『aラストティア』~荒野の楽園編~ 第二章 05イレイザ=ナイトメーア
第二章セピア世界 05イレイザ=ナイトメーア
一方、優理達にボコられ、一時撤退をした骸骨兵士のギロとチン等は上空にいた。
「本当にこんな辺鄙なところに凄腕の剣士がいて、カッターがやられたというのか?」
図太く低い声をうならせながら彼らのボスであるイレイザ・ナイトメーアは二人に聞く。
「本当です、イレイザ様。うちらギロ・チン・カッター3兄弟のカッターは、その女剣士の使う炎の剣で灰に・・・・・・」
ギロが涙するように、実際には出ない涙と鼻水をすすりながら答える。
「我らは常に三位一体で候。なにとぞ、イレイザ様の甘美なる炎で敵を討ちたまう・・・・・・」
チンもギロに続いて言った。
「可愛い部下がやられて黙って見ているほどお人好しじゃないんだよ俺様は。それに。同じく炎を扱う美人剣士ときた。是非とも生け捕りにして、俺様の部下にしてやりたい、ガハハハハ」
そう言って高らかに笑うイレイザとその部下いっこうは、灰色のドラゴン型の乗り物に乗りながら、美人女剣士と取り巻きの男のところへ向かっていた。
「あれか・・・・・・かなり手強そうだな」
カレンが敵を確認したところでつぶやいた。
「カレン、俺はどうしたら良い」
優理が尋ねる。
「私が奴等を引きつける、だから優理は敵の背後に回ってくれ。合図と共に攻撃だ」
「合図は?」
「火の玉を上空に打ち上げる、それが合図だ」
「分かった」
優理はそういうとカレンに背を向けた。
「死ぬなよ・・・・・・」
カレンがぼそっとつぶやく
「ん?なに?」
「なんでもない」
「わかった、じゃあ俺は行くよ」
なぜだろうか、決して実力も無ければ強いはずもないのに、その後ろ姿からは勇ましさをと期待を感じる。その背中が闇へと消えていった。
「よし、私も本気でいきますか」
カレンはそう言うと、腰ちかくまである長い髪を持ち上げ、腕に付けていたゴム紐で侍のように後ろで結び、右側の前髪を耳にかけた。そして上着も脱ぎ、上半身は胸に巻いたさらしのみの姿となった。
「本気ですね」
イリィが何も無いところからフッと現れ、そう告げた。
「彼の敵討ちだからな・・・・・・」
彼女にも何かしら想うことがあるのだろう。イリィは何も言わずに黙って聞いた。
「さあ、はじめようかイリィ」
イリィに右手を差し出すカレン
「かしこまりました」
イリィはそう言うと両手刀を異世界から取り出し、カレンに渡した。
イリィがカレンのそばに唐突に現れるのと同様な仕組みだろう。
カレンが手にした武器は”魔刀 ヤヌス”。長さ7,8尺(約2,3メートル)の細身の刀、柄の部分は黒の帯で巻かれていて、刀身は黒鉛のような黒光り、刃先に向かうほど細さが増している。重量はそこまで重くはなく、成人男性ならば片手で振れる重さだ。
カレンはヤヌスを両手で扱う。もちろん片手で持てないことは無いのだが、彼女はこのスタンスを気に入っている。
本気モードになったカレンは、ヤヌスを両手で天高く掲げた。そして気合いを込めて一言「ハッ!」と叫ぶと、刀の先から炎が一直線に吹き出した。
暗闇の中で赤く燃え光るその炎に、イレイザ達はすぐに気づく。
「あっあれは、赤い炎!あれですよボス!」
ギロがイレイザに向かって叫ぶ。
「ほう、私はここに居るぞと言わんばかりの威勢の良さじゃないか。気に入った、絶対に部下にしてやる」
イレイザはそう口にしたあと「いくぞお前等!」と叫び、その炎の元へと部下を引き連れて向かった。
「随分と派手にやりますね」と、やや呆れたようにイリィが口にする。
「これくらいやった方が興にはいいだろ?」
「来たみたいですよ、お待ちかねの敵さんが」
イリィが言うやいなや、目の前にイレイザ率いる部隊が合計10体、上空から降りてきた。
地上に着くと、イレイザ一行は灰色のドラゴンの乗り物から降りて、カレンと対峙する。
他の部下である骸骨が後ろで列を作って待機し、その後ろからイレイザが前へゆったりと乗り出す。
「我こそは黒の三英傑第三位配属兵、爆発のイレイザ=ナイトメーア隊長だ。初めまして紅のお嬢さん」
