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石巻が育てた天才彫刻家たち 第1部 英吉と達③ 昭和9年【再会して目にしたもの】

 私の手元に「青春の遺作 高橋英吉 人と作品」という本があります。昭和60年度サントリー地域文化賞受賞記念として出版されたもので、英吉の写真や足跡、作品紹介などが掲載されています。東京美術学校(美校)の2年生で伊達政宗公騎馬像(政宗像)の制作者小室達と初めて会った頃の写真もあります。

 達の日記に再び英吉が出てきたのは、昭和9年美校4年生の時でした。9月20日の主な出来事には「政宗像18日目」とあり、本文に「午後から西村君、石巻の木彫の高橋君見ゆ」と記されていました。

 この頃、達は政宗像を制作していました。高さ4.2メートルの政宗像を作るために2階建てのアトリエを改装。1階の天井を一部取り除き、吹き抜けにしました。制作は3段階に分けて行われ、第1段階で高さ50センチ位の像、第2段階で等身大の像(試作品)を作りました。これを拡大し第3段階で石こう像(原型)を作り、最終的に鋳造しました。

1等身大像

英吉が美校生4年の頃、達が制作していた政宗像

 英吉の訪問時は、制作中の等身大の像を武具や馬の専門家に見てもらった頃です。

 「政宗のかぶとの三日月をつけ直したほうがいい。馬具も直すところが多い」「馬の足の関節はすべて直したほうがいい」などと指摘され、気持ちが落ち込むこともあったようですが、宮城県民のためによりよい作品を作ろうと努力しました。

 英吉はこの日、改装したアトリエに案内され等身大の像を見たことでしょう。当時の写真を見ると、かぶとや武具が細かい部分まで丁寧に仕上げられています。馬の筋肉の感じやたてがみも見事です。

 新しいアトリエで再び達の作品を見た英吉は、この時どう思ったのでしょう。英吉は「いつか自分のアトリエを持ちたい」という夢を思い描いていたので、この日見た光景はいつまでも心の中に残ったのではないでしょうか。

アトリエ差し替え

達が政宗像制作のため改造したアトリエ(杉並区永福)

 等身大の像は現在、竹駒神社(岩沼市)の馬事博物館で展示されています。達はお世話になった馬の専門家に勧められ、神社に納めたのです。館内に入ると金色の政宗像が目に入ります。古い写真では色がありませんが、なぜ金色なのかは神社でも分からないようです。今でも当時の政宗像を見ることができるのは、特別な場所で大事に保管されていたからですね。

 2人の交流について知るため、日記のページをさらにめくると昭和14年、記念すべき年に彫刻家高橋英吉が再び登場しました。

※豆情報 馬事博物館の開館日は正月三が日と特別な日だけなので、確認してからご参拝ください。


筆者プロフィール-01




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