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『aラストティア』~荒野の楽園編~ 第二章セピア世界 10見えない鳥

 第二章セピア世界 10見えない鳥

 その日はもうすでに遅くなっていたので皆は次の日の作業に備えて就寝した。
きっとこの世界に来てから一番質の良い睡眠がとれたのは言うまでも無いだろう。
朝になると昨日の疲れなどもろともせずに大人達が豊穣神の種を植える土地の耕作に励む。
お昼休憩をとってから小一時間ほどして柵や収穫に必要な道具は完成した。
カレンが豊穣神の種を耕作して盛り上がった畑の真ん中に植える。
すると、まず土の色が変化し栄養価の豊富そうな上質な土になり、それが綺麗に大きく3つに区切られ整理されていく。
カレン曰く一つは米、もう一つは野菜、最後に果実という3つに区分されて育つらしい。
ただ昨日のような急成長をしたり発光したりと目立った変化は無くそれで終わってしまったため、村人達も拍子抜けしたような顔をしている。
「なんだ、これでおわりか?」
 村人の一人がつぶやいた。
「まぁ、そんなにすぐに作物ができる訳じゃ無いからな。でも現実世界よりは何倍にも早い成長をしてくれるはずだから楽しみにしておくといい。」
 カレンが言う。村長もそれに続いて、
「まぁ何はともあれこれでこの村も安泰じゃ!皆の者今日は宴と行こうじゃないか!!!」
「「おおおおお!!!」」
 村人達は張り切って宴の準備に取りかかった。
優理とカレンも一緒にその準備を手伝っていた時、カレンがふと空を見つめて立ち止まった。
それを見て優理は「どうかしたのか?」と尋ねる。
 上空を見つめたままカレンが答える。
「何かくる」
「んん?」
 優理もカレンが見つめる方向を一緒になって見るも何も見当たらない。
「何も無いみたいだけど、勘違いじゃないの?」
「いや、近い・・・・・・」
 なおも上空を警戒しているカレンに「先に行ってるよ」と一声かけるも集中しているので返事が無い。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・!?ここだ!!」
 カレンは急に頭上の斜め上辺りに向かって何かを捕まえるように両手をぱんっと叩いた。
 その手は確かに何かを捕らえているが、何も見えない。
 しかし少し経つと段々と形がうっすらと形成されていき、遂に目視できる色へと変化していった。
「水色の鳥?」
 その形は小柄な雀くらいの小さな鳥で、その色は空の色をしていた。
 まじまじとその水色の鳥を見つめていると急にその鳥がぽんっと白い煙を上げて消えた。
「うわっ!」
 カレンは急なことでびっくりして背筋が反り返る。
「ん?なんだろ、これ」
 煙とともに消えた小鳥の代わりに手のひらに乗っていたのは、4つ折りにされた紙切れだった。
カレンはそれを開き中を確認すると。
「これは大変だ!優理ちょっとみてくれ!」
 準備を手伝いに戻ろうとしていたが、カレンが慌ただしく呼ぶので走って戻った。

 ~この文章が読めているということは同じくティアの所持者(マスター)に届き、僕の魔法【以心伝心(エアリンク)】が効力を発揮しているということになるでしょう。間もなくこの手紙は貴方を僕達の居るところへと導くリングになります。そのリングを使ってどうか僕とソニアを救ってください。グオーレ王国に捕らわれています。もうソニアが限界なんです。どうか急いで、僕達を救ってください。お願いします。~

優理が手紙を読み終えると、手紙に書いてあった通りに透明な水色のリングに変化した。
「すごい・・・・・・」とカレンがつぶやく。
「つまり僕達と同じティアの所持者(マスター)がこのグオーレ王国に捕らわれていて、助けを求めて居るってことか」
「どうし・・・・・・」
「助けに行こう」
 カレンの言葉を待たずして優理はその言葉を発していた。
「でも、もしかしたら何かの罠って可能性のあるんだよ?私もこれを見たときは真っ先にそう思ったけれど、イレイザ達のような存在がいるのも事実だし・・・・・・」
 カレンはイレイザとの戦いで気になっていた点がいくつかあった。
 イレイザはみたところ中堅くらいの役職であり、さらに上の親元が存在しているのでは無いかということ、優理の放った七色に輝く鏡の盾で起きた爆発の後、イレイザの消息が掴めていないということだ。単純に跡形も無く消えてしまったのなら仕方ないが、もしそうじゃなかった場合、親元が回収していたとしたら・・・・・・と考えると、まだ自分たちを付け狙う存在がいてもおかしくないということになる。
 深く考えすぎかもしれないが、ティアの所持者(マスター)ということもあり、警戒するに超したことはないのである。
 噂でしかないがティアを独り占めしようとして、ティアを狙う賊もいるようだ。
 不安に思うカレンに優理が強く答えた。
「助けを求めている人が居るんだから助けに行かないと。それにこの手紙を受け取ったのが僕達だけだったら、この人はもう助からない」
「えっ・・・・・・。そ、そうだよね」
 カレンは力強い彼の言葉に一瞬ひるむも、「あぁ、これが優理って人なんだな」と、なんていうのかな・・・・・・今まで感じたことない気持ちになった。
「村のみんなには申し訳ないけど、村長に訳を話してすぐにでも出発しよう」
 カレンは頷き、二人は村長の元へと向かった。

「事情は分かった。本当はこの村で一緒に暮らしたかったがお二人ともティアに選ばれし者、いずれは世界を元に戻すために旅立つのだろう。なぁに村は心配要らんよ。君らのおかげでみんな生きていける。そうだな・・・・・・出発する前にカオルとヒカルに挨拶だけして言ってくれんか?二人は君をとても慕っていたからな・・・・・・」
 そういうと村長は耐えきれなくなったのか涙を流した。
「はい」
 悔しさや悲しさに怒りなどが混ざった様々な思いを凝縮した「はい」だった。
カレンは黙って二人を見つめた。
カオルとヒカルのために立てられた墓の前まで行くと優理は目をつぶった。
「僕が弱いばかりに君たち兄弟を死なせてしまった。本当にごめん。いくらティアの所持者(マスター)だからといってろくにティアの力を扱えないままじゃ、弱いままじゃ世界どころか目の前の人さえ救えないんだ。もう二度と誰も死なせたりなんかしない。」
 弱い者に誰かを守ることなんてできない。それは現実世界でも同じことだ。どんなに助けたいと思っても、例えば力に、権力に、金に、地位に弱い者は負ける。
現実での僕はそれでいいやと諦めていた。どうしようもないって。生まれた時から決まっている運命という奴に逆らうだけ無駄だって。でも本当は諦めたくなんてなかった。見て見ぬ振りなんてしたくなかったんだ。
「僕は変わるよ」
最後にそう言って優理はカオルとヒカルの墓に背を向けた。
カレンも両手を合わせ軽くお辞儀をして優理に続く。
「村長、お世話になりました。必ずこの世界からみんなを救うので、待っていてください。」
「頑張ってな」
「はい!」
ヒロキチに見送られながら二人は村を出発した。
いつもは優理のポッケにいるニュートンも優理の頭にのっかり村長に短い手を振った。
セピア世界を救うためのティアの所持者(マスター)達の物語が始まる。