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ムダに教養がつくかも知れない不定期な雑学講座の連載(講義中は寝ないこと)~世界宗教の基礎知識1~イスラム教って、どんな教えなの?Part2

ムスリムが「集団」→「国家」に発展していくしくみ

 当時メディナの町はアラブ諸部族やユダヤ人の対立もあって、非常に不安定な状態でした。移住してきたムハンマドと信者(ムスリム)たちは、みんな部族の絆を断ちきってムハンマドについてきたわけです。部族を超えて「イスラム」としてアラブ人がまとまっている。これは、部族対立を続けてきたアラブ人の歴史上始めてのことでした。つまり、理念としての共同体のまとまりが生まれたわけです。これを「ウンマ」といいいます。

 部族対立が激しくなっていたメディナの町で、ムハンマドたちの実践する「ウンマ」の存在は、部族を超えた中立な調停者としての立場を得ることになったんです。つまりムハンマドは、相争う勢力を自分の同盟者、ウンマの一員にすることでメディナに安定をもたらしたわけでございます。

 すなわち、「部族対立を解決したかったら私の信者になり、ウンマの一員になりなさい。」ということです。
 イスラムが「国」として成立する原理は今も昔もここにあるのです。
 メディナで勢力を広げる過程で、ムハンマドは自分の宗教の儀礼を定めて、宗教としての体裁を確立していきます。つまり、この段階で「イスラム教」というものになったということです。

イスラム教の集団=ウンマが、なにゆえ「国というまとまり」に発展することになったのか

 メディナでイスラム教のウンマがある程度の大きさになると、砂漠の遊牧諸部族もこれと同盟を結んだ方が有利と考えるようになるわけです。部族間の小競り合いはしょっちゅうある。それだから、イスラムの信者を兵力として借りることができれば、それだけ敵より有利になるよね。という論法です。

 ムハンマドはそういう部族に対して、信者になったら、ウンマみんなで助けてやるよというわけです。いわれた部族は丸ごと入信しますよね。敵対部族も自分たちもやっつけられないためには、自分たちもウンマの一員になればよい。こっちも部族丸ごと入信するわけでございます。そうすれば無駄な争いをしなくて済むわけです。そう考えると、イスラム教のこのシステムはとても優れた安全保障体制であると言えるわけです。

 こんなふうに、あとは雪だるま式に勢力は拡大していくんです。これが、イスラムの発展になるのですが、結果としてこういう布教方法は国家を持たなかったアラブ人に政治的まとまりをもたらすことになったのです。

 世界史に出てくる「イスラム国家」はこんな案配に成立していったわけなんでございますな。イスラム教を信じる人たちが、なぜ戒律に厳格なのかという理由は、こういう所にあったわけです。つまり、彼らにとっては、その事がみずからの安心安全を保障する「法律」そのものだというわけですから、あたし達が法を守るのと感覚的には同じ事なのです。

 ムハンマドが始めたイスラム教はどんな特徴を持っているのか、簡単に見ておきましょう。まず、厳密な一神教である、ということでございます。只一つの神しか認めない。しかも、その神は「創造主」という人格神です。

 こういう一神教の宗教は世界で三つだけです。ユダヤ教、キリスト教、そしてイスラム教。これらが「神」とするものは同じ神さまです。

  ところでアッラーというのは神様の名前ではありません。アッラーというのはアラビア語で「神」という意味の一般名詞です。日本語で「神さま」というように、アラビア語で「アッラー」というのです。

 だから「アッラーの神」という言い方はおかしいわけでございます。神様の名前は「ヤハウェ」です。キリスト教徒が信じているのと同じ神さまをイスラム教は信仰しているのです。イエスはユダヤ教を改革しようとした人でした。だから、キリスト教の神さまはユダヤ教と同じ「ヤハウェ」でした。そして、その同じ神をイスラム教も信じている。したがって、人類はアダムとイブからはじまったとイスラム教徒も考えているのですな。

 ムハンマドは、ノアからはじまり、キリストまでいたる人々を「預言者」としているのですが、神はこれまでの預言者たちにすべてのことを伝えたわけではない。言い残した言葉がたくさんあったんだ、という。人間たちに言い残した言葉を伝えるために選ばれたのがムハンマドなのだというわけです。したがって、ムハンマドは「最後にして最大の預言者」と言うことになるわけでございます。

 ムハンマドの死後、ムスリムの共同体であるウンマは、アラビア半島を統一して大勢力になっていました。この大きな集団を誰が統率するかということが当然問題になるんですな。まず、ムハンマドには跡取りとなる男の子がいなかった。またムハンマドは「最後にして最大の預言者」ですから、かれ以上の宗教指導者は理論上現れることはない。

 結局、残された信者たちは選挙で自分たちの中から指導者を選ぶことにしました。このようにして選ばれた信者の指導者を「カリフ」といいます。カリフは「預言者の代理人」という意味です。

 ムハンマドの死後、信者同士の選挙で選ばれたカリフのことを「正統カリフ」といいます。正統カリフは四人つづき、イスラム共同体を指導したこの時代を「正統カリフ時代」というわけです。この時代にはアラブ人の大発展が始まります。


さて、少し難しいかも知れませんが、次の講義もおつきあいください。今回は4単位です。なおこの記事はあたしのブログ過去記事にもとづいています


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