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『君と明日の約束を』 連載小説 第四十七話 檜垣涼

檜垣涼(ひがきりょう)と申します。
小説家を目指して小説を書いています。
よろしくお願いします!
毎日一話分ずつ、長編恋愛小説の連載を投稿しています
数分でさくっと読めるようになっているので、よければ覗いてみてください!
コメント✍️やいいね❤️いつもありがとうございます。大歓迎です!
一つ前のお話はこちらから読めます↓

「それを流石って言ったんだよ。慣れすぎ」
「まあ、これまで二回もやらかしてるから流石に気になってしょうがないだけだけど」

 彼女はもちろんカップが動かされたことにも僕たちの会話にも気づいていない。慎一は彼女の様子を確認し、楽しそうに笑みをこぼす。

「いつもこんな感じなの?」
「いつもって?」
「ご飯食べてる時とか。あ、いつもは書いてるだけで終わるんだっけ」
「うん」
「なんか、意外」

 慎一が少しだけ声音を重くした気がして、僕は首をかしげるだけにとどめる。

「学校とかでも思ってたけど、友達とかが話してる時も日織、寝てること多いじゃん? それは休み時間とか……って、本当に、聞こえてないんだよな?」

 慎一は急に心配になったらしく、おずおずと訊く。

「うん、絶対」

 大真面目に返すと、「断言するんだ」と首をすくめる。

「まあ、それなら大丈夫か。で、日織が学校で寝てるのって、朝とか十分休みの時だけだろ?」
「授業中もだけど」
「あ、いや。休み時間の中ではって話」

 僕は、話が見えず曖昧に相づちを打つ。

「昼休みは寝てないってこと」

 ああ、確かに。休み時間は大抵眠っているけど、食堂で友達とご飯を食べている時に彼女が寝ているのは見たことがない。

「だから、みんなが自由にだべってる時は気にしてないけど、みんなでわざわざ食堂に行ってご飯食べようって時は寝ないようにしてるのかなって」
「そんなことわざわざ考えてるのかな」
「多少はあるでしょ。日織いつも弁当なのに周りの子に合わせて食堂に行ってるし。俺がミツに仕方なく付き合って、食堂について行ってるみたいに」

 優しい慎一は、そんなこと絶対思っていないはずなのに、余計なことを付け足す。

「でも今日は気にせずしたいことしてる」
「まあ、確かに。でも、休日に日織と会ったらだいたいこんな感じだし」
「居心地良さそうなんだよなー」

 切々とパソコンに向かう彼女の様子を眺めながら呟く。

「まあでも――えっ?」

 慎一が言葉を止めたのは、レジの方で小銭がこぼれる音がきこえたから。見てみると、おじいさんが会計の際に財布を落としてしまったらしい。
 金属がぶつかり合う音と散らばったお金が転がる音が辺りに広がる。

 落ちた中の数枚が僕たちのテーブルに向かって転がってきていた。慎一と僕が椅子をずらし、転がってきた小銭を受け止める。
 レジの前で小銭を集めているおじいさんにそれを返してから席に戻ると、予想通りの日織と慎一の反応があった。

 つまり、下を向いたままの彼女と目を丸くしている慎一。

ーー第四十八話につづく

【2019年】恋愛小説、青春小説

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