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「小世界大戦」の【記録】 Season1-3

*注)物語の設定時代背景が「昭和末期」の学校であるので、現在においては一部不適切(職員室の喫煙、体罰、上司のパワハラ、現在では差別用語ととられる表現)と感じられる表現が、演出上混じることを、ご容赦くださいますようお願いいたします。

「時間が来ましたが、今、おひとかた遅れると連絡がありましたので、
あと10分後に説明会と辞令交付を始めます。少々お待ちください。」
 
 中年の小太りな教員がそう告げた。

校長に託された辞令を渡す関係があるからだろう。
こんな時に不届きなやつだなと吾郎は内心思っていた。

・・・そういえば、あいつがいないや、・・・

 あいつというのは、辞令交付式の時に席が隣だった、
満仲隼人みつなかはやとという、数学が専門だという新採用の教員だった。
大学での部活が同じ柔道部だったことから、話が合い、
二人とも厨子中に赴任だということで、盛り上がったのだった。

・・・遅刻してるのは満仲くんか・・

吾郎はなんとなく「然もありなん」という思いがした、
思うところ、ずいぶんおっちょこちょいな性格のようだったからだ。

そうこうしているうちに、バタン!と戸があいて、
「あいつ」が会議室に飛び込んできた。

「すみませ~ん!遅れました!。満仲です!」

そう言って、悪びれる様子もなく、
空いている席(当然だ)にどっかと座った。
それは、吾郎の真向かいの席だった。
満仲は吾郎を見かけると、にやっと笑って小さく手を振った。

一瞬、こいつの仲間だと思われたくないな。
吾郎はそんなことを思った。

 小太りの中年の教員が黒板の前に立った。

「お待たせいたしました、皆さんおそろいになりましたので、
これから校長から辞令をお渡しします。
申し遅れましたが、私は教頭の鶴澤つるさわといいます。
よろしくお願いいたします。」

ああ、教頭先生だったのかと吾郎は納得した。
なんとなくそんな感じがしていたのだが、
あまりに腰が低いので、まさかな・・。
という感じだった。
鶴澤教頭はお待ちくださいといい残し、
隣の校長室に向かっていった。

やがて、鶴澤教頭と少し背の高い、
目つきが鋭いやせた中年の男と、背の小さいでっぷりと太った、
不思議の国のアリスに出てくる
ハンプティ=ダンプティのような風貌で、
正直言って「ガマガエル」のイメージのある男が入ってきた。

たぶん、どちらかが「校長」なんだろうな。
吾郎はそう思った。

目つきの悪い男は、おもむろに言った

「皆さん、おはようございます、教頭の大川です。」

・・・え??・・

何人かの教師が少しざわついた。
鶴澤教頭、そして大川教頭・・どっちが「本物の」教頭先生なんだ?。
からかってるのか?もしかして・・。

ああそういえば・・。教育法規の中で、
たしか一定数以上の学級数がある学校は、
教頭を二人配置できる。という文言を思い出した。

・・そうか、ここは二人教頭配置ができるくらいのマンモス校なのだ・・。

 財前先生が言った
「あ、教員定員数マックス。生徒数がハンパじゃないから・・。」
という言葉が浮かんできた。

 とにかく、何から何まで、自分の想像を超えた世界だった。
吾郎はあらためて、ふうっと天空を見た・・。
 
 まずは、8年間生き残るしかないか・・・。

「それでは、今から辞令を交付しますので、
名前を呼ばれたら起立して、学校長から辞令を受け取ってください。」

という鶴澤教頭の司会で辞令交付が始まり、
吾郎も校長から辞令を受け取った。

ただ、それだけのことだった。

 ひととおり渡し終わったあと、校長から挨拶があり、
吾郎は少しうんざりしながら聞いていた。
ひどいだみ声で、校長というより「政治家」のような感じだった。

「わしが校長の羽田です。よろしくお願いいたします。
さて、本校に赴任してもらった先生方には、共通点があります。
それは、公開研究授業を担当していただくこと。
もう一つは、みなが武道の有段者であることです。」

 
一瞬どよめきが起こった。

「他校から転任の先生方はすでにご存じのことと思いますが、
本校は「校内暴力」の渦中にありました。
そのコアの生徒たちが卒業した今、沈静化の方向に向かってはいますが、
気を許すと、いつ何時、あの状況に陥る可能性はあります。
本校は、文部省の「生徒指導」の研究指定を引き受けました。
学校正常化に向けて、おのおの覚悟して、十分力を尽くしてほしい。」

 校長の挨拶が終わったあと、大川教頭から補足があった。
「もちろんのことですが、
ハードとソフトでの取り組みをしてほしいということです。
というところで、明日からネクタイをしてくる必要はありません。
それから、サンダル履きではなく、
いつでも走れる運動靴で勤務してください
。以上です。」

 吾郎は正直言って戦慄した。
真向かいのあいつ、満仲も唇をかみしめていた。
不安と言うより、武者震いに近かったのかも知れない。

「職員室での着任式まで、この場で待機していてください。」
鶴澤教頭がそう指示して、退出していった。

 新任・転任の教員だけが部屋に残ると、早速雑談が始まった。
気がつくと吾郎の隣の席に、満仲がどっかと座って、話しかけてきた。

「なぁ、校長の話、どう思った?」
「・・いや、どうって・・。」
吾郎は曖昧な返事をした。

 正直言って、これから何が起こるかは、すべて未知の事だったからだ。
とりあえずは、これから起こることの一切合切を
「先入観抜き」で対応していくしかないな。
という、放浪旅時代に得た知恵で乗り切ろうと、吾郎は考えていた。

   
TO BE CONTINUE

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