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サン・ファン・バウティスタ号 「解体しないで」の声 国内外から 保存する会 齋藤祐司代表に聞く

 老朽化したサン・ファン・バウティスタ号の解体に「待った」をかけ、活動を展開する市民団体「サン・ファン・バウティスタ号を保存する会」に、国内外からエールが寄せられている。先日はバ号ゆかりの地であるメキシコ・アカプルコからも思いを伝える書簡が届いた。発足から1年が経過した会の活動について齋藤祐司代表に聞いた。【平井美智子】



 ―保存する会が発足したきっかけと目的は。
  目的は県が決定したバ号の解体を止めて、なんとか現在のままで残していくこと。平成5年に進水した復元船は、50年間保持できるといわれていたのに、わずか30年余りで解体が決定した。なぜ解体なのか、それしか方法がないのか。この結論に至るまでのプロセスが分からない。後継としてFRP(強化プラスチック)製の4分の1サイズを造るという案にも疑問を抱き、有志で活動を始めた。

サンファン保存の会がサンファン館に親書 (34)


 ―なぜ現船保存が重要なのか。
  400年前に太平洋を渡ったバ号は先人の偉業を伝える宮城県民の誇りであり、世界の歴史的文化資産。いかに狭い船倉で大勢の男たちが生活したか、どれだけ過酷だったかなどを知ることができるのは、原寸大の木造船だからこそだ。また、復元当時から「再建造は不可能」とされたほど技術を結集した価値の高いものであり、この船でなければ意味がない。

サンファン保存の会がサンファン館に親書 1 (25)


 ―保存のため署名を集めて県に提出しているが反応は。
  昨年11月に署名活動を始め、今年の2月下旬までに集まった3307人分を遠藤信哉副知事に手渡した。県は「断腸の思い」の繰り返しで、現状のまま保存はできない、つまり解体せざるを得ないというだけ。なかなか耳を傾けていただけない。私たちとしても当初1万人分の署名を目標にしていたが、3分の1までしか集められなかったので、強くは言えないが…。

 ―そもそもバ号の老朽化が明らかになった平成28年の時点で、すでに現状維持は不可能と言われていた。官民の検討委で解体やむなしとなり、昨年2月に4分の1サイズ船を新造することが決定した。保存会の発足はその後で、遅かったのではという声もあるが。
  確かに遅いスタートだったという反省はある。本当は残したいという思いが自分の中にあっただけだった。それが昨年の6月末にサンドウイッチマンの伊達みきおさんが「残すべき」とブログで発信していたのを読んで、同じ考えの人がいるのだと思い、私も地元の石巻人としてSNSに書いてみると、仲間が次々と同調してくれて輪が広がった。その流れで会発足となったので時期がずれてしまった。でも何もしないでただ解体を待つということはできなかった。

 ―動き出したことで各方面とつながってきたと聞くが。
  まず仙台藩士会の皆さんが興味を持ち、有志で活動に加わった。現在の伊達家当主の伊達泰宗さんや支倉常長の子孫の正隆さんらも残す方法をいろいろと調べてくれている。また常長ら使節団にゆかりのあるハポンハセクラ後援会は私たち保存会と連携して積極的に署名活動などを行ってくれている。

サンファン保存 齋藤祐司代表 (7)

アカプルコからの書簡コピーを手にする齋藤代表

 数カ月前は、スペインの通信社記者がバ号の歴史とともに私たちの取り組みを記事にして話題になったようだ。そして最近はメキシコ・アカプルコ市の市民団体関係者からも書簡をいただいた。

 ―どういった内容か。
  アカプルコは慶長遣欧使節団を乗せたバ号が太平洋を渡って最初に上陸した都市。そんな歴史的背景から仙台市と姉妹都市を結んでいて、市民有志も通称「日本のともだち協会」を作って交流事業を行っている。ある時にバ号解体の話を知り、保存してほしいという考えから宮城県に要望する書簡を送った。そのコピーを私たちにも届けてくれた。

 書簡にはバ号が日墨両国間の交流史の大切な一部であり、「当時の日本人の世界的展望は現在にも通ずる教訓が存在している」と私たちと同じ思いをつづっている。県に対して「現在計画している解体に至らず、引き続き展示を」とも訴えている。

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老朽化の著しいサン・ファン・バウティスタ号。県は解体を決めているが…


 ―それに対する県の回答は。
  直接聞いたわけではないが、関係者の話ではどうしても解体しかないということだったらしい。でもそうだろうか。私たちも勉強会を開くなどして「壊さないで現船の形を保つ方法」を模索している。

 例えば、30年前の建造に関わった造船会社OBからは「船体全周をガラス繊維やFRPでコーティングする」や「船体内部にある約50トンの石を撤去して軽くし、プールの水を抜いて船を架台の上に設置してはどうか」といった提案も出されている。

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 ―実現性はあるのか。
 実は大船渡市でも同じような取り組みの例がある。バ号より2年前の平成3年に復元した千石船「気仙丸」で、腐食が進み修繕されることになったが、その方法というのが、やはり表面を液体ガラスで塗装するというもの。広島県の厳島神社大鳥居の修繕でも行われていて、耐久性にも優れているということだ。現在、漁港に係留している船を陸揚げして展示することも決まっている。

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 バ号は9年前の大津波を乗り越えた震災遺構の一つでもあり、その後の暴風でマストが破損した時も、カナダの企業から新しいものを寄贈されるなど、多くの厚意でよみがえった。解体は決まったことといえ、壊してしまったら二度とあんな巨大な木造帆船を目にすることができなくなる。私たちは原寸大の新しい船を造ってほしいと主張しているのではなく、今の船体を生かして残すことを望んでおり、いわば現代の流れに沿った環境に優しい3R(リデュース、リユース、リサイクル)の考えや、世界的なSDGsの潮流にも添えるものだと思う。

 ―保存する会としての今後の活動は。
  当初は東京五輪まで現状維持し、その後に解体ということだったが、五輪が延期になったので予定も変わっている。微力だが、なんとか訴え続けて市民、県民の皆さんの協力を得て輪を広げていくことで、ぜひ、県に再考をお願いしたい。

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