会社設立初めの一歩(後編)…「(スポンサー)営業力の醸成」
INDEX
【営業の一番の先生はお客様】
【営業の初めの一歩: 敬意・笑顔・感謝】
【営業の芯: 身を切る】
【営業現場から学んだ教訓諸々】
①社員は部下でなく戦友
②対面基本
③既存スポンサーが生命線
④決定率の高いご紹介案件
⑤一番の営業スタッフはサポーター
⑥身の丈以上はいただかない
⑦全てを失ってもそばにいてくれる人達
⑧お客様は商品ではなくあなたを買う
【最後に】
前編では「会社の基盤作り」について記させて戴きましたが、後編では「これがなくちゃ話にならない」ほど大切な営業力の醸成について触れたいと思います。ここでは営業の中でも一番売上比率の高いスポンサー営業に特化してお話しします。特化しても皆さんの忍耐を超えた長さになっていると思います。どうかご容赦下さい。(書ききれない分はいつか本にでもします^ ^。)
【営業の一番の先生はお客様】
書く前にどこまで書こうか、正直悩んでいます。それは、書けば「そういう営業をすれば集金力が上がる」と思ってしまう方もいるのではないかという心配です。スポンサー料を払って、生活が便利になったり、長生きしたり、満腹になったりするというような自分に跳ね返ってくる類のものではないので、「営業力とは」と言っても、その通りやればスポンサー社数が増えたり、売上が伸びるというほどそんなに甘いものではないということを、初めにお断りしておきたいと思います。
まがりなりにも、このプロスポーツ業界で20年近く仕事をしてきて、経営業ではなく、一営業スタッフとして一番実績を残してきたのはスポンサー営業だと思います。マリノス、ベルマーレ、エスパルスと売上の伸長率では間違いなくスポンサー営業が牽引していましたし、その伸長に直接寄与してきたという自負は少なからずあります。ただ、私は一切の営業教育も体系だった勉強もしてきていません。ただただ毎日色々なお客様のもとへ足を運び、そこから得た教訓を頭の中に刻み込みながら今日を迎えています。ですので、学術的な営業論は別の誰かにやってもらうとして、ここではお客様とのやり取りを通じた実践的なお話をしていければと思います。
「お客様はどうしてお金を出してくれるのか」…それは煎じ詰めれば「欲しいものを得られるから」というのが私の結論です。ではどのようなものが欲しいのか、どうしたら欲しいと思って戴けるのか、スポンサー営業は奥が深いと思っていますので、色々と書き出してみましょう。
【営業の初めの一歩: 敬意・笑顔・感謝】
ここでは営業の基本スタンスについて触れたいと思います。とてもシンプルで当たり前と言えばそれまでですが、やり続けるのは中々難しいものです。いつどこでお客様と接しても、例え人間として苦手な方でも、そして金額の多寡にかかわらず、この3つの言葉を肝に銘じておかねばなりません。そして、その気持ちを持って「5万円の法人会員でも1億円のユニフォームスポンサーでも下げる頭の角度は同じ」に出来る営業スタッフでいましょう。それが最低限お客様の欲しいものであり、またこちらが提示したものを欲しいと思って戴くための必須条件と心しておくべきでしょう。
【営業の芯: 身を切る】
相手がお金を出すことを「身を切る」思いでのことだと感謝しましょう。そして、身を切ってくれた人には、当然こちらも身を切りましょう。例え契約に至らなくても理解を示してくれた人にも感謝を込めて身を切りましょう。関心だけでも示してくれた人にもやっぱり身を切りましょう。凡そ関わって戴けた方は、いつなんどきご厚情を賜われるやもしれません。berry bestを尽くし続けることが肝要です。では身を切るとは…自分のありとあらゆる能力のリミットでお客様と接することです。お客様の会社を必死に勉強し、自分のクラブのすべからくを徹底的に頭に入れ、お客様にとってのお金を出して戴く意味を精魂込めて考え、最後まで情熱を持って接することです。その熱をお客様は必ず見ています。一度断られたお客様から「やっぱりやるよ」と、松竹梅の梅で契約したお客様が数時間後に「やっぱり松にするよ」と言って戴けたことは一度や二度ではありませんでした。理由は色々ありますが、共通して言えることは、最後まで諦めずに誠意と情熱で身を切った想いが伝わった、と私は思っています。営業スタッフは、幾つ身体があっても足りない位身を切って初めて自分を誇りに思う人間でいて欲しいですね。
