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【書籍】曖昧な思考を明晰にするための4つの視点ー日常生活でも使える

 馬田隆明著『解像度を上げる――曖昧な思考を明晰にする「深さ・広さ・構造・時間」の4視点と行動法』(英治出版、2022年)を拝読しました。

 本書では、ビジネスパーソンが思考の「解像度」を上げるための方法論を解説しています。「解像度」とは、物事への理解度や表現の精緻さ、思考の明晰さを表す言葉で、ビジネスにおいても重要な概念です。
 解像度が低いと、問題の把握や解決策の提案が曖昧になり、効果的な行動が難しくなります。
 一方、解像度が高い人は、顧客や市場を深く理解し、明確かつ具体的な解決策を提案できます。
 本書では、解像度を上げるための4つの視点として「深さ」「広さ」「構造」「時間」を紹介し、これらの視点を意識しながら情報収集、思考、行動を繰り返すことで、解像度を向上させることができるとのこと。内容を整理し、「採用業務ではどう考えるのか」を検討したいと思います。


1.「深さ」の視点

 物事の原因や要因を深く掘り下げ、根本的な原因を特定する視点です。著者は、解像度が低い人は表面的な課題(症状)に囚われがちで、真の原因(病因)を見失っていると指摘しています。
 そして、医療における診断と同様に、ビジネスにおいても根本的な原因を特定することの重要性を強調しています。
 具体的には、「なぜを5回繰り返す」というトヨタ生産方式の手法を用いて、課題の真因を探ることを推奨しています。例えば、売上が減少しているという課題に対して、「なぜ売上が減少したのか?」「なぜその原因が起こったのか?」と繰り返し問いかけることで、真の原因を特定し、効果的な対策を立てることができるようになります。

2.「広さ」の視点

 多様な原因やアプローチを考慮し、幅広い視点から問題を捉える視点です。馬野氏は、視野を広げるためには、前提を疑い、異なる視座から物事を見ることを勧めています。
 例えば、ゼロベース思考やリフレーミングといった手法を用いることで、固定観念にとらわれず、新たな視点から課題を捉え直すことができます。ゼロベース思考とは、過去の経験や前提にとらわれず、白紙の状態から考えることで、新たな解決策を見出す手法です。リフレーミングとは、問題を異なる枠組みで捉え直すことで、新たな解決策の糸口を見つける手法です。

 また、実際に体験したり、異なる分野の人と話すことで、視野を広げ、新たな情報や視点を得ることも重要だと述べています。例えば、顧客の現場で実際に働いてみたり、異業種交流会に参加したりすることで、これまでにない視点や情報を得ることができます。

3.「構造」の視点

 問題の要素を整理し、要素間の関係性や重要性を把握する視点です。著者は、物事を理解するためには、要素を適切に分解し、構造化することが重要だと述べています。
 例えば、MECE(Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive:漏れなくダブりなく)の原則に基づいて要素を分類したり、図や表を用いて視覚化したりすることで、問題の構造を把握しやすくなります。MECEとは、要素を重複なく、かつ網羅的に分類することで、漏れやダブりを防ぎ、問題の全体像を把握する手法です。図や表を用いることで、要素間の関係性や因果関係を視覚的に捉え、より深い理解を得ることができます。

 また、システム思考を用いて、問題をシステム全体の相互作用として捉えることも有効です。システム思考とは、問題を個別の要素ではなく、相互に関連し合うシステムとして捉え、全体最適化を目指す考え方です。例えば、ある部署の業績が悪化した場合、その原因をその部署内だけで探すのではなく、他部署との連携や、会社全体の経営方針との整合性など、システム全体の中で捉えることで、より根本的な解決策を見つけることができるかもしれません。

4.「時間」の視点

 経時変化や因果関係、プロセスの流れを捉え、変化を予測する視点です。馬田氏は、ビジネスにおける課題は常に変化し続けるため、時間軸を意識して課題を捉えることが重要だと述べています。例えば、過去のデータやトレンドを分析することで、将来の変化を予測したり、プロセスの流れを把握することで、ボトルネックとなる課題を発見したりすることができます。

 また、未来のシナリオを複数想定し、それぞれに対応策を考えておくことで、不確実な状況にも柔軟に対応できるようになると述べています。例えば、競合他社の動向や市場の変化などを考慮し、複数のシナリオを想定することで、リスクを最小限に抑え、機会を最大限に活かすことができます。

まとめ

 本書では、これらの4つの視点を具体的な事例や実践的なアドバイスとともに解説しており、ビジネスパーソンが日々の業務の中で解像度を向上させ、より良い成果を上げるための指針となるでしょう。
 特に、馬田氏がスタートアップ支援の経験から得た知見は、新規事業開発やイノベーション創出においても役立つはずです。例えば、MVP(Minimum Viable Product:実用最小限の製品)を作成し、顧客からのフィードバックを得ながら製品を改善していく手法は、スタートアップだけでなく、既存企業の新製品開発にも応用できます。

