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『君と明日の約束を』 連載小説 第五十五話 檜垣涼

檜垣涼(ひがきりょう)と申します。
小説家を目指して小説を書いている京都の大学生。
よろしくお願いします!
毎日一話分ずつ、長編恋愛小説の連載を投稿しています。
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「脳の病気でね。詳しいことはわからないんだけど、脳の細胞の一部に異常な反応があって、それを取り除くために手術しなくちゃいけないって言われてて」

 取り除かないままだと、いずれ身体中が麻痺するから手術が必要なんだって、と他人事のように彼女は説明する。

――手術。

 僕は自分から訊いておきながら、その言葉に何も返すことができずひたすらに彼女の声を受け取っていた。

「ただその悪い部分がある程度表に出てくるまで待っていないといけなくて、今はそれを待っている期間。で高校二年の夏休みぐらいに様子を見て手術する予定だったの。最近はちょっと手しびれちゃったりしてたけど」

 彼女の言い方に違和感を覚えた。

「夏休みって」
「そう。だから、また一週間後に準備のために入院して、二週間後に手術する」
「治るんだよな」
「ちゃんと切除すれば普通の生活はできるようになるらしいんだけど、ちょっと神経とか複雑に絡まってるところの手術らしくって、結構大変なんだって」

 彼女は感情を乗せず、淡々と否定できない事実を語った。

 大変ってことは……。悪い想像をしてしまい、僕は顔をしかめる。
 瞬きをした彼女は、僕の表情を見てその悪い想像を理解したのか、すぐに安心させる笑顔を見せる。

「ああ、でも腕のいい先生が手術してくれるから大丈夫だよ。それに、99パーセント成功するから命のことは安心してって主治医の先生も言ってくれてるし」
「100パーじゃないってこと?」

 焦る心で被せるように訊いた僕を見て彼女は口と目に笑みを浮かべる。

「それは一応データだから。何かあったときの保険のために100って言えないだけだって。それに先生も何度かやったことある手術らしいよ、だから大丈夫なんだ」
「いつから?」

 僕の流れに沿わない質問に、彼女は戸惑ったように間を置く。

「いつから病気って分かってたの?」
「昔から……だけど」

 それは。その言葉の意味を理解した途端、目の前が真っ暗になる。

「ずっと……」

 抱えていたということか。それなのに僕は。

ーー第五十六話につづく

【2019年】恋愛小説、青春小説
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