見出し画像

何気ない幸せを自分の手で掴める暮らしが愛おしかった

窓の外から漂う秋の香り。目の前で毛繕いしている猫が眠そうな顔でこっちを見ている。何気ない日常のはずなのに、心がぎゅっと押しつぶされるような痛みを感じるのは、去年たくさん感じた秋の匂いは希望の香りで、今この瞬間に感じている香りがとてつもなく寂しい香りだからだろうか。

「去年はこうだった」と振り返ることが虚しく感じる毎日。思い出そうとすればするほど浮かんでくるのはキラキラとした、今までに感じたことのない日常だった。その時は当たり前に続くと思っていた暮らしは短い期間で終わりを迎えた。

正直、こっちに帰ってきてから「もっと長く住めたんじゃないか」「本当に住むみたいのなら多少貧しい暮らしをしてでも頑張るべきだった」と自分を責めたこともあるけど、「住み続けても楽しくなかったと思う」と毎回答えを出してしまうのは、金沢で暮らす日々は『何気ない幸せを手に入れられるものである』と思っていたからかもしれない。

引っ越す前に仕事を失ってからかなり落ち込んでしまい、向こうで暮らしている日々の多くは悲しみや辛さを感じることも多かったけど、何気ない日常のなかで感じる「金沢に住んでよかった」と感じる瞬間は、実家や地元にすんでいれば感じることのない特別な瞬間だった。

金沢の雰囲気や、街の便利さが好きで暮らしたいと思って引っ越したのだから、自分の生活でいっぱいになったり、気持ちが不安定な時に住む場所ではないと心のどこかで思っていたのかもしれない。

◆◆

「そういえば〇〇のブランドの新作リップが出たんだって」と何気ない話題が出る。「帰りに寄ってみようかな」と話し、メガネ屋のアルバイトの退勤後、歩いてデパートまで向かった。

話に出ていたリップを見て、気になっていたコスメをぐるっと一周見た後、「今日はいいかな」と諦めて、そのまま地下に行き、夜ご飯に食べるお惣菜を探す。

デパ地下でお惣菜を買うことは当たり前ではないけど、なんとなく立ち寄ったときにお惣菜を買ってみたり、今日は疲れたからとちょっと高いチョコレートを買ってみようかとウロウロしたのに、匂いにつられてたい焼きを買ってしまうような…そんな何気ない幸せを自分の手で掴んでいる瞬間がたまらなく愛おしかった。

たい焼きとお惣菜を袋に入れて、街中を15分ほど歩いて自宅まで向かう。
こんな日々は当たり前じゃないけど、たまの贅沢はこれまで頑張ってきた自分を褒めてあげることができる。

画像1

私はこういう生活が好きだった。
便利で生きやすくて、たまに贅沢ができる暮らし。

ちょっと冷めたたい焼きをチンしてからトースターで焼いて、熱いお茶と一緒に飲みながら録画していたテレビ千鳥を観る。そんな日常でしかない暮らしがしたくて、大阪を出て金沢に行った。

そういえば、金沢に行って何度も言われた「車が無いと…」という話を思いだすと、実際に「車が無い!不便だ!!!」なんて感じたことは一度たりともなかった。私はアクティブな方ではないので、能登方面に行くこともほぼなかったし、電車で行ける範囲で済ませればいいと思っていた。

「移住=田舎で暮らす」と思う人もいるかもしれないが、私は便利さと自然の空気を自分の行ける範囲で感じる事が好きなので、思い切って田舎暮らしをする!といったタイプの人間でもない。

もちろん『住めば都』という言葉があるように、田舎や自然に囲まれた場所には住んでみないと分からない良いところがたくさんあるだろうし、私自身も海が近い場所で一度は生活をしてみたいと憧れることもある。でも、これは「憧れ」であって、私の送りたい「生活」とは少し違うのかもしれない。

こればかりは住んでみなければ分からない事なので、最終的に暮らしたいと感じる場所を見つけるまでは、いろんな街や地域に少し住んで、大きく深呼吸してみたり、そこで感じることをnoteに書いていくなどしていきたい。

そんな希望を胸に抱く秋の日。まだまだ帰ってきたことに寂しさや悲しみを覚えることもあるけど、私は「何気ない幸せを自分の手で掴める生活を送ること」が夢だから、今の自分ではダメだと、言い聞かせるて仕事をする。

ストイックだよ。肩の力を抜いてみれば?と言われてしまいそうだけど、これで納得できる私だから、しゃきっとして、いつか夢見る暮らしが"当たり前”になればいいな。

◆◆

これからどんな人生を送るのか、結婚するのか、一人で暮らすのか。
正直何も分からないけど、やっぱり最終的に『好きな街で暮らすこと』は私の大きな目標だから、諦めないためにも今できることをやっていこうと思った日。

郵便ポストに届いた手紙を取るためにちょっと外に出てみると、こっちの空気はこっちの空気で澄んでいるのだと気づいた。たぶん今までは気づかないようにしていた「地元の良さ」も、金沢で暮らしたからこそ少しずつ分かるようになった。少しだけ大人になれた自分にこそばゆさを感じながら、未来でまた何気ない幸せを自分の手で掴むために生きていこう。


大切な時間をいただきありがとうございます◎ いただいたサポートで、サスケにチュールを買います。