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中国からの輸出制限を自らを変える機会にした韓国コンテンツ業界の今

韓国コンテンツの海外輸出が2017年以降急拡大していることは、ちょっと前に日経新聞でも取り上げられていたので周知のことかもしれない。これは映像作品に限った話ではないが、2021年のコンテンツ輸出額は5年前の倍の115億ドル(約1兆3000億円)に達する見通しと言われている。

ただここで見落としてはいけないのは、韓国にとって最大の市場である中国の数字がここに加味されていないということ。北朝鮮の弾道ミサイルの脅威を理由に在韓米軍が配備したTHAADの影響で、2016年7月以降中国は韓国コンテンツを締め出していたのだった。しかし北京五輪を前に、いよいよ解禁の兆しが出てきているらしい。

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昨年2月中国CCTVと韓国KBSは番組開発に関わる戦略的パートナーシップ契約を締結。そして昨年12月に中国で韓国映画「오!문희/Oh! My Gran」が公開された。これは2015年に韓国で累計観客動員約1270万人を記録した映画「暗殺/암살/Assassination」の公開以来のこと。

さらに先週、湖南広播電視台が展開する動画配信サービスMango TVでドラマ「師任堂、色の日記/사임당, 빛의 일기/Saimdang, Memoir of Colors」が配信開始され、またテレビでは「宮廷女官チャングムの誓い/대장금/Dae Jang Geum」の吹替版が放送されたという。

中国が韓国コンテンツを締め出したこの5年で、日本やタイはコンテンツの中国輸出という点では漁夫の利を得ていたが、中国が韓国コンテンツを解禁すれば、その恩恵に預かることも難しくなるかもしれない。韓国コンテンツ業界にとってみればこれは朗報でしかない。ただ学びが大きいのは、韓国はこのダメージを自らを変える機会にしたということである。そしてその1つのきっかけは、Netflixの韓国参入と共にあるのではないかと思う。



Netflixが韓国に参入したのは2016年の1月。そこから5年でNetflixは80タイトルもの韓国映画・番組を製作しており、デロイトコンサルティングの調査ではその経済効果はこの5年で5.6兆ウォン(凡そ5600億円)に相当するとしている。

またこれはNetflixがもたらした効果だけとは言えないが、2016年の韓国参入を皮切りにNetflixがパートナーシップを結んだ5つのドラマ制作会社(Studio Dragon・AStory・Mystic Story・Studio 329・Company Sangsang)の年平均成長率はNetflixの韓国参入前の5年と比較して倍になっている。

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Netflixの韓国コンテンツへの投資は、競争が激しい韓国SVOD市場でユーザーを獲得する上で重要な戦略だっただけでなく、とりわけ東南アジアへのサービス普及にも大きなインパクトを与えていた。こうした背景から世界中の動画配信サービスは、この戦略に倣ってほぼ例外なく韓国コンテンツに投資するようになっている。そして「パラサイト」「イカゲーム」の大ヒットは言うに及ばず、韓国のスタジオの評価がかつてないほどに高くなった今、彼らは自ら置かれたポジションにレバレッジをかけて、グローバルプレイヤーへと自らを変えようとしている。NaverのWattpad買収や、CJ ENMによるSkydanceへの出資とEndeavor Contentの買収が、まさにその最たる例。

中国が制限を解き、重い扉を再び開けた時、5年で倍になった韓国のコンテンツ輸出額はさらに大きくなるかもしれない。そしてその時、日本のコンテンツ業界は韓国のコンテンツ業界と同じ土俵で戦っていられるのか。いささか不安である。





140文字の文章ばかり書いていると長い文章を書くのが実に億劫で、どうもまとめる力が衰えてきた気がしてなりません。日々のことはTwitterの方に書いてますので、よろしければ→@hideaki