見出し画像

手紙を出そう

 手紙の力

手紙は良い。
SNSより時間も手間もかかるが、そのぶん心がこもると僕は思う。
文字の上手・下手に関わらず手書き文字は温かみがあるし、消しゴムの跡ほど愛おしいものはない。
とは言っても僕自身、手紙を出したり貰ったりするといった経験は浅い。
だが手紙が好きだ。良い。


僕が最後に手紙を出したのはいつだっただろうか。
僕の記憶が確かならば、恥ずかしながらかなり昔の話になる。
「1999年、恐怖の大王が人類を滅亡させる」というノストラダムスの大予言に本気で怯えていた僕は、宛先も分からない「恐怖の大王」に『これをあげるので、めつぼーはやめてください。』と我ながら微笑ましい手紙をしたため、叔父のセクシーチェキと一緒にポストへ投函した。
あれが最後だったと思う。

あ、いや違う。
そういえば先週、地元の町役場に戸籍謄本(原本)の請求を郵送で申請したんだった。
それが最後だ。


手紙は良い。
恐怖の大王から人類を守ることもできれば、遠く離れた土地から戸籍謄本(原本)を請求することもできる。
手紙の力は未知数だ。
今こそ手紙を出そう。皆んなも出そう。せーので一気に出そう。

 手紙を出そう

手紙を出すのに一番重要なものはなにか。
ドリトス?違う。手紙を送る相手だ。
なんだドリトスって。
手紙を送る相手は誰だっていい。
家族、恋人、友人、同僚…。それはペットや自分自身、窓から見えるあのイチョウの木でもいい。
僕の場合、それはもう決まっている。
ハイスクール時代の友人、パトリック・アンダーソンだ。彼は僕の唯一の、特別な友人なのだ。


ハイスクール時代、数学だけが僕の理解者だった。それゆえ、ろくに友人もつくらず数学にのめり込んでいた僕は、同級生たちの名前を覚えるのが億劫で彼らを数字で呼んでいたのだ。
(例えばクラスのマドンナは3、学年一のお調子者は23といった風な具合だ。
ちなみにこの序列は殺戮能力の高さで決まっている。)

ある日、学年のリーダー格である15に校舎裏へ呼び出されたことがあった。
不用意にもそこへ行くと、なんとそこには15の取り巻きである145786もいるではないか。僕は自慢の直感力をフルに働かせ、「まずい。なにか嫌な事をされそうだ。」と悟った。
4人がみるみるうちに僕を取り囲み、四方からジリジリと詰め寄ってきたその時、パトリックが現れたのだ。
「おい!!何をしてるんだ!!」
15たちは「チッ、邪魔が入ったか。覚えてろよ。」と捨て台詞を吐いてその場から去っていき、僕とパトリックは友達になった。
(パトリックの序列は101だったが、当時の僕は100までしか数えられなかったためパトリックの事はパトリックと呼んでいた。)

それから僕の孤独だった人生は、パトリックのおかげでみるみる変わっていった。
この感謝を改めて手紙にしたためよう。


というわけで、書いた。

親愛なる我が友パトリック・アンダーソンとその妻マーガレットへ


いよいよ寒さの厳しくなってきた今日このごろ、いかがお過ごしでしょうか?
体調など崩されていないと良いのですが。

僕はというと相変わらずだ。
相変わらずと言っても、ちゃんと人を名前で呼ぶし、数学のこともそんなに好きじゃない。ソシャゲの方が好きだ。

僕が変われたのは君のおかげだよ。
こんな事を書くのは手紙でも照れ臭いが、ありがとう。君には感謝してもしきれない。

今度、ご飯でもどうだ?
お互い忙しくなって会えていないが、会えばすぐ戻れるだろう。あの時の二人に。

 返事が来た


2通きた


あれから1週間。なぜか2通来ていた。
僕なりに気をきかせたつもりで夫妻宛で手紙を出したのだが、もしかするとパトリックと奥さんのマーガレットが1通ずつ返事を書いてくれたのかもしれない。粋な夫婦だ。

実を言うと、手紙を出してから返事が来るのが待ち遠しくて1日に10回は郵便受けをチェックしていた。
こんなのも手紙の醍醐味だ。
そして今日、返事が届いていたのを見つけた時の嬉しさったら言葉にできない。
やはり、手紙は良い。

早速読むとしよう。

1通目
2通目


なんかLINEみたいに返事きた。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?