明快な説明力の重要性:現代ビジネスで求められるコミュニケーションスキルー川上真史氏
川上真史ビジネス・ブレークスルー大学教授の「リスキリングに必要な10のスキル 8」は、「明快に説明するスキル」です。
現代のビジネス環境において、自分の考えを効果的に伝える能力が非常に重要であると強調しています。特に、日本の企業文化では「察する」ことが重視される傾向がありますが、グローバル化や多様性の増加に伴い、明確なコミュニケーションスキルがますます求められるようになっています。
アサーション
自分の意見、主張、要望、感情などを率直かつ正直に伝えるスキルです。ただし、単に言いたいことを言うだけではなく、自分も相手も否定せず、状況に応じて適切な伝え方をすることが重要です。アサーティブなコミュニケーションは、自己主張と他者への配慮のバランスを取ることが鍵となります。
例えば、「私はこう思います」と自分の意見を述べつつ、「あなたはどうお考えですか?」と相手の意見も尊重する姿勢を示すことができます。このスキルは、特に日本の文化において苦手とする人が多いため、意識的に練習する必要があります。日々の小さなコミュニケーションから始めて、徐々に重要な場面でも使えるようにしていくことが推奨されます。
相手が理解しやすい説明方法
フィードバック法
「私は」という主語を常に使って話すことで、個人的な見解であることを明確にし、相手が受け入れやすくなります。例えば、「これは間違いです」という言い方ではなく、「私はこの方法に疑問を感じます」と言うことで、相手の反発を減らし、建設的な対話を促進することができます。この方法は、特に批判的な意見を伝える際に効果的です。
L.E.T.(リーダー・エフェクティブネス・トレーニング)では、「対決的なI-メッセージ」というのがありますが、これに近いものでしょう。
逆に「Youメッセージ」を使用すると、相手は自分が攻撃されていると感じ、建設的な解決に向けた話し合いが困難になることがあります。
論理的帰結法
何かを依頼したり指示したりする際に、そうすることでどのような効果があるか、あるいはそれをしないとどのような問題が発生するかなど、理由や結果を明確に説明します。これにより、相手の理解と協力を得やすくなります。
例えば、「この報告書を明日までに提出してください」だけでなく、「この報告書を明日までに提出していただくことで、来週の会議でより具体的な議論ができ、プロジェクトの進行が加速します」と説明することで、相手の協力を得やすくなります。
DESC法
難しい話題や意見の相違がある場合に特に有効な方法です。4つのステップを順番に踏むことで、相手との対立を避けつつ、自分の意見や要望を効果的に伝えることができます。
Describe(描写)
感情を交えず、事実をそのまま端的に伝えます。例えば、「先週の会議で決定した締め切りが守られていません」Express(表現)
その事実について自分の意見や気持ちを「私は」を主語として伝えます。「私はこの遅れに懸念を感じています」Suggest(提案)
今後の対応についての提案をします。「今後は週次で進捗を確認する時間を設けてはどうでしょうか」Consequence(結果)
その提案から得られると予測できる結果を伝えます。「そうすることで、遅れを早期に発見し、対策を講じることができると思います」
この方法を使うことで、相手を攻撃せずに自分の意見を効果的に伝えることができます。特に、職場での上司と部下のコミュニケーションや、チーム内での問題解決に有効です。DESC法については、以下でも紹介をしております。
メラビアンの法則
この法則によると、話の内容(言葉)と話し方(声のトーン、表情、身振り手振りなど)に矛盾がある場合、93%の人が話し方から真意を読み取るとされています。
つまり、言葉の内容だけでなく、話し方にも注意を払う必要があります。一致していない場合、意図しないメッセージを送ってしまう可能性があります。
例えば、「大丈夫です」と言いながら、声のトーンが低く、表情が暗い場合、相手は言葉よりも非言語的なメッセージを信じる傾向があります。このため、重要な内容を伝える際は、言葉と非言語的要素の一致を意識することが重要です。練習としては、鏡の前で自分の表情や姿勢を確認しながら話すことや、信頼できる人にフィードバックを求めることが効果的です。
