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ミシュラン三つ星レストランへの挑戦 vol.9

東京・白金のフレンチレストラン「ラ クレリエール」のオーナーシェフ、柴田が日々、何を考えているかを綴ります。

第二章 プロの世界へ

vol.1からご覧いただく場合はコチラからどうぞ
 → 第一章 レストランのシェフになる

9.パリの三つ星レストランでの修業 <前編>
~ル・グラン・ヴェフール~

ミシュラン三つ星店の厨房は・・・

「三つ星って、こうなんだ!!」
それがル・グラン・ヴェフールに足を踏み入れた時の最初の印象でした。立派な店構えに大勢のスタッフ。そして、あらゆることが細部に至るまでちゃんとしている。全員が「三つ星で働いている」ことをしっかり意識して働いていることをひしひしと感じました。
厨房も同様です。「三つ星の料理を作っている」という気概に溢れ、活気と緊張感が漲っていました。でも働くうちに気づいたんです。「モナリザで料理を作っている感じに近い」って。なので、最初こそ少し気圧されるところもありましたが、すぐに普段通りに戻りました。

驚いたことがもう一つあって、20人近い厨房スタッフの中に辻調の同級生がいたんです。野菜を取りに上階のストック室に行こうとしたら、なんだか見覚えのある顔が階段を降りてきて・・・。お互い顔を合わせてビックリ!でした。しかも僕とは比べ物にならない流ちょうなフランス語でスタッフと喋っている。素直に「凄い!」と思いました。
同時に、僕は言葉がまだまだな分、より強いパッションをもって料理を頑張ろう!と心に決めました。まだ数時間しか働いていなくても、料理が出来ることや強いパッションを持っていることをしっかり見てくれると信じさせる何かが、この厨房にはありました。

パリの伝統とエスプリに満ちた優美なレストラン

ご存知ない方もいらっしゃると思いうので、ル・グラン・ヴェフールについて少し説明します。
場所はパリの中心地、ルーヴル美術館や世界的なハイブランドショップが並ぶ1区にあります。ルイ14世が幼少期を過ごしたパレ・ロワイヤル(王宮)の回廊の中にあって、ベル・エポックの美しい装飾で埋め尽くされた歴史と品格を感じさせるレストランです。歴史的人物や著名人の顧客も多く、ナポレオンが座った席には彼のネームプレートがつけられています。
ギィ・マルタン氏が料理長兼ディレクターに就任したのが1991年。2000年にはミシュラン三つ星を獲得しました。僕が行った当時(2007年)も三つ星だったのですが、現在は二つ星です。(実は、僕が働いている時に二つ星になったのですが、その話はまた別の機会にさせていただきます。)

これぞ「三つ星シェフ」!

ムッシュマルタンには会った瞬間に「これだ!」と思いました。華やかさとカリスマ性があり、良い意味で「自分は三つ星シェフだ」という自信を常に持っていて、言葉や行動に説得力がある。僕の中で思い描いていた“三つ星シェフ”そのものでした。
思っていたのと違ったのは、必ずお店にいる、ということくらいでしたね。三つ星シェフ=スターなので、お店には殆どいないと思っていたんです。でも僕が働いていた8カ月間、営業時間にいなかったのはほんの数回だけで、営業開始30分前には必ず来ていました。そして、来たら先ずシェフ専用のお水を飲み、「サヴァ ル ジャポン?(日本人、大丈夫か?)」と僕に声をかけ握手をしてくれる、毎回必ずです。嬉しかったですね。

スター!!

ムッシュマルタンについて忘れられない思い出はいっぱいあるのですが、一番印象的だったのは一緒にパリの街を歩いた時のことです。ちょうどアトリエ・ギィ・マルタンという料理学校を作り始めた頃で、ムッシュが「現場を見に行こう」と言い出し、なぜかメートルドテルと僕と3人で出かけたことがあったんです。すると、1区からシャンゼリゼまで歩く間にびっくりするくらいたくさんの人たちがムッシュに声をかけてくる。他にも遠くから手を振る人や、キラキラした目で見つめている人もいて、街中が注目している感じで、「スターだ!」と思いました。
実際、ムッシュはモデルみたいに格好良いんです。スリムで背も高くて、私服もお洒落でした。
「カッコいい!」と思う一方で、常に見られている立場でいる大変さを実感した出来事でした。

自分のやり方を貫いて魚料理のシェフに

2007年に僕が入った時のル・グラン・ヴェフールの厨房は、グランシェフのムッシュマルタンを頂点に2人のシェフと4人のスーシェフがいて、その下にシェフ・ド・パルティ、そしてコミという構成でした。「魚料理のシェフをやってもらう」と言われていましたが、「一週間で変わるから」と言われて肉料理のコミに配属されました。
もちろん僕は、ここでも変わりません。「出来ることは100%やる!」の精神で、自分の仕事を出来るだけ早く終え、先輩が仕事をしやすいように先を読んで準備し、手伝いました。表立っては褒めない先輩が、肉料理のコミのスタッフに「これこそがシェフが求めるコミの仕事だ!」と言ってくれた時は嬉しかったですね。ほどなくスーシェフの一人が辞め、魚料理のシェフがスーシェフに上がるというので、もう一人のスーシェフに直訴して魚料理のシェフになりました。

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このnoteを初めて読んでくださった方へ
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はじめに初めまして。ラ クレリエールの柴田です。
白金でフレンチレストランのオーナーシェフをしています。
2020年のコロナ自粛の間、レストランのあり方や自分が今後進むべき道など色々と考えました。その中で「ミシュランで三つ星を獲得すること」を一つの指標として強く意識するようになりました。
そして、どのようにすれば三つ星を獲得できるのか、三つ星にふさわしいと皆様から認めていただけるのか、日々、考えたことや行動したことを記録に残そうと考えました。
ご興味を持っていただけたら幸いです。

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