【営業現場から学んだ教訓諸々】
数え上げたらきりがないので、ここでは8つほどご紹介しておきます。残りは別の機会に「講座」という形でお披露目出来ればと思います。
①社員は部下でなく戦友
②対面基本
③既存スポンサーが生命線
④決定率の高いご紹介案件
⑤一番の営業スタッフはサポーター
⑥身の丈以上はいただかない
⑦全てを失ってもそばにいてくれる人達
⑧お客様は商品ではなくあなたを買う
先ず「①社員は部下でなく戦友」だということ。間違っても上から目線ではいけません。お客様と会社を代表して身を切りながら仕事をしてくれるからこそ、社業繁栄が成り立ちますので、敬意を込めて戦友として接しましょう。スポンサー契約に至れば、満面の笑みをもって握手(今は別として)、拍手、最敬礼で出迎え、悩んでいれば共に考え、疲れていれば身代わりをかってでましょう。社員の覇気なくしてお客様から「欲しい、買おう」とは思って戴けないのですから。何があっても社業発展は「社員のおかげ」なのです。
お客様とは「②対面基本」を旨としましょう。時節柄言葉には注意しなければなりませんが、やはりお客様と直接お会いして、その関心事、表情/息遣い/肉声から放たれる関心度/好感度/共感度等々、私たちに何を求めているのかは、やはり対面して初めて分かるものです。また、「足を運ぶ」ことは、電話やメールとは明らかに違う「手間暇かけた感」があります。それは愚直ながらも誠意や真摯に繋がる大事な行為だと私はこれまでの営業経験から学びました。
よく新規でスポンサーになって戴くと、プレスリリースをしたり、大口さんですと記者会見をしたり、中々丁重に接したりするものです。新規さんは関係ゼロからの構築ですから、それは担当としても会社としても嬉しいものです。一方で長年お付き合い戴いている既存スポンサーさんも同様に大事にしなければならないと思っています。様々な事情がある中、長年継続してくれているスポンサーさんはむしろ新規さん以上に気を配らねばマンネリを感じてしまう危険すらあると認識すべきです。スポンサーは新規を積み重ねる一方で、「③既存スポンサーが生命線」と解してお付き合いをしていきましょう。私のいるクラブでは、契約更新してくれた既存スポンサーさんも、「継続」リリースをかけています。増額してくれた場合は感謝を込めて「継続(増額)」と打ち出します。スポンサー代表者のコメントや写真もリリースに入れることもお約束マターにしています。
新規スポンサー法人は、なるべく既存スポンサー、或いは財界での影響力がある方からご紹介を戴けると決定率は上がります。この「④決定率の高いご紹介案件」を金額の多寡にかかわらず大事にしましょう。何故かと言えば、ご紹介を戴けた時点で、ご紹介者と営業スタッフの間には一定の信頼関係があるからです。そうした信頼関係は一朝一夕では築けません。また、当事者たる営業スタッフが自社クラブの魅力を語るより、信頼関係のある第三者たる紹介者が語る方がより客観的であり、信憑性も増しますので決定率向上に繋がります。こうした信頼関係を持った良き紹介者に恵まれるか否かは、とりもなおさず、最初に申し上げた「敬意・笑顔・感謝、身を切る覚悟を持った熱」を営業スタッフが持ち得るかどうかにかかってくると私は思っています。
決定率のダメ押しと言いますか、「この人達にはどう頑張ってもかなわないなぁ」と感激したのがこの写真です。スポンサー契約を終えて、初めて契約先社長をスタジアムにご招待した際に、試合前ですがゴール裏のサポーター達が手作りで御礼の横断幕を出してくれました。大きな横断幕は、社長がピッチに出てから去るまでの数分だけの為に作ってくれたわけです。そして、それを見た社長の感激の仕方は、私がこの仕事をやってきた中で、未だに一番だったのではないかと思っています。そうなんです。「⑤一番の営業スタッフはサポーター」だと思っています。彼らはクラブから報酬を得ている訳ではありません…それでもチームだけでなくクラブのサポートも惜しまずやってくれる…この時から私の中でファンとサポーターの違いを明確に意識して、特段の礼を尽くさねばと思うようになりました。(グッズにしても良いから買うというだけでなく、クラブへの貢献で散財戴けることも少なくありません。)
