『君と明日の約束を』 連載小説 第七十三話 檜垣涼
檜垣涼(ひがきりょう)と申します。
小説家を目指して小説を書いている京都の大学生。
よろしくお願いします💐
一話分ずつ、長編恋愛小説の連載を投稿しています。
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初めて会った時のことを思い出しながら言うと、
「気づいてたんだ」
「うん、先週ここで日織に会った時に」
「ごめんなさい」
「だから何で日織が謝るんだよ」
彼女の意図が汲み取れない。謝るべきなのは僕の方だろう。
彼女は、「あ」とか「え」とか何か言おうとしては口を閉じ、なかなか話し出さない。僕がもう一度謝ろうとした時、意外な言葉が聞こえた。
「私が、ミツ君とお父さんの時間を奪ったから……それに気づいてたのに」
思わず、「は、……え?」と頓狂な声が口から漏れる。
彼女は、何を言っているのだろうか。
確かに、僕と彼女は小さい時に病院で会っていた。でもそれだけ。
それがどうして彼女が、僕と僕の父親の時間を奪ったことになる?
「私の病室に毎日のように来てくれて、その後ミツ君のお父さん亡くなっちゃって、だから私がミツ君に明日も来て、なんて言わなければもっとお父さんと過ごす時間増やせたかもしれないのに」
力を入れて話す彼女は、今にも涙を流しそうになっている。
「いや……」
彼女の説明があまりにも予想外すぎて、唖然とする。
「だから、ごめんなさい」
彼女は布団に頭をつける勢いで頭を下げた。
「いや、えと……」
呆気にとられて、謝られたこちらの方がうまく返せない。
「違うんだ」
彼女は勘違いをしていた。
むしろずっと眠っていて声を聞けなくなった父親の隣でずっと座っていると、つまらないと思いそうで嫌だった。大好きな父親の隣にいるのが苦痛だと感じたくなかった。だからあの日僕は父が診察の間に病室を抜け出したのだ。そうじゃなかったら彼女の病室にわざわざ棟をまたいで訪れることなんかない。
彼女のおかげで、葬式の時に本気でお父さんの死を悲しめた。
別に看病とかしているわけじゃないけれど、そういうことはよく聞く。周りにいる人が看病に疲れ切ってしまって、看病されていた人が亡くなった後、思うように悲しめないことがあると。
だから僕は、今思えば彼女に救われていた。
でも、これを口にだすと嘘っぽく聞こえてしまいそうで、僕は自分の謝罪に切り替える。彼女は僕の言葉を構えて待っているようだった。
「僕の方が悪いこと、したんだ」
ーー第七十四話につづく
【2019】恋愛小説
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