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保育者に是非読んでほしい、この1冊〜挑戦 常識のブレーキをはずせ 藤井聡太 山中伸弥

怒涛の年度初めが終わり、先生方も少しお休みできていると良いのですが。
保育者は保育に関する本をたくさん読んでいると思いますが、ちょっと違う視点で保育を、あるいは社会人としてのあるべき姿を見ることで視野が広がるかもしれません。今日は棋士・藤井聡太さん(以下、藤井)と科学者・山中伸弥さん(以下、山中)の対談から学んだことを紹介します。棋士と科学者、そして言うまでもなく「天才」である彼らから保育者は何を学ぶ?と思われるかもしれませんが、いやいや、とても学びの多い本でした。

雨に文句を言っても仕方がない

本著は藤井と山中の対談を書籍化したもので大変読みやすいです。2人の「天才」の思考回路を垣間見ると、両者に共通しているのは、世の中も目の前にある課題も非常に客観的かつ冷静に見ているところだと思います。
山中は村上春樹の著書「村上RADIO」にある冒頭のフレーズが印象的だったと言います。ジタバタしても仕方ないので、今できるベストを尽くす、と。
それに対して藤井は「状況をあまり悲観し過ぎず、長期的な視点を持つことが必要だと感じる」と応じています。
なるほど、私たちは困難にぶつかるとジタバタせずにはいられない時があります。保育者だって保育観の違いや経営のあり方に強い不満を抱いたり、嫌気が刺したりすることがあるでしょう。
しかし、そこではなるべく今の状況を客観視し、なぜこのような課題があるのか、どうすれば課題が解決するのか、そして、では今自分に出来うる最善は何かを見極め行動することが大事だということだと思います。

若い時は何をやっても良い。何もしないということだけはやめてほしい。

ノーベル賞を受賞した山中は藤井の今の状況を「負けたらまた次があるから果敢な戦略ができる。これからの5年間は何にも代えられないような宝物のような時間だ」と評します。一方藤井も「自分でも、ここ数年がいちばん大事な時期」と語り、山中は「僕くらいの歳になると、いろいろ背負っているものがいっぱいあって、なかなか果敢なことができない」と寂しさを滲ませます。
そして冒頭の言葉が出るわけです。
「若い時は何をやってもいいと思います。何をやったらいいという正解はない。でも何もしないことだけはやめてほしい。どんなことでも夢中になれることがあったら、どれがどんな結果になっても、必ず自分の成長につながっていきますから。」と藤井にエールを送ります。
私も40代後半に差し掛かり、心から山中の意見に賛同します。
年齢を重ねれば重ねるほど、仕事においても私事においても自由が利かなくなるものです。
しかし、若い保育者の先生はいろいろな挑戦ができます。どんな挑戦にもリスクは伴いますが、その失敗は必ず次に生きるのです。
先に「雨に文句を言っても仕方がない」と書きました。
私は今の大学に来る以前、ある組織で困難な状況にあり「これは長雨になりそうだ」「被害(自分自身が病気になったり、経営が傾いたり)が出たら家族を守れないかも」と思って、少しでも天気の良いところを探して居場所を移しました。つまり転職です。しかし、雨の中でしたこと(つまり、ちょっときつい職場にいた時にしたこと)は、転職後の自分の価値を高めること。一生懸命組織のために仕事をし、研究もしました。
今の課題に自分自身ができる最善を尽くし、それでも自分の力ではどうしようもない時、ジタバタして組織や仲間の文句を言ったり、悲嘆に暮れて自暴自棄になったりせず、じっくり自己の価値を高め、必要ならば晴れているところを探して異動したり、進学したり、留学したり、自己の価値を高めることも大いに「あり」だと思います。

「今やることをやっておかないと」「できることは今しよう」だから一生懸命やってます。

山中は親友の元ラグビー選手 平尾誠二さんが突然病気で亡くなったことで人生観が変わったといいます。
私たちは若かろうが、年齢を重ねていようが、いつ人生の締め切りが来るかわかりません。
山中はiPS細胞で多くの病気を治したいと、ノーベル賞受賞後、なおも研究に勤しんでいます。藤井もタイトルを次々に奪取してもなお、「自分との戦い」に力を緩めません。
2人の天才がなおも「一生懸命」なのは非常に手強い相手である「自分」との戦いに勝とうとしているからに他ならないと感じました。

私たちは競争相手が見えている時にだけ「頑張ろう」という気持ちが湧いてきてしまいます。それが人間の弱さなのかもしれませんし、相手が見えている方が勝ち負けを理解しやすいのでしょう。
しかし、真に手強く挑戦しがいのある対戦相手は、実は自分自身であることを本著によって気付かされます。
対戦相手である「自分」が思いっきり手を抜いてくれると、現実の自分はちょっとしか頑張らなくても良く、結果自己の成長は望めません。
対戦相手である「自分」が頑張ってくれると、現実の自分は相当頑張らなければ自分に勝てませし、自分自身に勝とうとする過程が自己を強くし、自己の価値をも高めます。

天才が言った「一生懸命」の意味。本当にズシンときました。
今、自分は「一生懸命」か。
改めて自分に問いたいと思います。

まとめ

2人の「天才」の考えは極めてドライに自分を見つめ、他者と比較することなく、常に戦いの相手が自分であることで、その部分に多くの共感を得ました。でも、2人とも研究や対局に最高のパフォーマンスを発揮するために自己のケアも忘れません。山中は「体は1つだし、一日は24時間なので」と世界的競争の中でも冷静沈着に今のベストは何かを見出そうとし、藤井も対局前でも「7時間は眠る」そうです。
戦っている自分自身のケアも決して忘れてはならないことですね。

本著をとおし、周囲で何が起ころうとも冷静であること、自分を客観視し、戦う相手は常に「自分」であることに成功のヒントがあるように思いました。
保育者のみなさんも多くの悩みやジレンマを抱えて心が穏やではない時もあると思います。しかし少し脳を冷却する意味でもこのような違った視点の本との出会いが、将来を切り開くきっかけになるかもしれませんね。
今回も読んでいただいてありがとうございました。

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