見出し画像

ベースボールの果ての夢


「ただのスポーツ、ただの試合だけど、僕たちの仕事でもあるんだ」


全30球団が最大40位まで指名するMLBドラフト。
故に最大1200人の指名獲得には1日で終わらず、ドラフトは3日間かけて行われる。

画像3

そして野球ファンならば知られている通り「メジャー」を1軍とし、8軍までの階層で組織が成り立つ。
日本のように「社会人野球」というシステムがない、高校・大学卒業時点では戦力になりそうになくても、素材の良い選手は確保しておく必要があるのだ。
指名されなかった選手は独立リーグに進んだり野球環境を探す。

即メジャーの舞台で活躍する選手は数年に1人という割合。
少なくとも数年はマイナーリーグで経験と実績を積む必要がある。

画像2

ルーキー(Rk)
アドバンスド・ルーキー(Rk)*1
ショートシーズンA(A-)
クラスA(A)
アドバンスドA(A+)
ダブルA(2A)
トリプルA(3A)

と階層を上がり、最後に

メジャー(MLB)

という舞台までたどり着くかどうかが勝負。

画像1

そして更に特色的なのが日本の1軍・2軍・3軍システムと決定的に違う点は、マイナーリーグのほとんどチームは、一つの球団として独立して経営されていること。
メジャーリーグの球団とは、提携関係を結んで、昇格・降格など選手の入れ替えを行う(アフィリエイト)

独自の採算性を取っていると言っても何十億・何百億と売上げは困難であり、必要最小限の運営費で、球団を経営していくためには選手の経費を抑える必要がある。ルーキー級の選手の給料は月収850ドル(約8万円)で、3A級では2150ドル(約21万円)の給料で活動し、更には広大なアメリカ大陸を試合の度にバスで横断する為、1000キロ以上の距離をバスで1日で移動して、即試合は茶飯事。

NPBの2軍・3軍よりもより厳しい状況下で選手達はMLBに向けてしのぎを削っていることがこれだけでも容易に分かる。

それでもMLBを目指すにはやはり「プレイヤー」としての目標・名誉も去ることながら、メジャーリーグに昇格して43日経過すると、年間3万4000ドル(約400万円)のMLB年金の受給資格が得られる他、1日でもメジャーに昇格すると終身医療保険がもらえるという経済的なアドバンテージが豊富な事も理由に挙げられる(昨今はコロナ禍により金額の増減有り)

ではアメリカの「独立リーグ」ではどうか。
ちなみに現在日本には25の独立球団が存在する。

●四国アイランドリーグplus 加盟球団一覧
愛媛マンダリンパイレーツ (2005年-)
香川オリーブガイナーズ (2005年-)
高知ファイティングドッグス (2005年-)
徳島インディゴソックス (2005年-)

●ルートインBCリーグ 加盟球団一覧
【東地区(FUTURE-East)】
群馬ダイヤモンドペガサス (2008年-)
埼玉武蔵ヒートベアーズ (2015年-)
福島レッドホープス (2015年-)
栃木ゴールデンブレーブス (2017年-)
茨城アストロプラネッツ (2019年-)
神奈川フューチャードリームス (2020年-)
【西地区(ADVANCE-West)】
新潟アルビレックス・ベースボール・クラブ (2007年-)
富山GRNサンダーバーズ (2007年-)
石川ミリオンスターズ (2007年-)
信濃グランセローズ (2007年-)
福井ワイルドラプターズ (2008年-)
オセアン滋賀ブラックス (2017年-)
●関西独立リーグ 球団一覧
神戸三田ブレイバーズ (2014年-)
06BULLS (2014年-)
和歌山ファイティングバーズ (2017年-)
堺シュライクス (2019年-)
●北海道ベースボールリーグ(HBL)球団一覧
レラハンクス富良野BC(2020年-)
美唄ブラックダイヤモンズ(2020年-)
石狩レッドフェニックス (2021年-)
士別サムライブレイズ (2021年-)
●九州独立リーグ 球団一覧
火の国サラマンダーズ(2021年-)
大分B-リングス(2021年-)
●リーグ未加入球団
琉球ブルーオーシャンズ(2020年-)

北海道ベースボールリーグは選手たちは拠点市で人手不足に悩むメロン農家や地元企業で働き、寮生活を送る。「地域貢献」と「選手育成」を掲げ昨年誕生したばかりである。

※選手たちは昼間、人手不足に悩む地元企業や農家で働く。過疎化が進む地方で、選手は貴重な若者。地元開催のイベントにも積極的に参加して地域に溶け込む。選手は受け入れ先の企業から給料を受け取って生活する。このうち月5万円をリーグへ渡し、リーグは選手の食費や用具代などにあてる仕組み。

関西独立リーグでは、選手達に食住を提供する代わりに他のリーグとは異なり給料は支払われない(※リーグ規定により/別途個人スポンサーなどからの収入は得ることは可能)

平均給料は約10〜15万円。支払われるのはシーズン中のみであり、オフシーズンはそれぞれがバイトをして生活費を稼ぎNPBを目指している。

話を戻す。
アメリカの独立リーグも日本と同じ様に大リーグ機構に属さないリーグである。
メジャーリーグ、及びそのマイナー組織を自由契約になった選手や、日本の選手も大勢参加している。メジャーを自由契約になった選手が参加し、再び契約を勝ち取るなどメジャーリーガーへの登竜門的な組織であることは日本の独立リーグと共通している。

