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「意味づけ・学びの機会・承認で部下のやる気を引き出す方法ー日経ビジネス記事ーコーチ・エィ鈴木社長

日経ビジネス2024/6/14の記事に『「1on1、8割機能せず」 コーチ・エィ鈴木社長、部下を動かす3要素』が掲載されていました。この記事では、転職が当たり前になった現代において、部下にやる気を出してもらうために管理職がすべきことが解説されていました。

 従来の終身雇用制度の下では、年功序列や退職金制度などにより、部下は自然とやる気を出していました。しかし、転職が当たり前になった現代では、上司が部下のやる気を引き出す必要があります。

部下の自発性を促す3つの要素

 部下の自発性を促す3つの要素は、「意味づけ」「学びの機会」「承認」です。

 「意味づけ」とは、仕事をする目的や意義を明確にすることです。部下が何のために、誰のために仕事をしているのかを理解することで、モチベーションを高めることができます。上司は、部下の将来の目標などを聞き出しながら、一緒に意味を見いだしていく必要があります。

 「学びの機会」とは、スキルアップや成長の機会を提供することです。オンライン教育サービスの提供や自己啓発支援といった制度を整えることも重要ですが、それ以上に、部下が「何を知らないのか」に気づかせることが大切です。対話中に知らない話が出てくれば、学びたいという欲求が刺激されます。上司が普段から学ぼうとする姿勢を見せていれば、部下も自発的に学びやすくなります。

 「承認」とは、相手の存在や価値を認めることです。成果に対して褒めることも重要ですが、日常的なあいさつや声がけも大切です。「おはよう」「調子はどう」といった簡単な交流でも、相手は存在を認められたと感じることができます。

機能しない1on1ミーティングの解決

 1on1ミーティングは、効果的なコミュニケーション方法ではありますが、一方で8割は機能していないというデータもあるとのこと。1回わずか30分の面談で、最初にアイスブレークで何でも話せる雰囲気を作り、その上で相手の話を聞き、さらに自分の思いも伝えるというのは非常に難しいからです。沈黙に耐えられなくなった上司の独演で終わってしまうことも多いようです。

改善には

 1on1を改善するには、「メタコミュニケーション」が有効です。メタコミュニケーションとは、コミュニケーションについてコミュニケーションをすることです。1on1の場合は、1on1について話すということです。
 例えば、面談の冒頭に上司から「この30分間をお互いにとっていい時間にしたいと思っているけど、上司としてもどう進めたらいいかよく分からないから、どう会話を進めるのがいいのか話し合うところから始めよう」と切り出すことができます。これだけでも「最近仕事どう?」といきなり聞くよりも、よっぽど出だしが良くなるはずです。先に上司が正直に自分の思いを伝えることで、相手も自分を開示しやすくなる効果があります。

 また、面談の途中でも「思ったこと、話せている?」「自分の方が話しすぎてないかな」といったコミュニケーションを取るとより効果的です。30分のうち1~2回ほどメタコミュニケーションを取れれば、会話に透明性が増し、これまでの面談よりも飛躍的に充実した時間になるでしょう。

 コミュニケーションにおいては、「言葉の語尾」を意識することが重要です。一般的に日本人は、「ここがよく分からなくて……」「こうした方がいいと思うんだけどさ……」などと語尾を濁す傾向があります。相手に断られる心配や、偉そうに思われたくないという気持ちが背景にあるかもしれませんが、リーダーとしては力強い印象を与えられません。質問するときは「ここが分からないので教えてほしい」と聞き、何かを要望するときは「仕事の納期は守ってほしい。お願いしているスケジュールでできそうだろうか」と相手の考えも聞きつつ伝えるようにしましょう。語尾を意識するだけでもコミュニケーションの透明性はぐっと上がります。

年上部下に対しては、頼ることで承認することができます。年下の部下であれば、小さなことでも褒めやすいですが、年下から年上の人を褒めるのは簡単ではありません。「これについて教えてください」と相談して頼ることで、相手は存在価値を認められたと感じることができます。「相談しすぎると頼りない上司だと思われそう」と不安になるかもしれませんが、先に述べた明確な意思のある発言であれば、そのような心配も解消されるはずです。

