『アイデアの接着剤_所詮、大衆ですから』
コロナ禍の影響で、テレワークが当たり前になってしまった今日この頃。だいぶ現在の生活にも慣れてそろそろ飽きてきたところですが、2020年当時はどのように自分を取り巻く環境を考えていたのか振り返ってみたくなりました。以下が2020年11月当時に書き記した当時の心境です。
●リアルではない仮想現実的な現実の生活
ほんの数年前までは、家にいる方が珍しくて、国内外を問わず常にどこかに出掛けていて、それはそれで落ち着かなくて、いつか腰を下ろしてしっかりと思想の深淵に静かに沈潜していきたいとばかり思っていました。その意味では、現在の状況はぴったりです。
しかし、毎朝Macを立ちあげ、メールチェック、リアルタイムPVのチェック、チャットのチェック、メッセンジャーのチェック、LINEのチェック、SNSのチェック……などしながら、メールで届くリリースを記事に仕立てたり、頂いた原稿を配信できる記事のフォーマットに仕上げたり……なんてことをしていると、なんとなく仕事をした気分にもなるし、実際、気がつくと夕方ということもよくあります。
これはこれで、ちょっとヤバイ……。
かつて、本多勝一氏は著者の中で、記者クラブで大本営の発表を賜り、それを記事にするだけの新聞記者を批判していましたが、2020年の現在は記者クラブはおろか、どこにも赴むかなくとも情報は送られてきます。ただパソコンに向かうだけで、テキトーな記事ができあがるのです。そう考えると、まだ記者クラブに赴き、現場の空気感を感じているだけエライということもできるでしょう。つまり、いまの自分はサイテーな輩ということです。
そうはいっても、コロナ禍で仕事自体がなくなってしまうこともあるのですから、自宅に居ながらにして仕事を続けられるというのは、幸せであることに違いありません。
●少なくとも、人の役に立つことがしたい
そこで、せっかくの幸せな仕事でもあるので、手がけた記事が、たまたま読んでくれた人たちにとっても価値あるものでありたいと願うのは、マスコミ業界の最果てにいる良識ある人間なら当然の流れでしょう。
広義においては社内政治もビジネスに入るでしょう。こうした保身に身をやつして、人を蹴落として利権に固執するのも、いうなれば失敗ということでしょうか。なぜならば、それは個人の欲望であって、会社や社会の大義ではないからです。と、その前に、まずもってみっともない。
でも、こうした人がなぜか会社で重用されて、出世するんだよな〜、というのもよく聞くし、よく見かける事例であります。その理由は、その組織のトップが無能である場合が大半です。これまで見てきたいくつかの企業での経験からも、そう断言できます。縮小することはあっても、組織が大きくなっていった事例を見たことがありません。
というわけで、何事も大義がないとダメです(特に政治は)。ビジネスも売れゆき(WEBだとPV数、再生回数、フォロワー数、いいね!の数……などなど)ばかりを指針にするのって、もはや時代遅れと云わねばなりません。だれもが薄々気がついているように、資本主義経済はすでに手詰まりの状況です。数字に踊らされるのもいいですが、大義を忘れてはおしまいです。
●ひとりでできちゃうことの功罪
テレビだけでなく、雑誌も同じく。きちんとプロの校正を雇っているならなおさら精査されている〈可能性が高い〉のです。企画の段階から大勢の人が携わっていることも多く、間違いが少なく信頼に足る場合が多いのです。
しかし、師匠と弟子で構成された工房で描かれていた絵画が、個人でアトリエもしくは戸外で描かれるようになったように、映像や記事がチームではなく個人で作られるようになったと捉えるならば、インターネットは制作と発表の場を広く開放したと言えます。
一部の人のみが持っていた利権を、インターネットが開放したのです。簡単に喩えるなら、個人でテレビ局や出版社に近いことができるようになったとでもいいましょうか。それも少ない初期投資で。
ただし、忘れてはならないのが、こうして個人で作ったコンテンツを効率よくマネタイズするには、やはり大きな力が関与しているということでしょうか。裏を返せば、インターネットの情報は、価値がなくとも広く流布することが可能だということでもあります。
結局は、テレビだろうがインターネットだろうが、情報を見極めることができる個人の力、思想や知性が大切だと云うことになります。
さらに云うならば、文化的にもエッジな人、というかさらに感度を強めていった結果、解脱してしまった人は、情報を発信することさえしないでしょう。流行を広めることに何の価値も見いだせないからです。それこそホンモノの隠遁生活。
SNSで情報を発信しているようでは、もはや時代遅れなのです。
……と、分かってはいても、仕事柄SNS(やインターネットで)情報を発信しなければならないので、時代遅れを覚悟でしばらくお仕事しなければならないことが分かった一冊。
『アイデアの接着剤』水野学/朝日文庫
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