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『aラストティア』~荒野の楽園編~ 第三章グオーレ王国 05グオーレ王国

第三章グオーレ王国 05グオーレ王国

「見張り番とかは居ないようね」
カレンの言うとおり、特に見張り番がいるわけでもない様子の門は、半分だけが空いている状態であった。常に半分だけ空いているのかは不明だが警戒はあまりしてないのかもしれない。人々は平然と門を出たり入ったりしている。
あれだけ大きな門のある城壁に囲まれているのに警戒が薄いのは怪しいのだが、かといって優理達がグオーレ王国に入るのに許可証や割り印が必要だったとしたら困るので、それはそれでありがたかった。
二人は怪しまれないように平然を装いただの旅人っぽく門をくぐった。
正面から門をくぐると城壁にそって弧を描くように建物が並ぶ道が左右にあって、そのまま正面を進むと大きな広場がある。広場の中央にはグオーレ王らしき人物の像が建っている。まだそんなに汚れておらず作られて間もないようにも見える。
広場を抜けてさらに奥に行くと坂道になっており、坂の左右には鳥居が城の入り口まで10メートル感覚で置かれている。
城の後ろには丘で見たように山がそびえ立っており崇高で威厳のあるお城に見える。
まず優理とカレンは今日泊まる宿を探すことにした。
すぐ近くに居た人に話しかけて宿の場所を聞き、言われたとおりに西門へ続く通りを進む。驚くことにその通りには服を飾っている建物もあれば、ネックレスや指輪などの装飾を扱っているお店もあった。さらには魚屋と肉屋らしき店もあった。
「まるで商店街って感じだね」
カレンは周りに目をやりながら唖然としたような口調で言った。
当たり前に、このセピア世界に普通の街のような場所があるなんて思っていなかったのだ。無論優理も同じ気持ちで言葉を失っていた。
初めてでっかい高層ビルを見たときの田舎者のような足どりで歩いていると、目指していた宿の印である『レスト』の文字が目に入ってきた。
入り口にはカウボーイとか海賊とかが集まるような酒場のシーンにでてくる、胸元くらいの高さにあって押すと反動で前後に揺れるが、しばらくすると元に戻るタイプの扉がついてあった。それを押して宿の中に入ると、受付カウンターとその後ろに立つ受付係の女の子が目に入ってきた。
「あの、今日二人泊まりたいんですけど大丈夫ですか?」
「お二人様ですねかしこまりました、お部屋はお二つご用意いたしましょうか?」
「あ、えーっと・・・・・・」
優理が受付係のその問いに困っているとカレンが後ろから答える。
「1つで構わない」
「ええ!!ちょっと、え・・・・・・いいの?」
あまりの即答に驚きを隠せない優理。それに対してカレンが呆れたように言う。
「何だ部屋くらいで、ベットは二つ用意されてるに決まってるだろ」
「はい、一部屋に2つご用意しております」
受付係が表情を変えずに答える。
「そ、そうだよな、うん。」
健全な男心であれば女性と二人きりで同じ部屋で一夜を過ごすことに何も考えない訳はないのであって、もちろん優理も動揺するのを避けられなかった。
「どうした、何か変なことでも言ったか?」
「いや、何でも無いです・・・・・・」
どうやら意識してしまったのは優理だけのようでカレンはなんとも思ってないらしい。一緒に旅する仲間としては良かったのかもしれないが、男としてはなんかちょっと悔しい気持ちになる優理であった。
そんな二人の様子はさておき受付係は業務を全うする。
「一部屋一泊二名様ですね。料金は前払いとなっていますので合計で16ペカになります」
「ぺ、ぺか??」
聞き慣れない言葉に声が裏返ってしまった二人に対して首をかしげる受付係。
「あの、もしかしてペカ・・・・・・、いえ、グオーレ王国の通貨をご存じないのでしょうか?」
「ご存じも何もこの国に来るのは始めてで、しかも通貨ってことはお金が有るってことですか!?」
驚きのあまりにカウンターに手をつき前のめりに聞き返してしまった優理。その勢いに押されて後ろにのけぞりながら受付係は「は、はい・・・・・・」と返答する。
「そ、そうなのか、なるほど。それなら来る途中に肉屋や魚屋があったことにも納得できるな・・・・・・」
身体を元に戻しながら優理は息を漏らすように言った。
「すまない、この国にきたばかりでお金持ってないんだ、どうしたらいい?」
 カレンが困った表情で聞く。
「どうしたらいいと言われましても、お金が無ければお金に換えられる物をご用意していただくしかないですね」
 この受付係には感情が存在しないんじゃないかと思うくらい、全く表情も声のトーンが変わらない。
「ならこのリンゴだったら代わりになるだろうか?」
 いつの間に用意していたのか分からないがおもむろに真っ赤なリンゴを差し出すカレン。
「随分と綺麗な色と艶をしたリンゴですね。一体どちらで?」
「それはちょっと教えられないかな。で、これなら何ペカくらいになりそうなんだ?」
 そうですねーと口にしながら真っ赤なリンゴをまじまじと観察する受付係。
「これだとせいぜい6ペカってとこでしょう。なのであと2つあれば足りますね」
二人で一泊するのに16ペカだとしたら、リンゴ1つで6ペカはかなり高価だ。やはりいくら通貨があるとはいえ食料品の方が需要があり価値が高いことが窺えた。
 しかしカレンは6ペカじゃ足りないな・・・・・・と悩むようにつぶやく。
「その6ペカのリンゴを頭金として用意して、残りを後日支払うってのはダメですか?今すぐに準備はできないですけど必ず持ってきますから」
 自然の楽園から自然の恵みを取ってきて換金することは可能だが、今すぐにそれをやってしまうと怪しまれてしまうだろう。だからここは一先ず納得してもらう必要があり、優理は必死な顔つきでそう頼んだ。
「あなた方を信用しないわけではありませんが、決まりとして・・・・・・」
 受付係の人は断る文言を口にする途中で、視線が下に向くと同時に固まった。
 ん?何か下にあるのか?と思って優理もその視線の先に目を落とすと、ニュートンがポッケから顔をだしてきょろきょろとしていた。
 カレンもその様子を確認すると何か閃いたのか、ニュートンを優理のポッケから取り出して受付係に差し出す。
「この子をひとじ・・・・・・じゃなくて一日お貸しするので今日のところは6ペカ分の前払いで泊めて貰えないだろうか?」
 急にカレンがそう言ったので、優理とニュートンは「えっ!」と驚いた顔をする。
「カレン、それはちょっ・・・・・・」
「いいですよ」
 カレンの勝手で無茶な提案を却下しようとしたところに受付係が承諾の返事をした。
「え!?ちょっと、ダメだよなニュートン?」
 カレンに両手で持ち上げられているニュートンに、本人の意思確認するとブンブンと首を横に振って返答する。
「ほら、ニュートンもこう言ってるし・・・・・・」
「何を言うんだ、ニュートンもこんなに楽しそうに足をぶらぶらさせているだろう。じゃあこれで交渉成立ってことでいいかな?」
「はい、構いません、お部屋は二階の203号室です」
あ、あれ?なんか勝手に話進んでない?というか受付係がその気で満々すぎて、部屋の鍵まで渡してきちゃってるし!ニュートンは嫌がってるけどこれで泊めて貰えるなら仕方ないのかも・・・・・・。ごめんニュートン、僕にはこの二人を止めることはできないみたいだ!
 カレンはニュートンを受付に置いて鍵を受け取ると「先に行くぞ」と階段を上がって行ってしまった。ニュートンがウルウルした目でこちらを見てくる。
「ニュートンごめん、一日我慢してくれっ!!」
別れを悲しむように階段を駆け上がる優理の背中を「ま、まってよ~~」と言わんばかりに見つめるも届くこと無く、とうとうニュートンは置いて行かれてしまった。
終始顔色一つ変えなかった受付係は二人が居なくなって静かになると、早く触りたくて仕方なかったらしく急にニュートンを抱きかかえ撫で始めた。
「かわいぃぃぃ!!! お目々ぱっちりね。手と足はふにふにしてるー。今日は一緒に寝ようねっ」
 この日ニュートンは、豹変した受付係に愛でられまくったのは言うまでも無い。

