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地域に根差し食文化伝えたい 中国料理「揚子江」店長 今野美穂さん

 石巻市不動町の中国料理「揚子江」の店長今野美穂さん(48)は、東日本大震災の大きな揺れに見舞われた時、中華包丁でサツマイモを切っていた。すぐにスタッフにガスを止める指示を出し、身を隠す以前に従業員や店の安全に全力を尽くした。

 その間、たった1組いた客の老夫婦の奥さんがショックで倒れこんだ。「過呼吸症候群では」と直感した今野さんが、膨らませたビニール袋にボールペンで穴を空け、女性の口元に当てて応急処置。落ち着きを取り戻した夫婦は、車で赤井方面の自宅に向かった。

 その後、大急ぎで戸締りをして一緒に働いていた妹と田道町の自宅に急いだ。「石巻大橋は亀裂が入り、橋のつなぎ目も段差がついていて、道路の上から川が見えている所もあった」。

復興の階段・今野美穂さん

震災前の調度品を生かして店を新築した今野さん

 途中で車がパンクしたのも気付かずにたどりついた自宅は、床下浸水。車やボートが通ると、家の中に波が押し寄せた。「貞山堀から流れてきたんだと思うけど、ウナギとかエビが泳いでいた」という。

 仙台港で開催されていたグルメコロシアムに出かけていた両親とは、すぐに連絡が取れ、ひと安心。両親は石巻まで戻ったが自宅には近づけず、南境の運動公園に車を止めて過ごし、2日後に帰宅した。

 父の功さん(71)と店の様子を見に行ったのは4日後。内海橋には船や家のがれきが乗っていて、不安だったが、建物はしっかり残っていた。3月28日から店内の泥かきを始め、市役所にボランティアの派遣を要請したが、個人宅以外は断られた。

 でも、どこからか情報が伝わったらしく4月3日には16人のボランティアが突然訪ねて来て、作業にあたってくれた。

 大きな転機は、4月14日に中央公民館横で行われた石原プロの炊き出し。ほかの有志とともに裏方に加わった。俳優の渡哲也さん、舘ひろしさんらが気さくに接してくれた。

復興の階段・今野美穂さん、石原プロ炊き出しに参加

震災直後に石原プロの舘さん(中央)らとともに炊き出しに参加

 「ノイローゼ気味だった妹も包丁を持ったら治ったの。皆で集まって包丁を持つ、それだけで気力が湧いてくる。生きる希望、心も復興するっていうのかな。あれで石巻を再開するぞっていうきっかけになったんだね」。涙ながらに皆で食べたまかない飯は、かけがえのない思い出になった。

普通の暮らし続くこと願い 8段目

 復興の階段が10段あるとすると「8段目でしょうか。何気ないいつもの、普通の生活ができることの幸せを学びました」。

 宮城県沖地震、大阪の大学在学中の阪神淡路大震災、そして東日本と3つの大地震を体験した今野さん。営業再開の平成23年9月21日、台風で1メートルの床上浸水に見舞われ、出鼻をくじかれた。

 「また揚子江の料理が食べたい」という多くの声にも背中を押され、4日後の25日にあらためて営業再開。地元の人たちの長蛇の列に大感激した。今年3月には念願の新築オープン。今月で父が創業して40年を迎えた。

 震災で予定より早く2代目社長となって10年。「これからも地域社会とともに発展していきたい。石巻の伝統食文化である鯨を入れたメニューも開発して頑張りたい。息子(6歳)の代につなげたいですね」と声を弾ませた。【本庄雅之】


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