紳士的な礼と共に挨拶をするイレイザ。そんなイレイザに対しカレンは挑発をする。
「聞いたこと無い名前ね、今なんて言ったのかしら?イザコザ?」
「ぐぬぬ・・・・・・」
安い挑発に乗ってはならぬと歯を食いしばるイレイザの後ろで部下達が応援する。
「よっ隊長やっちまえ!」
「ボス、今です!ほら!」
「部長も言い返したらどうなんだよ!」
「やっかましわお前等!あと、俺のことはボスと呼びなさいと言っただろう、きちんと揃えろ!」
「「イエス・ボス!」」
隊長らしく部下を叱りつけ、何事も無かったかのように向き直る。
「俺の可愛い部下ちゃんをやったことは正直許せないが、代わりに同じく炎系を扱える剣士殿がもし俺の部下になってくれるなら、許してやらなくは無いぞ?」
「あら、奇遇ね、私もちょうどもう一人執事が欲しいところだったの、貴方が土下座してでもやらしてくださいって言えば考えなくも無いのだけれど?」
一瞬同じ炎という言葉が気になったが、間髪入れずに挑発をするカレンにイレイザも少し鼻息を荒げて言い返す。
「俺より弱い奴の執事にはなれんな、まぁ夜のご奉仕までさせてもらえるのなら考えなくも無いがな!」
「ふ~、ボスやるぅ」
「よっ隊長いかすぜ!」
「部長それパワハラっすよ」
「ボス!ボスと呼べこの脳なしども!」
「「イエス・ボス!」」
また同じやりとりをするイレイザ軍団。
さすがのカレンも今の発言には鳥肌が立つ、
「うーわきっしょ、そんなんだから未だに独身底辺隊長なのね、かわいそう」
「ガハハ、こう見えても30手前なんだなこれが。俺様はスピード出世で隊長務めたエリートってわけだ」
二人はなおも舌戦を繰り広げる。そして部下達もさらに盛り上がる。
「よっ隊長さすがだぜ」
「ボス、しびれるっす」
「部長、いつになったら給料上がるんですか」
さぁ次はどんな醜い発言がくるのか・・・・・・と思っていたら、イレイザの肩がワナワナと震え、
「お前等いい加減にせえよ!ボスだっつってんだろ!?あとお前、よっていちいち入れるな、そしてお前、お前だけ応援じゃない、サラリーマンか!」
しびれを切らしたイレイザは部下達に怒濤の突っ込みを入れた。その様子を見てカレンが鋭く言い放つ。
「これ以上話し合っても意味はなさそうね」
「奇遇だな俺もそう思っていたところだ」
今の今まで気づいてなかったのか・・・・・・という雰囲気はさておき、二人の空気感が変わる。
カレンが魔刀ヤヌスを持ち直し構えると、イレイザも腰の剣を抜いて構える。
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強者同士が真剣に互いの間を読み合うことで、静寂かつ気迫のある沈黙が生まれる。
一人一人の些細な息づかいや目線が敏感になり、額から汗がつたう。
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すると!緊迫感のなか唐突に視界の端で何かうごめくモノが!?
それはまるでボールペンで書いてしまったから消しゴムで消すことができず、見られたくないからどうしようもなくグチャグチャに書き殴ったかのような、そんな何か。
全員の視点がその何かに集まる。
その奇妙な動きをする何かはイレイザの元へとヨロヨロと近づいていきそして止まった。
「・・・・・・・・・・・・、なんだ?」
イレイザが口にした瞬間、うごめく怪しい何かは人の形へと変化する。
「優理!?」
「ンオッ!?」
イレイザが驚きひるんだ隙を優理は逃さず、顎下めがけて勢いよく拳でアッパーをかます。
「ぐわあぁあ・・・・・・」
不意に顎に拳を食らったイレイザはその場に倒れて気絶、部下達が「ボス!」と叫ぶ。
「優理避けろ!」
その隙を逃すまいとカレンが叫ぶ。
優理は言葉に反応し咄嗟にカレンの方へダイブして緊急回避をした。
それを確認したカレンは肩上から斜めに構えたヤヌスに炎を纏わせ、腰を入れてそのまま横一直線にイレイザの部下達に向けてスイングした。それはまるで天から降りてきた火の竜が地を這っていくかのようだ。
〈地を這う火炎竜(フレイムストローク)〉
カレンはそう叫び、イレイザの部下達を一掃した。