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石巻が育てた天才彫刻家たち 第1部 英吉と達⑪ 時は流れて 90年前を追体験

 私の手元に「常在寺」の写真があります。何度か紹介している「青春の遺作」に、英吉とゆかりのある寺として写真入りで紹介されている寺で、この目で確かめたいものがあり令和元年の秋に訪問しました。

 この日、英吉と達のお子さんによる「現代の初対面」に立ち会い、ほのぼのとした気分になった私は、次にJR日暮里駅(東京)で下車しました。常在寺は駅周辺の寺が立ち並ぶ地域にあります。

1常在寺

英吉が美校時代に住んだ常在寺

 見たかったものは、英吉が美校の4年生から橋本晶と住み始めたこの寺の山門横にあった門番小屋でした。時は流れて新しい街並みになっているだろうと想像していましたが、寺が多い土地柄か、なんとなく昭和の懐かしさを感じました。

 寺に着き、古い写真を見ながら山門右の門番小屋を探しましたが、見当たりませんでした。小屋はすっかりなくなり、本堂への車路になっていました。

 目的が果たせずがっかりしましたが、見たいものはもう1つありました。英吉が、当時の住職のために彫刻した、鶯の鳥籠を入れる木箱の蓋を見ることでした。住職は、鶯の飼育にかけては東京随一と評され、寺では多くの人が集まり、鶯の鳴き声コンクールが開催されたそうです。

 祈るような気持ちで寺の人に、翁が彫刻されている蓋のことを聞くと、誰かの手に渡ってしまい、寺にはないということでした。先々代の頃のことなので英吉のことも含めて、詳しいことは分からないそうです。

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当時の住職に贈った翁彫刻の蓋

 時は流れて、英吉に関するものはなくなってしまいましたが、先々代への感謝の気持ちと未来への期待を込めて、幸子さんから預かった木版画カレンダーと英吉資料を渡してきました。

 小雨が降り始め、ちょっぴり暗い気持ちで山門をくぐると、目の前に古い建物が現れました。案内板には江戸時代からある建物で、昭和初期の「小倉屋質店」を「すぺーす小倉屋」というギャラリーとして開放していると書かれていました。

 寺の周辺をさらに歩くと、古い建物の飲食店「散ポタカフェのんびりや」がありました。店の人の話では、大正・昭和の頃は雑貨屋だったようなので、きっと英吉も買い物に来ていたことでしょう。英吉が歩いた道を歩き、英吉が見た建物を目にすることができ、曇った心は晴れました。

 石巻市複合文化施設が開館し、英吉作品が常設展示されるようになったら、常在寺に手紙を書き、英吉作品と対面してほしいと思っています。幸子さんのカレンダーには「未来の対面」という期待を込めてきました。


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