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壮絶極めた15年の大流行 地元の犠牲者は348人

 瞬く間に世界中を恐怖と不安に陥れ、人々の生活までを激変させた新型コロナウイルス。これを機に、過去の感染症への注目が集まっている。今回の状況と酷似した例として100年前のスペイン風邪がよく取り上げられるが、石巻地方では明治期にたびたび流行したコレラも多数の犠牲者を出した。感染拡大を防ぐため最前線で活動したのが医師、警察、そして住民から選ばれた衛生委員たちだった。それらに焦点を当てた「明治時代の感染症クライシス~コレラから地域を守る人々」(竹原万雄著)などを参考に、当時の石巻の様子を探る。【平井美智子】

 石巻市羽黒町の寿福寺に「紀念碑」と刻まれた高さ約3メートル、幅約1メートルの石碑が立っている。建立に至った経緯も碑に記されており、要約すると次のような内容になる。

 「明治15年7月、県内にコレラ病が発生するや本村に流行。8、9月には猖獗(しょうけつ)を極めた。この惨毒(さんどく)にかかり父母、子孫を亡くすもの数知れず。悲哀や号泣の声が巷にあふれた」

 〝本村〟は現在の石巻を指す。また、〝猖獗〟とは悪いものが猛威を振るうことであり、〝惨毒〟は、むごたらしい害毒。疫病の壮絶さが文字の一つ一つから伝わる。

① M15コレラ紀念碑 (3)

寿福寺にある明治15年のコレラ犠牲者のための紀念碑

 コレラは、腐敗した飲食物についたコレラ菌が引き起こす急性激烈な腸炎で経口感染病の一つ。もとはインドのガンジス河口流域の地方病だったが19世紀以降、世界各国に蔓延。日本では江戸末期に流行した。

 発病すると高熱と激しい下痢、吐しゃで体が一気に衰弱し、1―2日で別人のようにしわだらけ。致命率は平均68%以上にのぼった。狐狼狸、虎列刺などの漢字を当てたり〝コロリ〟と呼んだように、当時の人々には恐ろしい疫病だった。昭和46年に石巻市医師会が発行した「石巻市医師会史」によると、石巻地方では文政5年(1822年)に初めてコレラ患者が発生し、その後もたびたび地域を襲った。

 明治期は国内で10―20年代に3―5年おきに流行して28年以降ようやく下火になるまで計6回で計48万5千人以上が感染、33万人以上が死亡した。

 特に12年は感染者が16万人と最も多かったが、このとき幸い宮城県内は免れた。それでも、3年後の15年夏から秋にかけて大流行し患者数は3977人で東京に次いで全国2位、死者数も2361人と同3位となるほどで、感染者のほぼ6割が死に至った。石巻地方も例外ではなく壮絶を極めた。寿福寺の碑はそのことを記録し、物語っている。

 ところで、現在の石巻地方にあたる地域は、当時は「牡鹿郡」と「桃生郡」で構成されていた(市町村制が施行されて牡鹿郡石巻村、門脇村、湊村を併せて石巻町になるのは明治22年)。「明治十五年 虎列刺病流行紀事附録」では死者は牡鹿244人、桃生104人で、町場の石巻などを含む牡鹿郡は仙台などに次いで県内でも3番目に多くの犠牲者を出したのだった。

 「明治時代の感染症クライシス」(以下、感染症クライシス)で主要資料としている「宮城県牡鹿郡虎列刺流行紀事」によると、石巻村で最初に発症者が確認されたのは7月26日のこと。仙台から稼ぎに来ていた作業員で、下宿先には多数の男たちが生活していた。

 情報を受けて郡役所は速やかに患者の隔離、県や周辺郡への報告、感染予防本部の設置など必要な対応を行っている。が、数日後には給分浜、月浦など半島部をはじめ石巻、門脇村にも広がっていった。

明治時代の感染症クライシス
~コレラから地域を守る人々~

 著者の竹原万雄氏は東北芸術工科大学芸術学部歴史遺産学科准教授で、東日本大震災で被災した歴史的資料の救出、保全活動を展開したNPO法人宮城歴史資料保全ネットワークのメンバー。同ネットワークが企画し、仙台市の出版社「蕃山房」発行の「よみがえるふるさとの歴史」シリーズで平成27年に出版された。定価は800円(税別)。

①-2 感染病クライシス (2)

5年前に出版された本

 同書のもととなったのは、救出資料の一つで代々医業にたずさわっていた「石巻市住吉町勝又家資料」。明治15年のコレラ流行時は三代目の昇が県から検疫委員を任じられるなど予防の中心となった。

 資料群の中から「宮城県牡鹿郡虎列刺流行紀事」(控え)などを参考に当時の感染拡大の経緯や最前線に立って命がけで闘った人々の姿を伝えている。


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