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人事評価と目標管理ーMBOやOKRの本来の目的を再考する

 MBOやOKRなどの制度は、その本来の目的や意義が曖昧になっているケースが多く見られます。これら2つの手法が人事評価制度と結びつけられ、本来の意図とは異なる形で運用されていることが少なくありません。

MBO(Management by Objectives)

 MBOは、1950年代にピーター・ドラッカーが提唱したマネジメント手法で、組織の目標と個人の目標を整合させ、社員一人ひとりが自律的に目標を設定し、その達成に向けて努力することを促すものです。

 ドラッカーは、MBOを、Management by Objectives というように、「自己統制によるマネジメント」と表現しており、社員が主体的に目標設定に参加し、その達成度を自己評価することが重要であると強調しています。

 しかし、日本ではMBOが「目標管理」と訳され、目標達成度を評価の対象とする制度として導入されることが一般的です。
 例えば、営業部門では年間の売上目標が設定され、その達成度に応じてインセンティブが支給されるといったケースが挙げられます。目標未達の場合にはペナルティが課されることもあり、社員は目標達成に過度に集中し、短期的な成果に偏りがちになるという問題点が指摘されています。

OKR(Objectives and Key Results)

 一方、OKRは、1970年代にインテル社で生まれた手法で、野心的な目標(Objectives)とその達成度を測る具体的な指標(Key Results)を設定することで、組織全体の目標達成を促進するものです。

 OKRは、Googleをはじめとする多くの企業で採用されており、高い成果を上げていることから注目を集めています。しかし、OKRもまた、日本では人事評価制度と結びつけられるケースが多く、本来の目的から逸脱した運用が行われていることがあります。
 例えば、新規事業の立ち上げにおいて、目標とする顧客獲得数や売上高を設定し、その達成度に応じて評価を行うといったケースです。OKRは本来、組織全体の目標達成を促進するための手法であり、個人の評価に焦点を当てるべきではありません。OKRを評価制度に組み込むことで、社員はリスクを回避するようになり、挑戦的な目標設定を避ける傾向が強まる可能性があります。

目標達成度のみを評価の対象とするものではない

 MBOやOKRを評価制度に組み込むこと自体は必ずしも悪いことではありませんが、いくつかの注意点があります。まず、これらの手法は、目標設定と達成のプロセスを重視するものであり、目標達成度のみを評価の対象とすることは、本来の目的から逸脱しています。
 MBOでは、目標設定のプロセスにおいて、上司と部下が対話を通じて目標を共有し、部下の成長を支援することが重要視されます。OKRでは、目標達成のプロセスにおいて、チーム全体で進捗状況を共有し、互いに協力し合うことが求められます。

 また、目標達成度を評価に直結させることで、社員は短期的な成果にこだわるようになり、長期的な成長や組織全体の目標達成がおろそかになる可能性があります。
 例えば、MBOで売上目標を設定した場合、社員は売上を上げるために、顧客との長期的な関係構築よりも、短期的な売上につながる行動を優先するかもしれません。OKRでも同様に、短期的な指標の達成に集中し、長期的な目標達成に必要な行動がおろそかになる可能性があります。

 さらに、MBOやOKRは、環境変化への対応が難しいという弱点があります。ビジネス環境は常に変化しており、当初設定した目標が状況の変化によって達成困難になることは十分にあり得ます。
 例えば、新型コロナウイルスの感染拡大によって、多くの企業が事業計画の見直しを迫られましたが、MBOやOKRで設定された目標が変更されずに残っていた場合、社員はモチベーションを維持することが難しくなります。OKRでは、目標達成が困難になった場合に、目標を修正したり、新たな目標を設定したりすることが推奨されていますが、評価制度と結びついていると、目標変更が評価に悪影響を及ぼすことを恐れて、柔軟な対応が難しくなることがあります。

 このような問題点を踏まえ、ジョブ型制度のように、成果ではなく仕事役割に報酬を支払うという考え方もあります。ジョブ型制度では、社員が担当する職務内容や責任範囲に応じて報酬が決定されるため、成果主義の弊害を回避することができます。
 例えば、営業職であれば、顧客開拓や提案活動といった職務内容に対して報酬が支払われ、必ずしも売上目標の達成が求められるわけではありません。

 MBOやOKRは、正しく活用すれば、組織の成長を促進する効果的なツールとなります。しかし、人事評価制度に組み込む際には、これらの手法の本来の目的を理解し、適切な運用方法を検討することが重要です。また、ジョブ型制度のような代替案も検討することで、より柔軟で効果的な人事制度を構築することができるでしょう。

