一握の希望、叶えた甲子園の夢【正則学園】
東京都千代田区神田錦町三丁目にある私立男子高等学校。
明治時代の英語教育が旧制高等学校入学を目的とした詰め込み式の変則であったことに対して、正則な英語教育を行うという意味から校名は由来。
モットーは創立以来「正義人道」「質実剛健」
政治界では第64-65代総理大臣の「田中角栄」や、文学界では「石川啄木」ら多数の卒業生を持つ。
そんな歴史と伝統のある高校の野球部は、過去に一度「甲子園」に初出場を果たしている。
秋季大会では早々に敗退し、春季大会の出場すら果たせなかったチームの軌跡は当時大きな話題を呼び、数多くの関係者たちの予想外からの到達であった。
1986年の夏季甲子園大会予選である。
前年の秋季大会では、当年西東京大会で決勝まで進んだ元祖「都立の星」強豪の、「都立東大和」に敗れて以降、長い冬を超えての初めての公式戦であり3年生にとっては最後の公式戦。
初戦の東洋戦を２桁得点。完封勝利で勝ち上がると、続く東京電機大高。都立深川を破りベスト16まで進出した。
迎えるは2年前の選抜でPL学園を倒し全国制覇を果たし、当年の春季大会の優勝校である強豪「岩倉」。前評判では岩倉が勝ち上がるものと誰もが予想していた。
だが正則学園は前評判を覆し10 - 5 と点差を勝利を勝ち取り、見事ベスト8に進出を果たした。
準々決勝ではエース・鈴木の好投で東海大高輪台を完封し勝ち上がると、準決勝の二松学舎戦では投手戦を繰り広げると、最終回9界裏に２塁に走者を置くと、右中間を破る長打により見事サヨナラ勝ちを収め、あれよあれよという間に正則学園は初めて決勝まで駒を進めた。
決勝で迎える相手は、この年の選抜大会で初めて春の甲子園の土を踏んだ「関東第一」。選抜初出場に加え、準決勝では「早稲田実業」を相手に打撃戦を制し勝ち上がっており勢いは抜群であった。
勝負は正則学園エースの鈴木の出来次第に委ねられるかと思われたが、その前評判も一変、正則学園の打線が勢いを見せ、まさかのワンサイドゲームを展開すると、10 - 0 と大勝を収め、東東京を制し見事甲子園初出場を果たした。
「帝京」「関東第一」「岩倉」「早稲田実業」の4強時代であった東東京の勢力図をこの年大きく崩し、ある種誰もが予想できなかった優勝であった。
●第68回全国高校野球選手権東東京大会
１回戦 10－０ 東洋
２回戦 ５－１ 東京電機大高
３回戦 ５－０ 都深川
４回戦 10－５ 岩倉
準々決勝 ４－０ 東海大高輪台
準決勝 ２－１ 二松学舎大付
決勝 10－０ 関東一
前試合で三重の明野高校が、徳島の池田高校を下し、異様な空気が余韻に流れる中、ダークホース枠で注目された正則学園の甲子園初陣が幕を開けた。
相手は広島県代表の広島工業。
１回の表、エース・鈴木の固い立ち上がりに広島工業は速攻劇を見せる2点を先取する。
1回の裏、正則学園は先頭打者の大沢が右中間を破る３塁打でいきなりノーアウト３塁のチャンスを作る。
しかし強気の正則学園打線は後が続かず、広島工業エース・上田の前に得点することが出来なかった。
その後鈴木は本来の調子を取り戻すと、互いに中盤まで0点を並べるが、要所要所で確実に繋げていく広島工業打線に7回・8回と広島工業相手に1点ずつ追加点を許してしまう。
対する正則学園打線もエース・上田の前になすすべなくいよいよ勝負は9回の裏に突入した。
１アウトを取られた後、3番・秋山が左中間を破る２塁打で出塁すると、２アウトとなり5番・今村がしぶとくライト前に運ぶと、秋山は勢いよく３塁ベースを蹴り本塁へ突入。最終回で意地を見せ、「甲子園初得点」をもぎ取る。
しかし6番鈴木がセカンドフライに倒れ、ゲームセット。甲子園初勝利は出来なかったが、東東京を勝ち上がった力、初出場を果たした正則学園は話題を呼び爽やかな風を残し甲子園を去った。
●第68回全国高校野球選手権大会（初出場）
【１回戦】
広島工 ２００ ０００ ０１１＝４
正則学園 ０００ ０００ ００１＝１
しかしその後2004年の東東京大会でベスト４まで残った以降、上位まで勝ち進めてはいない。
だが2018年には向井鉱裕（現：日本ウェルネス大学）というプロ注目の右腕を輩出する他、昨年2020年には、東北高校で2009年夏の甲子園に出場しベスト16まで勝ち上がった時の、3番二塁手の國島（東北〜日体大〜伯和ビクトリーズ）が監督へ就任し、再び話題を呼んでいる。
（※写真上：向井鉱裕（現：日本ウェルネス大学）下：國島一平（現監督））
全国屈指の強豪で甲子園を知り、大学、社会人と豊富な実績を積んだ選手の監督就任は、再び正則学園を活性化させ復活するきっかけとなるはずである。