階段を上がり203号室の扉を押し開けると、既に中に入って居たカレンが椅子に座って待っていた。ベッドは・・・・・・ちゃんと二つあるな。
「その、ニュートンのことはすまなかった許してくれ」
 気まずいのかうつむきながら謝るカレン。
 多少無理矢理ではあったがあの場をなんとか乗り切るには必要だったことだし、あの様子だとニュートンも悪いようにはされないだろう。
「いや、気にしなくていいよ。ニュートンには後でお礼でもしようか」
「ありがとう、助かる」と頭を下げるカレン。そして顔を上げると気を取り直して話す。
「優理、これからなのだが、まずは情報収集をしようと思う」
「そうだな、まずはそこからだ」
 宿に来る途中の商店街にしろ通貨にしろ、グオーレ王国はセピア世界の中でもかなり栄えていると考えてもおかしくは無い。セピア世界について、ティアについて知れることはたくさんあるだろう。グオーレ城に入る手段も考えなければならない。
「私はこの宿周辺と西側を見て回るから、優理は広場と東側を探索して欲しい」
「わかった、一通り見て回ってきたらここに戻ってこよう」
「よし、ついでに私はペカに換金できる物を自然の楽園から持って来る」
 そう言ってカレンは部屋から出て行った。
もう少し休んでからでもいいのに・・・・・と優理は思いながらも宿を出て広場に向かった。

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