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ミシュラン三つ星レストランへの挑戦 vol.28

東京・白金のフレンチレストラン「ラ クレリエール」のオーナーシェフ、柴田が日々、何を考えているかを綴ります。

第六章 ミシュラン三つ星を目指す

vol.1からご覧いただく場合、あるいは章ごとにご覧いただく場合はコチラからどうぞ
 → 第一章 レストランのシェフになる
 → 第二章 プロの世界へ
 → 第三章 「料理長」を見据えて
 → 第四章 レストラン ラ クレリエール
 → 第五章 オーナーシェフの「仕事」

28.肌で感じた“三つ星” 

パリの三つ星で体感

パリのル・グラン・ヴェフールでお店に足を踏み入れた瞬間から三つ星を感じたことは以前お話しましたが、中でも最も印象的だったのは、厨房の在り方でした。グランシェフのムッシュマルタンの下に2人のシェフがいて、その下にスーシェフが4人、そしてシェフ・ド・パルティがいて、コミがいて・・・というピラミッドがバチッとある。直前に働いていたオステルリー・ビュー・ムーランが一つ星だったので、違いがよりクリアに感じられました。
そしてムッシュは、そのピラミッドの頂点に立っているだけでなく、常にチームのモチベーションを高める立ち居振る舞いをしていました。例えば、毎朝お店に来たら必ずスタッフ全員のところを回ります。女性スタッフからスタートして、20人近くいるスタッフひとりひとりに「ボンジュール、サヴァ?」と声をかけ、握手をする。毎日のことだけど単なるルーディーンとしてこなしている感じは全然なくて、たった一言でも毎回本当に嬉しかったです。そして、僕だけじゃなく店中のモチベーションが上がるのを感じていました。「これぞグランシェフだ!」と思いましたね。

河野シェフとレストランモナリザ

実はこの「毎朝の全員握手」は、レストランモナリザの河野シェフもやられていました。モナリザも20人強のスタッフがいたので大変だったと思うのですが、一日たりと欠かされることはありませんでした。
河野シェフは、パリのギー・サヴォワやジャマン、リヨン郊外のジョルジュ・ブラン、さらにスイスのジラルデといった錚々たる三つ星レストランで経験を重ね、ムッシュロブションの愛弟子として恵比寿の「シャトーレストラン タイユバン・ロブション」の初代シェフを務めた方です。モナリザ自体は一つ星ですが、シェフ自身は様々な形で“三つ星”が身に沁みついている。僕がル・グラン・ヴェフールやムッシュマルタンに感動しつつも驚きはしなかったのは、河野シェフを通して“三つ星”を経験していたからなのでしょう。
しかし、そんな河野シェフご自身は、モナリザを三つ星にしようとは考えていらっしゃいませんでした。毎日のスタッフミーティングでよく仰っていたのは、「お料理は三つ星クオリティだけれど、価格は抑えめで、アットホームなサービスでお楽しみいただくレストラン」ということ。三つ星の実態を身をもって知り、素晴らしさも厳しさもよく分かっているからこそ「目指さない」という選択をされていたのだと思います。

厨房で実感した三つ星の大変さ

事実、河野シェフと仕事をする中で幾度となく「三つ星の厳しさ」を実感しました。モナリザのお料理は、「三つ星のクオリティ」に相応しく、細かく膨大な仕事の積み重ねと繊細で美しい盛付で成立しています。食通のお客様の中には「この価格でこのクオリティの料理が楽しめるなんて!」と感激してくださる方が多くいました。当たり前のことですが、お客様にお出しする前に河野シェフが仕上がりをチェックし、OKが出なければお出し出来ません。しかし、時には条件付きOKの場合もあったのです。
それは、「OK」の後に「ロブションだったら通じない」といった一言がついた時。つまり「(一つ星の)モナリザだからOKだけど、(三つ星の)ロブションだったらNG」ということです。例えば、お皿の縁に沿ってソースの小さな点が円を描く盛り付けがあって、ベストな盛り付けの点の数が55個だったとします。それが53個だったり57個だったりすると、「モナリザではOKだけど、ロブションだったらNG」と言われる訳です。チラッと見ただけでNGを出されたこともあります。「数えてみろ」と言われて数えたら、やはり55個ではないんです。ちなみに、今なら僕も一目見て点が何個あるか大体わかります。ウェディングなど一度に50人分の盛り付けを仕上げなくてはないような場面を何度も何度も乗り越えてきましたから。

でも三つ星では、それ以上を求められる・・・。三つ星の過酷さを、この時の僕は間接的に経験していたのだと思います。そして、ル・グラン・ヴェフールでも、三つ星の現実を思いがけない形で体感することになりました。
それでも僕は、自分の店で三つ星を目指そう!と決心して、今ここにいます。

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このnoteを初めて読んでくださった方へ
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はじめに初めまして。ラ クレリエールの柴田です。
白金でフレンチレストランのオーナーシェフをしています。
2020年のコロナ自粛の間、レストランのあり方や自分が今後進むべき道など色々と考えました。その中で「ミシュランで三つ星を獲得すること」を一つの指標として強く意識するようになりました。
そして、どのようにすれば三つ星を獲得できるのか、三つ星にふさわしいと皆様から認めていただけるのか、日々、考えたことや行動したことを記録に残そうと考えました。
ご興味を持っていただけたら幸いです。

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