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復興の地で届ける香りと味 震災で人生大きく変化 雄勝交流施設内に悲願の開店

 東日本大震災で、その後の人生が大きく変わった人は多い。石巻市新館の自営業、鈴木拓也さん(35)もその一人。震災で失職した後、9年の間にさまざまな仕事に就き、その経験から今年7月に石巻市雄勝町の観光物産交流館内に喫茶店をオープンした。地域の人たちや観光客らに自家焙煎の高品質なコーヒーを提供しており、鈴木さんは新たな人生をスタートさせた。【渡邊裕紀】

 震災の津波で同市新館にあった鈴木さんの自宅は全壊し、当時働いていた同市魚町の水産加工会社も被災。職を失った後、両親とともに仮設住宅で暮らしながら、がれき処理場で選別作業の仕事に就いた。

 その後、復興応援隊として雄勝地区に通い続け、コミュニティカフェの運営と地域情報誌の制作に携わっていく中、これまで縁遠かった人たちとの交流が深まり、いつしか雄勝では〝メガネの人〟として、なじみの存在となった。

鈴木拓也さん 雄勝にコーヒー店オープン (1)

丁寧な手作業だからこそ出せる本格的な味のコーヒーを届けている鈴木さん

 「そのころから雄勝が第二の古里のようになっていた」と鈴木さん。雄勝に本格的なコーヒー店を出したいと決意したのは、30歳のころ。応援隊の仕事に区切りをつけ、店の経営に向けたノウハウを学びながら同時に技術を磨いた。

 平成27年に両親が被災元地で自宅を再建した後、鈴木さんは敷地内の小屋でコーヒー豆の焙煎を始めた。震災前に勤めていた水産加工会社に再就職しながら、自家焙煎した豆をインターネットで販売した。

 30年には、復興事業で雄勝に整備される観光物産交流館へのテナント出店に声をかけてもらい、二つ返事で快諾。施設のオープンから3カ月後、工事を終えて7月23日に店を開いた。

 店名は「ウズマキ眼鏡珈琲店」。トレードマークであるメガネを名称に取り入れた。地域の人たちや観光客に本格的な自家焙煎コーヒーを提供し、好評を得ており、休日には70杯以上が出るという。仙台市から豆を買いに訪れる人もいる。

 鈴木さんは「店頭での販売は今のところ順調。バイクや車などでドライブのついでに店を訪れる人もいる」と話す。鈴木さんも車好きの一人で、そんなつながりから雄勝まで足を運ぶ人たちもいるという。

雄勝で一息の場に

 雄勝では住宅の高台移転を終え、観光、物産施設も整ったが、道路や堤防整備などインフラ事業は道半ば。新型コロナウイルスの影響で観光客の出足が鈍る中、どのようにして人を呼び込んでいくかが大きな課題だ。

 「観光で訪れた人がホッと一息つける場所、そして地元の人たちが未来を語り合えるような場所になってくれれば」と鈴木さん。自然豊かな雄勝ならではの魅力が唯一無二のまちづくりにつながっていくことを願っている。

 鈴木さんの入れるコーヒーは香り高く、味も繊細。生の豆を選別し、丁寧に焼き上げるため品質の高さが売りであり、これに魅了されて店に足を運ぶコーヒー通もいるという。

 豆を焼き、ひいた豆に渦を巻くように湯を注ぐと、ふっくらと盛り上がりフィルターを通してコーヒーが抽出される。鈴木さんの店には〝雄勝発のコーヒー〟の香りが立ち込めていた。


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