 最後に、馬田氏は「解像度を上げることは、世界の美しさを知ること」だと述べています。解像度を上げることで、私たちは世界からより多くの情報を受け取り、より深く理解し、より良い意思決定をすることができるようになります。それは、ビジネスパーソンとしてだけでなく、一個人としても成長を促す重要なスキルといえます。応用範囲は広いです。

4つの視点を「採用業務」で当ててみる

 ここで、人材採用業務において、解像度を上げる4つの視点、「深さ」「広さ」「構造」「時間」に当ててみたいと思います。

1.「深さ」の視点

 採用活動は、まず「なぜ採用するのか?」という根本的な問いから始まります。自社の現状を深く掘り下げ、どのような課題があり、それを解決するためにどのような人材が必要なのかを明確にする必要があります。

 例えば、「コミュニケーション能力が高い人材が欲しい」という漠然とした表現で終わらせるのではなく、なぜコミュニケーション能力が必要なのか、具体的な業務内容やチームの状況を考慮して、本当に必要なスキルや経験を特定することが重要です。「顧客との良好な関係を構築できるコミュニケーション能力」「チームメンバーとの円滑な情報共有を促進するコミュニケーション能力」「社内外との調整をスムーズに進めるための交渉力」など、具体的なレベルまで掘り下げることで、より適切な人材像を定義できます。

 候補者の評価においても、表面的なスキルや経験だけでなく、仕事に対するモチベーションや価値観、将来のキャリアプランなどを深く理解しようと努めることが重要です。なぜその企業で働きたいのか、どのような貢献をしたいのか、といった内面的な部分を理解することで、自社にマッチする人材かどうかを見極めることができます。

2.「広さ」の視点

 採用手法は多岐にわたります。従来の求人広告や人材紹介会社だけでなく、ダイレクトリクルーティング、リファラル採用、ソーシャルメディアを活用した採用など、様々な手法を検討し、自社のニーズに合った方法を選択することが重要です。

 候補者の母集団を拡大するためには、多様なチャネルを活用することも必要です。自社ウェブサイトでの情報発信、大学や専門学校との連携、インターンシップの実施など、様々な方法で潜在的な候補者へのアプローチを試みることで、より多くの優秀な人材と出会える可能性が高まります。

 採用は、人事部だけの仕事ではありません。経営層、現場社員、そして採用候補者自身など、社内外のステークホルダーの意見を幅広く収集することで、多角的な視点から採用活動を見つめ直し、改善につなげることができます。

3.「構造」の視点

 採用プロセスを可視化し、各ステップ(書類選考、面接、適性検査など)の目的と流れを明確にすることで、採用活動全体の効率化を図ることができます。それぞれのステップで何を評価し、どのような情報を収集するのかを明確にすることで、候補者にとっても分かりやすいプロセスになります。

 評価基準を明確化し、客観的な評価ができるようにすることも重要です。どのようなスキルや経験を重視するのか、具体的な評価項目を設定し、評価者間で共通認識を持つことで、公平かつ公正な評価が可能になります。

 採用に関わる情報(応募書類、面接記録、評価など)を適切に管理することも重要です。情報を整理し、構造化することで、過去の採用活動の振り返りや、今後の改善に役立てることができます。

4.「時間」の視点

 採用活動は、常に変化する状況に合わせて柔軟に対応していく必要があります。採用市場の動向や、自社の事業状況、組織の変化などを考慮しながら、中長期的な視点で採用計画を立て、定期的に進捗状況を確認し、必要に応じて計画を修正していくことが重要です。

 また、採用活動は短期的な成果だけでなく、中長期的な視点で評価することも重要です。採用した人材が、その後どのように成長し、会社に貢献しているか、といった長期的な視点での評価を行うことで、より効果的な採用活動につなげることができます。

 これらの4つの視点を意識し、採用活動の解像度を上げることで、自社にとって本当に必要な人材を採用し、組織の成長に貢献できる可能性が高まります。例えば、採用面接においては、候補者の表面的なスキルや経験だけでなく、その人の価値観や仕事へのモチベーション、将来のキャリアプランなどを深く理解しようと努めることで、より良い採用判断につながるでしょう。また、採用プロセス全体を可視化し、各ステップにおける課題を特定することで、採用活動の効率化や改善を図ることもできます。


4つの視点を表現しています。左から順に「深さ」「広さ」「構造」「時間」の視点が描かれています。「深さ」の視点では、人物が地面を掘り下げて層を発見する様子が、「広さ」の視点では、広角レンズで多様な風景を見ている人物が、「構造」の視点では、ブロックを整理してチャートを作成する人物が、「時間」の視点では、過去・現在・未来のイベントを分析する人物がそれぞれ描かれています。


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