エッセイ 02 1億台のミニカー
中学校のとき、車が大好きな男の子がいました。
その男の子は、車の写真のほんの一部分を見ただけで、その車が何の車なのかを当てることが出来ました。
ヘッドライトの端っこが少し映っている写真を見て、これは「カローラの 何々だ」と、そのグレードまで当ててきました。
いつも車雑誌の写真の一部を手で隠し、その子に見せて車を当てるゲームを楽しんでいました。
写真の中にもともと一部しか映っていないような車は、その子の答えが当たっているのかどうかすら誰も解りませんでした。
ただ、ときどき「わからないなぁ」と答えるところに、妙に真実味がありました。
そんなある日、クラスの誰かがミニカーを持ってきました。
この年代の男の子たちなので、みんな車に興味があります。
「カッコいい」や「いいなぁ」などとワイワイ騒いでいたところ、
「おまえもミニカーもってるんだろ?」とその子にだれかが尋ねました。
「うん、持ってるよ。たくさん持ってる。」
みんなも「そうだよなぁ」という反応です。
「どのくらい持ってるの」
「1億台あるよ」
「ん?・・・・・・」
何気ない会話の中に 面白みの種がころがってきました。
小学生独特の、あの言い回しなのかな?
「俺、100個持ってる! ならぼく1000個持ってる! それなら1万個! じゃぁぼくは1億万個っ!!」
覚えたての数の単位をとりあえず並べ立てる「あれ」です。
「ほんとに1億個?」
「うん」
その顔は、いつもの車の種類を答える自信にあふれた顔と同じでした。
「すごいなぁ。じゃぁ全種類持ってんだ?」
「たぶん。わかんないけど」
まわりからも質問が次々と飛んできました。
「1億個って、1個4~500円するから、トミカに400億円か500億円使ったの?」
「どこに置いてるの?1個50gくらいだから、1億個で何キロになんの? 2階だったら底ぬけちゃうね」
「箱に入れてたら部屋の中に入りきらないんじゃない?」
「段ボールで部屋埋まっちゃうね」
周りのみんなは値段や重さなど、知っている限りの「数学の勉強会」になっていました。
明日、持ってきてよ
「うん、でも友達に半分あげたんだ」
「半分って、えっ? 5000万個あげたの? その子迷惑じゃん(笑) 床抜けるよ。家に入んないじゃん」
「200億円ぶんをあげるってすげーなー」
またいい話の種をもらったと、周りの質問は止まりません。
「でもね、何人かにあげたから」
「何人にあげたの?」
「5人かな」
「1人1000万個だよね。やっぱ迷惑じゃん(笑)」(5000万÷5人)
もう全てを楽しんでいます。
「トミカって全部で何種類くらいあるの? 100? 200? もっとあるのかなぁ? 1億個ってことは同じ種類のものを、何個も持ってんだよね。」
「全部で100種類だったら、えっと、同じものを100万個も買ったんだっ!」(1億÷100種類)
「同じの物を、100万個買うってすげーなぁー」
「あげた友達も、同じ種類が10万個はあるってことだよなー」(1000万÷100種類)
計算の速さもどんどん上達しています。
さんざんトミカ1億個ネタで笑かしてもらった次の日。
その子はトミカを、15台ほど持ってきました。
「えっ? これで全部なの?」
「いや、まだ家に倍はあるよ。」
確かに30台は多いですよね。
みんなでそのトミカで遊び始めました。
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