さて、往々にしてスポンサードにとても熱心な法人、個人の方がいらっしゃいます。こちらが多くの説明や熱意を施さなくとも「欲しい、買いたい」に繋がる場合、私は逆に「⑥身の丈以上はいただかない」ようにしています。人は不思議なもので、分を超えた投資をしますと、リターン要求が高まるという傾向があります。「(身の丈以上に)これだけ出したのだから」という気持ちは、相手にリターンを求める欲求に変わりやすいということなんだろうと思います。そういう時は、必ず「身の丈で金額は決めて下さい。長いお付き合いの方が大事ですから」と申し上げるようにしています。
何だか営業の話が人生論っぽくなってきましたが、ついでにその手の話をもう一つ。私はクラブを3回変わりました。2回は退任と同時に次のオファーがあり、空白期間を置かないで済みましたが、マリノス代表を退いた後、直ぐにスポーツ界への復帰は叶いませんでした。その1年間、スポーツ事業上の肩書きを全て失いました。メディアさんもスポンサーさんもチームスタッフも、殆どの人が私から離れて行きました。そんな中で「⑦全てを失ってもそばにいてくれる人達」が少なからずおり、彼らの有り難みをしみじみと感じたものです。そうした方々はどのクラブに行ってもスポンサーとして、或いは経営サポート役として、今でもそばにいてくれます。全てを失ってもそばにいてくれる人もやはり「敬意・笑顔・感謝、身を切る覚悟を持った熱」のある私を見ていてくれているのかなと思っています。営業をやっていてそういう方々に恵まれますと、どんな苦労があろうと、断られても断られてもめげずに何度でもお客様の所に足が向くようになります。「買って下さい」を何万回言っても「敬意・笑顔・感謝、身を切る覚悟を持った熱」が失せることはないでしょう。全てを失ってもそばにいてくれる方々は、私の営業の源泉です。
さて、最後になりました。最後は月並に締めたいと思います。「⑧お客様は商品ではなくあなたを買う」という言葉があります。同じ資料で説明しても、最初は100万円の商材を選んだ方が、説明する人によっては300万円になったりします。また、不調に終わった案件が、違う人が行ったら成約に繋がったということもよくある話です。私も1500万円の商材が1時間後に1億円のユニフォーム商材にして戴いた経験があります。また、初めて訪問した1時間後に1億円のユニフォーム商材を買って戴いた経験もあります。どちらも年商300〜800億円程度の法人さんですから、決して安くはない買い物です。そこで言われたのが「私が買うのはあんただよ。頑張りなさい。」トップチームの成績ではなく、地域貢献や福祉活動、青少年の健全な育成を丹念に説く私への投資だと。営業をやっていて一番嬉しい言葉であり、且つ一方では責任の重さをひしひしと感じる言葉でもあります。結局売るのも人、買うのも人です。商売を超えた繋がりを持てる関係に金額の多寡はありません。5万円でも1億円でも、私にかけて戴けるのであれば営業スタッフの本懐を遂げたも同然。そういう気概で歳は関係なく生涯一営業スタッフのつもりで自分を買って戴けるよう、冒頭の言葉通りの仕事を心がければ、道は開けるでしょう。少なくとも私が今も外回りを苦としないのは、そうした経験の積み重ねだとご理解戴ければ幸いです。
【最後に】
本来この後に、対象法人さんの属性別着眼点(これ、肝です!)、共通項の見つけ方、効果的アピールのイロハ、共感ポイントの膨らませ方、交渉段取りの工夫、交渉中の軌道修正ポイント等々、所謂「傾向と対策」的な項が始まる訳ですが、この領域まで来ると、一般の方が読むものとしては少々マニアックですので、前述した通り「講座」でも設けて進めたいと思います。今回は導入部と言いながら、大変長くなってしまったこと、深くお詫び致します。とは言え、世の中の歴史の浅い会社で営業をされている若い方々のお役に少しでもたてば幸いです。
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