そして現在アメリカには8つのリーグが存在する。

フロンティアリーグ
アトランティックリーグ
カナディアン・アメリカンリーグ
アメリカン・アソシエーション
ペコス・リーグ
パシフィック・アソシエーション
エンパイア・リーグ
ユナイテッドジョアリーグ

1番もらえるリーグでも月収は最大で15万円程であり、過酷なリーグだと月収は2万円というところもある為、選手達はシーズン中でも合間を縫って働き生活費を養う。アメリカ独立リーグは規模が小さく、特に昨今は球団経営が不安定になりやすい。最悪の場合選手への給与をカットされたり、給料未払いもある。

画像4

「フロンティアリーグ」「アトランティックリーグ」は比較的安定しており、またAAAレベルと言われておりMLBに最も近いリーグとされている。言わばまずはこの2つのリーグを目標に、他リーグでプレーする選手も多い。

給与形態や環境面はマイナーリーグと独立リーグで大きく違いはないが、MLB傘下であるかどうかの差は大きい。
マイナーリーグはMLBから供給されるものは独立リーガー達は自腹で揃えていかねばならない。

独立リーグからメジャー傘下のマイナー球団への移籍は珍しいことではないが、頻繁に起こることでもない。
独立リーグからNPBへドラフト指名(育成含む)される割合の方が若干であるが多いのも事実。

だがやはり20〜20代後半の選手が同様多いアメリカ独立リーグでも突出した成績はもちろん、90マイルを常時超える速い球を投げられることや、とんでもなく遠くへ打球を飛ばせること、そうでなければ変則投法やスイッチヒッターや足が速いことなど、いわゆる「一芸」に秀でていることが求められる。

そして現在、日本人選手も各リーグに所属しMLB。そしてマイナーリーグを目指し活動している。

【カナディアンリーグ】

画像6

フロンティア・アトランティックに次ぐレベルの高い選手が多く属するリーグであり、このリーグはアメリカ・カナダに3球団ずつチームを置く。
それぞれ1試合あたりの観客動員数は平均数千人規模。
最低月給は800ドル(8万8000円)で、元MLBのような実力者の中には、5000ドル以上もらっている選手も。

これでも少ないと感じるか、だが試合後の食事は球団側で用意され、また観客動員数も申し分ない辺りは階層の激しいアメリカ独立リーグでは恵まれている方だろう。

【ペコスリーグ】

画像5

一方アメリカ独立リーグで「最底辺」と言われるのが「ペコスリーグ」である。
同リーグのコミッショナーで創設者でもあるアンドリュー・ダンいわく「ペコスという名前はニューメキシコからテキサス西部を流れるペコス川から。このリーグはペコス川の流域をカバーしている」との事。

アリゾナ州、ニューメキシコ州など、アメリカ南西部を中心に行われている独立リーグ。全米を移動するほどの資金はないため、地域ごとに展開されている辺りは日本のシステムと似ている。
ペコスリーグは最も薄給のリーグで、月給約200~400ドル(約2万3000~5万円)
2カ月半でおよそ70試合をこなす過密スケジュール。
遠征になると小さなバンで10時間移動の後、着時すぐに試合、ということもある。遠征先のホテルでは2人部屋を4人で使い、ベッドは2人で1台という過酷なリーグ。
荒削りなプレーが目立ち勢いのある若い選手が多い。
4面フィールドが扇形に広がる施設の1面を借り切って試合を行う。
入場料はたったの6ドル。試合を行うフィールドだけは、パイプを組んだだけの簡易スタンドが並ぶ。
たった2ヶ月半のリーグは7月で終わりを告げる。
時には給料が払えなくなる時もある程経済的にはお世辞にも優れているとは言えない。

時にある選手がホームランを放つと、帽子を持ったスタッフが観客席を回る。ご祝儀のチップを集めているのである。
50人前後の観客数からたった1ドル札で埋まった帽子を被りそれでも選手は喜びを隠しきれないのだ。

このリーグからメジャー球団と契約にこぎつけるのは、シーズンにひとりいるかいないか。しかも契約した選手も、結局は無名のマイナーリーガーとして選手生活を終えることがほとんどだという。

それでも毎年、数名の日本人選手がこのリーグで果てない希望を追いプレーしているのだ。

それぞれのリーグで過酷な環境に身を置き、なお夢を追う選手達は皆同じような景色を描いている。

そしてその中にも海を渡り果てなき挑戦をする日本人のプレイヤーも多く存在するのも事実。

10分もあれば街の端から端まで辿り着いてしまう小さな地域にも野球チームが存在する。それがアメリカ。
「ベースボールの果て」で感じた野球の正体は、国境問わず輝く夢を確かに感じさせ魅了され愛せずにいられない。
だから多くの選手達が目指さずにはいられない。

現在コロナ禍でマイナーリーグの他、このような多くの独立リーグが、そして属する選手達が苦しい闘いを余儀なくされている。

是非ネットでも良い。将来的にでも良い、「ベースボールの果て」で夢を追う選手達の試合を観てみてはいかがだろうか。