 管理職は「人を動かす力」が問われています。部下と良好な関係を築くことは、日々のちょっとした会話や言葉の語尾を意識するだけでも達成できるはずです。対話を通じて、仕事をする「意味づけ」をし、何を知らないかを気づかせることで「学びの機会」を与え、褒めたり頼ったりと「承認」することで、仕事の効率や職場の雰囲気は変わってくるのでしょう。

人事の視点で考えること

 この記事は、管理職の視点から部下のモチベーション管理について論じていますが、特に、現代の日本企業が直面する「人材不足」や「エンゲージメントの低下」といった課題に対して、具体的な解決策を提示するヒントが散りばめられています。

 まず、「転職時代の到来」という点は、人事にとって避けては通れない課題です。終身雇用制度が崩壊し、労働市場の流動性が高まる中で、優秀な人材の獲得競争は激化しています。従来型の年功序列や終身雇用を前提とした人事制度では、もはや社員のモチベーションを維持することは困難です。

 そこで、この記事で強調されている「意味づけ」「学びの機会」「承認」といった要素は、人材を引きつけ、定着させるための重要なキーワードとなります。
 例えば、「意味づけ」については、企業理念やビジョンを明確に示し、社員一人ひとりが自分の仕事がどのように社会に貢献しているのかを理解できるようにすることが重要です。
 また、「学びの機会」については、階層別研修やOJTだけでなく、メンター制度や社内公募制度などを導入することで、社員の主体的な成長を促すことができます。
 さらに、「承認」については、金銭的な報酬だけでなく、感謝の言葉や表彰制度など、多様な方法で社員の貢献を認めることが大切です。

 次に、「1on1ミーティングの8割は機能していない」というデータは、人事にとって看過できない問題です。1on1は、上司と部下が定期的に1対1で対話し、目標設定や課題解決、キャリア開発などを支援する場として期待されています。しかし、実際には、上司の評価面談や業務指示の場になりがちで、部下の本音を引き出せていないケースが多いようです。

 この記事で紹介されている「メタコミュニケーション」は、1on1の質を向上させるための有効な手段です。例えば、1on1の冒頭で、「今日はどんなことを話したい?」「この1on1でどんな成果を得たい?」といった問いかけをすることで、部下の主体性を引き出し、より建設的な対話につなげることができます。また、1on1の振り返りとして、「今日の1on1はどうだった?」「何か改善点はある?」といったフィードバックを求めることも有効です。

 さらに、「言葉の語尾」や「年上部下への接し方」といった具体的なコミュニケーションスキルは、人事研修のコンテンツとしても活用できるでしょう。
 例えば、ロールプレイング形式で、様々な状況における適切なコミュニケーション方法を練習することで、管理職のコミュニケーション能力向上を図ることができます。

 この記事は、人事担当者にとって、以下の3つの重要なアクションを促していると考えます。

  1. 人材育成戦略の見直し
    社員の主体的な成長を支援するため、従来の研修制度に加えて、メンター制度やキャリア開発プログラムなどを導入する。

  2. 1on1ミーティングの活性化
    メタコミュニケーションを活用した1on1研修を実施し、上司と部下の対話の質を向上させる。

  3. コミュニケーション研修の実施
    管理職のコミュニケーションスキル向上を目的とした研修プログラムを開発し、定期的に実施する。

 これらのアクションを通じて、企業は社員のエンゲージメントを高め、優秀な人材の定着率向上を実現できるでしょう。単に「1on1が機能しない」ということを超えて、多くの示唆を与えてくれる内容でした。


1on1ミーティングの様子です。マネージャーはノートを持ち、開かれたボディランゲージで部下の話に耳を傾けています。部下は積極的にアイデアを話し、やる気に満ちています。背景には図が描かれたホワイトボードや都市の景色が見える窓があり、プロフェッショナルでありながらもフレンドリーな雰囲気が伝わってきます。効果的なコミュニケーションとポジティブな職場環境を反映したシーンです。


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