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怪談「父と娘と鏡」

3月13日の金曜日に中目黒トライで上演していただいた自作の朗読劇のシナリオです。俳優さんに熱演していただきました。
(https://www.bungei.org/blank-41)
恐怖×ドラマのあるシナリオを目指しました。
小説的に読んでいただければと思います。

【登場人物】
雅夫(33)(43)・・・シングルファーザー
小夏(6)(16)・・・雅夫の実娘で小学生
佐々木・・解体工事をしている人
春代・・・鏡の中の悪霊

【シナリオ】
雅夫「妻を亡くして二年。ようやく幼い小夏
 が母のいない生活に慣れて来てくれたと
 思っていた矢先の話です」
小夏「パパ、どんぐり!」
雅夫「娘の小夏はとにかく、落ちているもの
 を宝物のように家に持って帰りたがりまし
 た」
小夏「パパ!赤い葉っぱ」
雅夫「可愛いものならいいんですが」
小夏「このタイヤ・・この木の棒・・」
雅夫「持って帰れないんだよ」
小夏「えーん、えーん(泣く)」
雅夫「お母さんがいない寂しさを、埋めよう
 としていたのかもしれません」
小夏「持って帰っていい?」
雅夫「うん!・・小夏のことを思い、大概は
 持って帰っていいことにしていました。そ
 んなある日、取り壊し中の古い木造一軒家
 の前を通りかかった時・・」
小夏「ここ火事があったんだよね」
雅夫「ああ、そうだったね・・小夏が地面に
 落ちているものを見つけました」
小夏「これ持って帰ろう!」
雅夫「それは、洗面台の上に取り付けてあっ
 たであろう鏡でした。きれいな鏡でした」
小夏「わー」
雅夫「小夏は自分の顔を鏡で見て、いろんな
 表情をして遊び始めた・・・小夏!人のも
 のだから絶対ダメだからね」
小夏「えーん」
雅夫「これは、どうにか諦めさせたかった。
 だってなんか気味悪いじゃないですか」
   工事現場で働いている佐々木が、
佐々木「いいよ。お嬢ちゃん持って帰りな」
小夏「おじちゃん、ありがとう」
佐々木「捨てるだけだし。助かったよ」
小夏「わーい、やった!やった!」
雅夫「小夏のあまりに嬉しそうな顔を鏡ごし
 に見て、結局持って帰ることにしました」
小夏「きれいな鏡だね」
雅夫「その鏡は、小夏が拾ったものを入れて
 いる通称宝箱に入れて、見えるようにして
 置きました」
小夏「見てみて」
雅夫「そんな変な顔してたら、変な顔になっ
 ちゃうよ」
小夏「いやだ、可愛い顔がいい・・ふふ」
雅夫「お!可愛いな・・・そんな風に最初は 
 鏡で遊んでいたんですが、しばらくして誰
 かに見られているような、気配を感じるよ
 うになりました・・寝ている時も、誰かに
 覗かれているような・・」
小夏「グーグーグー」
雅夫「気のせいか」
小夏「お母さん・・会いたいよ」
雅夫「それは小夏の寝言でした。もしかして、
 妻が見守ってくれているのかな、なんて気
 楽に考えていました」
小夏「ねえ、見てみて」
雅夫「ある日の晩です。鏡で遊んでいる小夏
 の顔を鏡越しに見た時、奇妙な違和感を感
 じたんです」
小夏「どうしたの?お父さん。なんか小夏の
 顔についてるの?」
雅夫「そんなことないよ。可愛いよ」
小夏「わーい!小夏可愛い!」
雅夫「違和感は、小夏の顔が小夏じゃない気
 がしたからです。もう一度鏡を覗きました。
 その時、誰か髪の長い女が覗いていたんで
 す・・」
   驚く雅夫。
小夏「どうしたの?」
雅夫「それだけではありません。何か女の声
 まで薄ら聞こえてきたのです」
春代「出してくれ(小さな声で)」
雅夫「小夏、なんか言ったか?」
小夏「言ってないよ」
春代「熱い、熱い」
雅夫「離れろ」
小夏「何?」
雅夫「そこから早く」
雅夫「小夏を抱きかかえて、鏡から離れまし
 た」
小夏「どうしたの?お父さん」
雅夫「絶対にそこから動くなよ」
雅夫「鏡に静かに近寄りました」
春代「熱い・・熱い」
雅夫「鏡から女の震えるような声がします」
春代「熱い」
雅夫「宝物入れに入っていた木の棒を手にと
 りました。そして、鏡に近づき。パリン!
 粉々に割りました。その瞬間、声は止みま
 した」
小夏「お父さん!」
雅夫「大丈夫だからな」
春代「ハハハハハッハ・・」
雅夫「また、声がします。粉々になった鏡を
 見ると、割れた鏡全てに女の姿が。しかも
 よく見ると、顔が火傷でただれているので
 す」
春代「熱い、熱い、熱い、熱い、熱い、熱い、
 熱い、熱い、熱い、熱い、熱い・・」
雅夫「鏡が部屋の電気の灯に反射されて、部
 屋の天井に付けられた蛍光灯にも女の姿が」
小夏「何、あれ?」
雅夫「小夏が上を向いた瞬間」
小夏「熱いよ、熱いよ」
雅夫「小夏が目を押さえ始めたのです」
小夏「目が・・」
雅夫「見せてご覧。すると、小夏の目の中に
 その女が映って・・いや女がいたのです。
 小夏の目に映ったことで入り込んだのです。
 しかも笑っています」
春代「涼しい。ここで暮らさせてもらおうか」
雅夫「やめろ」
春代「あはははは」
雅夫「地面を見ると砕けた鏡の破片が光って
 いるのが見えました。私はとっさに・・」
春代「何をするんだ?」
雅夫「家のブレーカーを落としました。部屋
 が真っ暗になりました」
小夏「お父さん、どこ?」
雅夫「ここだよ」
小夏「痛い」
雅夫「鏡の破片を踏んで血が出ているようで
 した」
小夏「お父さん」
雅夫「どうだ?目は熱いか?」
小夏「熱くない」
雅夫「怖くないからな、目は開けるなよ」
小夏「うん、お父さんと一緒だから怖くない」
雅夫「数時間経ち・・」
小夏「スースー」
雅夫「小夏は疲れて眠りました・・これは1
 0年前のお話です。取り壊していた大工さ
 んにその後に聞いた話ですが」
佐々木「あの家は、放火で燃えたんですよ」
雅夫「しかも、離婚してくれない妻を殺そう
 とした夫の犯行だったようです。え?あの
 霊は、娘はどうなったんだって?言わない
 といけないですかね・・小夏は高校生にな
 りました。しかし、あれから目を一度も開
 けていません。いや開けられないのです」
小夏「お父さん(以後、大人びた感じで)」
雅夫「そう、まだ小夏の目の中であの霊は生
 きているのです」
小夏「ねえ、今度の試合応援に来てよね」
雅夫「当たり前だろ!・・・しかし、悪いこ
 とばかりではありません。小夏の目になれ 
 たこと、そして・・・・強い子に育ってく
 れたこと」
小夏「絶対、金メダルとるからさ」
雅夫「2020年東京パラリンピックが楽し
 みです」
                 (終)

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