「いや後からそんなん言われても困るから。」

正男「え?あ、……すいません」

平岡「もうオペするしかねえか」

正男「え、オペするんですか?」

平岡「おそらく胃が穢れてるので交換しますね」

正男「言葉慎んでもらっていいですか?」

平岡「赤ちゃんのピュアな胃と替えます」

正男「そんな事したら、胃袋ちっちゃくてあんまり食べられなくなるじゃないですか。」

平岡「それがあなたへの罰です」

正男 「ちょっと待って、罰ってなんなんですか。そんなの医者の仕事じゃないでしょ。」

平岡「オペは医者の醍醐味ですよ?」

正男「オペはそうかもだけど。今、人間の七つの大罪も裁こうとしてませんでした?」

平岡「ああ、オペついでに」

正男「今は治療に専念してくださいよ」

平岡「ていうかむずいわ、病状って変えてもらうことできる?」

正男「できませんよ。でもそういえば、最近何をするにも体がダルくてやる気が出ないんですよね。」

平岡「じゃあ入院しましょうか。」

正男「え、入院!?」

平岡「退院した頃にはすっかり勤勉になってますよ。」

正男「いやだから人間の七つの大罪を裁くなってば」

平岡「ごめんつい。」

正男「患者は罪人じゃないし、医者だからって先生は特別な人間じゃあないんですよ?」

平岡「まあ確かに私は普通の人間だけど、していることは特別だよ?」

正男「うわー!!変な医者だ!!!逃げろー!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?