開館から半年 来訪者の8割満足 南浜・津波伝承館 他施設との連携が課題
石巻南浜津波復興祈念公園内のみやぎ東日本大震災津波伝承館は、6月6日の開館から半年を過ぎた。新型コロナが再拡大した夏場は1日当たり200人を下回る来館者だったが、10月以降は増加。11月末までの累計来館者は2万7681人となり、展示内容も8割が満足している。しかし、県内沿岸地域には伝承施設が林立。災害の記憶や教訓を伝え続けるという大テーマに対して、各地の施設や語り部とどう連携を図っていくかが問われる。
伝承館では、県全体の被害や復興の歩みを発信。津波の教訓を伝えるシアター「くり返さないために」をはじめ、被害をまとめたパネル展示、県内の語り部団体の活動や震災とその後の復興についての証言映像が視聴できるタッチパネル式の情報端末などがある。被災経験者を含めて、各所に解説員を配置していることも特徴。入館無料で、全てをじっくり見学すれば1時間から1時間半、パネル展示のみであれば約30分の内容だ。
開館した6月は県内を中心に1日平均214人が来館。コロナの感染者が増加した7―9月こそ客足が遠のいたものの、11月は平均267人が訪れた。多くは県外で、修学旅行など団体客が増えている。海外への渡航から、被災地見学に切り替えた学校もある。
今月1日には、茨城県立鉾田第一高校2年生217人が見学。当初は沖縄に行く予定だったという。鶴町春菜さん(17)は「ニュースで石巻のことは知っていたが、展示を通して改めて被害の大きさを知った。現地に来ることで復興への努力を感じたし、震災を伝えなければならないとも思った」と得た教訓を胸に刻んだ。
国から建物を借りて伝承館を開設する県は、来館者にアンケートを行っており、施設全体の評価は最も良い「大変満足」が6割。「やや満足」を含めれば8割が好印象を持っており、震災を学ぶ目的での来館が大多数だった。
展示に関しては「分かりやすくまとまっていた」との評価があり、1カ所で複数の語り部の話が聞ける情報端末にも好意的な感想が寄せられた。特に証言を交えて津波の恐ろしさを伝えるシアターは、「逃げるというメッセージが強く残った」などと満足度が高い。県の担当者は「来てよかったという声が多い。自分の目で見て感じるものがあると思う」と推察する。
一方では、岩手県の陸前高田市にある伝承館に比べて「物足りない」「もっと被災現物があれば」との感想も。もともと建物は管理棟として雨天時の祈りの場などを想定して設計されており、後付け的に本格的な展示施設としての検討が始まった。広さの都合から映像やパネル中心の展示になり、一度に受け入れられる人数も限られる。
全面ガラス張りの作りのため、日が差し込むと見えにくい展示があるほか、シアター内外で互いに音が聞こえてしまう不都合がある。駐車場から伝承館まで、遠いという声も多い。
伝承館は震災を学びに来る人の最初の目的地とし、他の施設にいざなうゲートウェー(玄関、入口)にも位置付けられている。しかし、その機能は情報端末での語り部の紹介やパンフレットの設置などに限られ、不満も聞かれる。半端な感が否めず、それを補う催しや企画、他との連携が欠かせない。
そうした中、民間も7月、県内で活動する語り部を招いた定期の公開講座を開始。しかし、伝承施設は県沿岸部の端から端まであり、泊りがけでなければ、一日で回り切るのは難しい。山元町の旧中浜小学校の震災遺構で語り部をする講師は「思うように伝わらない部分は、実際に見て感じてほしい」と、伝承館での講話などが来訪のきっかけになることを望んだ。
来年4月には、伝承館近くで震災遺構門脇小学校の公開が始まる。さらに民間の伝承交流施設「MEET門脇」があるほか、市内には震災遺構大川小も。門脇小は1時間半前後の展示内容となる見込みで、来訪者はこれらを巡るだけで満足してしまう可能性がある。
伝承館を中心に周遊する場合、施設ごとに異なる休園・休館日も課題。伝承館の担当者は「各地を巡るツアーも始まっている。来館者や伝承に関わる団体などの意見を聞きながら、工夫を積み重ね、ゲートウェーとしての機能を高めていきたい」としている。【熊谷利勝】
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