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教室のアリ 第17話 「4月26日」〈ポンタの推理〉

 オレはアリだ。長年、教室の隅にいる。クラスは5年2組。

 ほんとうによく寝たよ。オレもポンタもすごく疲れていたんだろう。起きたら教室には誰もいなくて、外を見たら子どもたちはグラウンドでダンスをしていたよ…あっ体育、3限か…。音楽が鳴って、少し踊ったら音楽が止まり、ダンスもやめる。先生が何か大声で言う。また音楽が鳴って踊る…それを繰り返していた。なんでいちいち止めるんだろ?まあ、いいや、今はもっと重要なことがある。オレはポンタの足を見た。傷はふさがっていた。つくづく人間の作る「薬」の凄さを感じたよ(芝生を枯らさず、シロツメグサだけ枯らすことができる)。
「痛みは?」オレが聞くと、
「全然痛くないし、自分で歩けるよ。きのうはありがとう。」
ポンタはニコリとした。今までは泣き顔や不安な表情しか見たことがなかったから少しホッとした。そのあとはいろんな話をした。オレが教室に住んでいる理由、給食のこと、ダイキくんのランドセルのこと、野球のこと、そして遠足のこと、運動会がもうすぐあること、そして「給食室で『仲間』と会える」かもしれないこと。もちろん、ポンタはすべてを理解できたわけではない。そりゃそうだ…1日前は草原で仲間と働いていたのに、リュック入れられてバスに乗って保健室に行ったんだもん。ひとまずオレは、先生の机の中を案内してお菓子を二人(二アリ)で食べた。ポンタはすごく美味しそうに食べながら聞いてきた。
「これはなに?」
「ハイチュウだよ。甘くて美味しいけど、たまにネバネバして口が開かなくなったり、足がくっついてしまうから気をつけてね」「あと、イチゴの絵が書いてあるけど、本物のイチゴは入ってないらしい」「昔、公園にいた頃、子どもたちが言っていたよ」
そう答えたら、ポンタは不思議な顔をしていた。オレは改めて思った。人間はなんてこんなお菓子を作るんだろう?イチゴが入ってないイチゴのお菓子?イチゴを食べればいいのに…話がそれた。

〈給食室へG O〉
 給食の時間になった。ひと通り、子どもたちの動きをポンタに説明した。配るときはよくエサが床に落ちることとか、狙う場所はろうか側とか、よくこぼす子どもの席と特徴とか、美味しい給食とか…頭はいいようだ、すぐにわかってくれた。そのあと、午後の授業を見学して(きょうもダイキくんの算数の答えで大爆笑だったけど、割愛)放課後、給食室に行った。エサを隠していたら無くなっていたことをていねいに話した。ポンタは言った。
「コタローくんには言いにくいんだけど、エサを持っていったのは『仲間』じゃないかもしれないよ」。オレはびっくりした。95%くらい『仲間』の仕業だと思っていたのに…
「なんでそう思うの?」
「なんとなく。うまく説明できないんだけど、食べ残しの仕方とかいろいろ、もちろん『仲間』であって欲しいし、その可能性もあるけど…」
「じゃぁ、誰だと思う?」
「蝿(ハエ)、かなぁ?」
「蝿??」オレの声は裏返った。だって、蝿が入るすきまなんてないし、蝿は汁をなめるだけ(あと手をこする)だと思っているし、でもポンタは頭がいい(多分)。で、もう一度聞いた。
「『仲間』の可能性もあるよね?」
「もちろんあるよ、コタは信じているんでしょ?」
もちろん、エサを食べたのが『仲間』の方が嬉しい。でも前とは少し気持ちは変わっていた。理由は、隣にポンタがいるからだ。
「ポンタの夢はなに?」オレは聞いてみた。自分の夢も決まってないのに。
「まだよくわからない。ここの生活に慣れてから考えるよ。」

 学校はシーンとしていた。あしたは土曜日で休み。オレとポンタは給食室の隅と隣の1年生の教室からエサを集め、窓際の棚の中のヒミツの隠し場所に集め、5年2組に戻った。『仲間』が来るのか?蝿が来るのか?ずっとここで見張っていればいいんだけど、なんだか結果を知るのが怖くなったからだ。まぁ、土日だから時間はたっぷりあるし、ポンタとも相談して決めよう。気分が向いたら見に行こうか…

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