人事の視点から考えること

 MBOやOKRを評価制度に組み込む際には、以下の点に留意する必要があるでしょう。

1.評価制度の目的を明確にする

 MBOやOKRは、目標達成を促進するためのツールであり、評価制度そのものではありません。評価制度の目的は、社員の成長を促し、組織全体の成果向上に貢献することです。MBOやOKRを導入する前に、評価制度の目的を明確にし、その目的に合致した形でMBOやOKRを活用する必要があります。

 例えば、社員の自主性を高めたいのか、チームワークを強化したいのか、短期的な成果を重視するのか、長期的な成長を促したいのかなど、具体的な目的を定めることが重要です。

2.目標設定のプロセスを重視する

 MBOやOKRは、目標設定のプロセスを重視する手法です。上司と部下が対話を通じて目標を設定し、目標達成に向けて協力し合うことが重要です。目標設定の際には、SMARTの原則(Specific:具体的、Measurable:測定可能、Achievable:達成可能、Relevant:関連性がある、Time-bound:期限がある)に沿って、具体的かつ達成可能な目標を設定することが求められます。また、目標達成に向けた進捗状況を定期的に確認し、必要に応じて目標を修正することも重要です。

3.評価指標を多角化する

 MBOやOKRでは、目標達成度を定量的に評価することが一般的ですが、定性的な評価も取り入れることが重要です。例えば、チームワーク、コミュニケーション能力、リーダーシップ、問題解決能力などを評価することで、社員の多面的な成長を促すことができます。定量的な評価と定性的な評価を組み合わせることで、より公平かつ客観的な評価が可能になります。

 例えば、営業職であれば、売上目標の達成度だけでなく、顧客満足度や新規顧客開拓数なども評価指標に含めることができます。

4.フィードバックを重視する

 MBOやOKRでは、定期的なフィードバックが重要です。上司は、部下の目標達成状況を把握し、適切なアドバイスや支援を提供する必要があります。フィードバックは、一方的な評価ではなく、双方向のコミュニケーションであるべきです。部下は、上司からのフィードバックを受け止め、自身の成長につなげる必要があります。また、部下からも上司に対してフィードバックを行うことで、上司のマネジメント能力向上にもつながります。

5.環境変化への対応を考慮する

 ビジネス環境は常に変化するため、目標達成が困難になる場合もあります。MBOやOKRでは、目標を柔軟に変更したり、新たな目標を設定したりすることが可能です。評価制度においても、環境変化に対応できる柔軟性を確保することが重要です。

 例えば、新型コロナウイルスの感染拡大によって、多くの企業が事業計画の見直しを迫られましたが、MBOやOKRで設定された目標が変更されずに残っていた場合、社員はモチベーションを維持することが難しくなります。

6.ジョブ型制度との連携を検討する

 ジョブ型制度は、成果ではなく仕事役割に報酬を支払うという考え方であり、成果主義の弊害を回避することができます。MBOやOKRとジョブ型制度を組み合わせることで、より柔軟で効果的な人事制度を構築することができます。

 例えば、ジョブ型制度で基本給を決定し、MBOやOKRで目標達成度に応じたインセンティブを支給するといった方法が考えられます。また、ジョブ型制度では、社員のキャリアパスを明確にすることができるため、MBOやOKRで設定された目標とキャリアパスを連携させることで、社員の長期的な成長を促すことができます。


 人事としては、MBOやOKRを評価制度に組み込む際には、これらの手法のメリットとデメリットを十分に理解し、自社の状況に合わせて適切な運用方法を検討することが重要です。
 また、社員とのコミュニケーションを密にすることで、MBOやOKRに対する理解を深め、効果的な運用につなげることが大切でしょう。

評価制度の概念を表現しています。オフィス内で様々な評価活動に取り組んでいる多様な従業員が描かれています。デスクでコンピューターを使用したり、書類をレビューしたり、フォームに記入したりしている人々が見られます。また、会議室ではパフォーマンス指標について議論している様子があり、画面にはチャートやグラフが表示されています。全体的に協力と公平感があり、全員が積極的に参加しています。プロフェッショナルでありながらも友好的な雰囲気が漂い、柔らかい照明と整然とした環境が、ポジティブで透明な評価プロセスを反映しています。評価制度がいかに協力的で公平なプロセスであるべきかを示しており、従業員一人ひとりの参加と努力が重視されていることを強調しています。

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