多様性におけるコミュニケーション
多様性の高い組織では「伝え手責任」が重要になります。つまり、自分の考えを相手に完全に理解してもらえるまで説明する責任があるということです。これは、文化的背景や価値観が異なる人々とコミュニケーションを取る際に特に重要です。
例えば、ある表現が自文化では一般的でも、他の文化では異なる意味を持つ可能性があります。そのため、より具体的で明確な表現を心がけ、必要に応じて例を交えて説明することが効果的です。
一方、同質性の高い組織では「聞き手責任」で十分な場合もありますが、現代の多様化する職場環境では、伝え手責任の意識が不可欠です。グローバル企業や多国籍チームでの仕事では、この「伝え手責任」の意識が特に重要になります。また、相手の理解度を確認するためのフィードバックを求めることも大切です。
「会合」の種類
「会合」には主に4種類あり、それぞれ目的が異なります。各種類の会合で効果的なコミュニケーションを行うためには、その目的を理解し、適切な参加姿勢を取ることが重要です。
報告中心
情報共有が目的。この種の会合では、明確で簡潔な報告を心がけ、必要に応じて視覚的な資料を用いることが効果的です。教育中心
参加者の学習と成長が目的。この場合、双方向のコミュニケーションを促進し、質問や議論の時間を十分に設けることが重要です。懇親中心
参加者同士の交流が目的。ここでは、オープンで友好的な態度を心がけ、相手の話に積極的に耳を傾けることが大切です。議論中心
目的達成や意思決定のため、参加者がシナジーを生み出すことが目的。この種の会合では、自分の意見を明確に述べると同時に、他者の意見にも耳を傾け、建設的な議論を心がけることが重要です。
特に議論中心の会合では、他の3つと異なり、積極的に意見を述べる必要があり、多くの人が苦手とする領域です。しかし、この能力を磨くことで、組織内での影響力を高め、キャリアの発展にもつながる可能性があります。
ブレーンストーミングの基本ルール
ブレーンストーミングは、創造的な問題解決や新しいアイデアの創出に非常に効果的な手法です。以下のルールを守ることで、より生産的なセッションを実現できます。
一切否定しない
他人のアイデアを否定せず、建設的な雰囲気を作ります。これにより、参加者全員が安心して自由にアイデアを出せる環境が生まれます。面白いアイデアを歓迎する
斬新なアイデアを積極的に評価します。一見非現実的に思えるアイデアでも、それが新しい発想の種となる可能性があります。質より量を重視する
アイデアの質にこだわらず、できるだけ多くのアイデアを出すことを目指します。多くのアイデアの中から、後で選別や組み合わせを行うことで、質の高いソリューションを見出せる可能性が高まります。連想を大切にする
他の人のアイデアから新しいアイデアを連想し、発展させていきます。これにより、個人では思いつかなかったアイデアが生まれる可能性が高まります。全員がファシリテーターの役割を担う
参加者全員が議論を促進する役割を果たします。特定の人だけでなく、全員が積極的に質問したり、他の人のアイデアを発展させたりすることで、より活発で生産的な議論が可能になります。
まとめ
川上氏は、これらのスキルを日々の業務や生活の中で意識的に実践し、明快な説明ができるようになることの重要性を強調しています。これらのスキルを磨くことで、職場でのコミュニケーションが円滑になり、生産性の向上やより良い人間関係の構築につながると述べています。
また、これらのスキルは一朝一夕には身につかないため、日常的な練習が重要です。例えば、日々のミーティングや同僚との会話の中で、意識的にこれらの技法を使ってみることから始めることができます。さらに、自己評価やフィードバックを定期的に行い、継続的に改善していくことが推奨されます。
最後に、川上氏は、これらのコミュニケーションスキルが単なる仕事のスキルではなく、人生全般において有用なスキルであることを強調しています。明快な説明能力は、個人の成長や人間関係の向上、さらには社会全体のコミュニケーションの質の向上にも貢献する可能性があると結んでいます。
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